「――というワケで、岡本ゼミはじゃがバターかカレーの店をやろうかと思ってんだけどリン、どう思う?」
「好きにすればよかろう」
「石川」
「右に同じ」
「福井さん!」
「自分が、責任者なんだから……」
「あーそうか! テメーらに聞いた俺がわるーござーした!」
やたら声を張り上げるこの男は、今年専門学校だか短大だかから星大に編入してきた高井圭希。星大の大学祭が近付いているということで鼻息を荒くしていると思ったら。
出不精の多いこのゼミで、なんと店をやろうとまたフザケた……こほん、これまでにはなかった案を出して、それを無理矢理押し通しやがった。そして現在はメニュー案を聞いているところだけど。
「じゃがいもマイスターのリンがいればじゃがバターはカタいと思ったんだけどなー」
「誰が芋マイスターだ」
「だってよくゼミ室にじゃがいも持ってくるじゃんか」
「あれは情報センターで押しつけられた物を処理するためだ」
「そう! 俺が期待するのはその人脈! というワケでリン、大学祭シーズンにまたじゃがいもをもらえたり」
「何故このオレがあれに恩を売らねばならん」
高井の相手は同中卒のリンに任せて、俺と美奈はそれを眺めてやれやれと一息。熱いのが一人入ってくるとこうまで賑やかになるのかと、出不精ゼミの空気が煩わしくなるのを感じる。
そもそも、サークルに入っていないリンはともかく、俺と美奈はUHBCもある。まあ、2人とも幽霊部員だけど一応。美奈は1日くらいバイトにも入るだろう。ゼミだけにいるワケにもいかない。
「美奈、実際じゃがバターとカレーだとどっちが現実的だと思う?」
「じゃがバターは、簡単そうに見えて、絶妙な固さに蒸かすのは難しい……それと、芋の質はピンキリ……リンが情報センターでもらってくるような物なら、200円……ううん、300円でも売れる……」
「カレーは?」
「カレーは、大量に作り置き出来るのが利点……ただ、夏は過ぎたとは言え、定期的に加熱しないと、食中毒を起こす危険性がある……」
美奈が言うには、ゼミのブースに付きっきりでいる気がないならカレー作りだけを手伝って当日はバックレるのがいいとのことだった。自分も、サルでも出来るようにレシピを書く準備は出来ていると。
カレーだろうとじゃがバターだろうと、どちらにしても女というだけの理由で調理監修はしなくてはならないのだからと覚悟を決めた美奈だからわかる事情だった。
「……高井君」
「どうしたの福井さん」
「仮にカレーだとして、カレーのルーだけを売るワケではない、でしょ…? カレーライスなのか、ナンをつけるのか……」
「その発想はなかった! さすが福井さんは気が回るしオシャレだな〜! なあリン、ライスとナン、どっちがいい?」
「知らん。そもそもじゃがバターはどこへ行った」
あ、美奈が悪い顔をしてる。普段との違いは一見わからないけどこれは悪い顔だ。気をつけろ高井。俺が言えるのはそれだけだ。このままだと美奈に店を荒らされるぞ。
「それと……」
「ん?」
「普通のカレーだけを売るの…? それとも…? 辛さ何倍とか、メガ盛りカレーを完食出来たら、というような要素もあると、口コミが期待出来る……」
「なるほど! さすが福井さんだ!」
「ほう、ハイリスクハイリターンを狙わせるワケだな。高井、カレーでいいのではないか?」
結局岡本ゼミの店ではカレーを売ることに決まった。ぎゃあぎゃあと盛り上がる高井とリンを後目に、それを遠目で見る美奈と言ったら。
「美奈、やりやがったな」
「……何のこと…?」
end.
++++
軽く年イチくらいの登場になりつつある圭希クンが帰ってきたよ! まあこれくらいの頻度がいいよね。気楽。
そして今回の美奈さんは悪い方。あくまで自分の手を汚さずに楽しむのが美奈流だ! 種を蒔くだけ蒔いてあとはほったらかし。
リン様と圭希クンは同中だけど、クラスが一緒だったとか部活で〜とか委員会で〜というアレもなく、大学で知り合った地元の人くらいの感覚。