「あー、雨だ。かんな、あやめ、乗ってくか?」
バイトが終わった時点で雨が降っていると、俺の車に諏訪姉妹が乗り込んでくるのが通例と化していた。最初の大荒れだったときにそうしたから、傘を差せば支障のない程度の雨の時でもそうするのが普通になってしまって。
「私はこの後出かける用事があるので」
「そうか。あやめも一緒なのか」
「違います」
「あやめ、乗ってくか」
「お願いします」
「はいじゃあ、みんな一度手を止めてもらっていいですか」
「はーい」
「今日は沙都子の誕生日です。沙都子の誕生パーティーを開くための準備をしたいと思います!」
植物園ステージまであと1週間。いよいよ準備も大詰め。机も床もごちゃごちゃしていて足の踏み場もなくなってるけど、せめて机の上だけでもそれらしく、パーティー仕様にしていく仕事を。
さとちゃんは今、買い出しに出かけていて、パーティーの準備をするなら今がチャンスってワケ。一緒に1年生のミラが出かけているのはもちろん仕掛け人。
いつもならさとちゃんがケーキを作って来てくれるんだけど、さとちゃんは祝われる側なので作らせるワケにもね。今回はKちゃんが雑誌とかで評判のお店でホールケーキを準備してくれている。
「はー、暑い。学内の移動ばかりなのにやたら暑い」
「夏ほど冷房がかかっとらんからだろう。情報センターの自習室は冷房もフル稼働しているが」
「今日はマシン系の教室じゃないのが痛かった」
どうやら、徹とリンがやって来た様子。最近では星港でも25度を超える日が増え、日差しの強さも初夏になりつつあった。私は紫外線対策をしつつも、冷房による冷えの対策にも忙しい。
私の背中側では、隣り合った席で2人が手元にあるファイルや紙で風を作っている。履修が似通っている私たち3人。だけど今ほどの講義を私は取っておらず、ここに籠っていた。外は相当気温が上がっている様子。
「おい、いい加減に歌うのをやめんか」
春山さんはとても気持ちよさそうに歌っているけど、それが盛り上がるのに比例して林原さんの眉間のシワが深くなっている。って言うか今日の林原さんは凶悪すぎて!
「やめんかと言っとるだろう! 例によって繁忙期も抜け切らん時期に映画休暇など取りやがって」
「うるせーなあ。へーへー黙りますよ。明後日はライブが入ってんだ。3日後にはそっちを熱く語ってやろう」
「嫌がらせか」
「来たねマー」
「ダイさんお久し振りです〜」
「さ、乗って」
「お邪魔しまーす」
今日はサークルのOBの先輩と出かけることになってんだね。俺は村井博正、向島大学の4年。で、待ち合わせていたお相手の人が俺らから見て2コ上の先輩で、今は通信端末を売りながら司会業やDJをやってたりする水沢祐大さん。通称ダイさん。
4年ともなると就活やら何やらでスケジュールがパッツパツ。だけど、綺麗なお姉さんがどこにいるかわからないから積極的に攻めますよね。ぶっちゃけモチベーションの占める割合はほとんどそれ。ダイさんの車に乗り込んで、さっそく始まるのは近況の話だ。