「あれっ、自販機ちょっと変わりましたねー」
「ホントだね。でもよかったねちかちゃん、デカビタは安定の3列だし」
今日も今日とてバイト中。休憩時間になって食堂に入ると、自販機にはところどころ準備中という文字が浮かんでいた。
倉庫での仕事は軽作業とは名ばかりで結構な肉体労働。仕事が忙しくなるのと比例するようにデカビタとかリアルゴールドとか、ああいう色の炭酸が飛ぶように売れる。
俺も小さい頃からのプール通いで擦りこまれたのか、ああいう飲み物が好きでよく飲んでる。会社の自販機で買うのもそればっかり。
「あっ、ちょっと待ってオレンジの炭酸無くなってるー! 困ったなー、何飲もう」
「伊東さんしか見たことないですよあれ飲んでたの」
「えー、美味しかったのにー」
「その点俺はデカビタメインですからね。ラインナップからは無くならなさそうですし、よかったよかった」
余裕をぶっこく俺に、もー、と伊東さんが怒っている。俺はガコンと落ちて来た瓶を余裕をもって取り出し、伊東さんの選択を見守る。
幸い、後ろに列は出来ていない。まだもう少し悩む時間はある。準備中という文字が浮かんでいるのは補充されたものか新しく入った物。今は買えない。
「えーと、今回入ったのはピーチティーに、グレフルの炭酸に、スポーツドリンク、レッドブルかー」
「伊東さんが好きそうなのならグレフルじゃないですか?」
「てかレッドブル190円とか高っ! こんなの誰が買うの!」
確かに、レッドブルの模型の下には190円というシールが貼ってある。エナジードリンクは高いから俺は手を出したことがないけど、この会社なら或いは。
「でもレッドブルを普通に買うともっとしますよ」
「え、そーなの」
「だからトクホのお茶にしてもそうですけど、会社の自販はちょっとお得ですよね」
コンビニや何かで買うよりちょっとお得なレッドブル。エナジードリンクは命の前借りをするものだとは定例会でそんな話になっていた覚えがある。
脂肪を分解するっていうお茶は、そろそろ体のことが気になる年頃なのか、主任さんや部長さんがよく買っている印象がある。効果のほどは……うーん。
「グレフルまだ準備中だししょうがないからアセロラにしよっと」
「アセロラもおいしいですよね」
「最近ちょっと変わったよねでも」
「え、そうなんですか?」
「デカビタしか飲まない人に言っても意味なかったか」
バイトや派遣の人たちの前に座るパートさんも自販機のラインナップがどうだ、新しい物の味はどうだと品評会をよく開いている。アセロラの話もしていたかもしれない。
とは言っても俺はほぼほぼデカビタしか飲まないから何とも言えないワケで。本当に忙しくなってくると3列展開でも全部売り切れるもんなあ。
「ちかちゃんデカビタ売り切れたら何飲むの?」
「レッドブルは高いもんなー……でもやっぱ炭酸だと思います」
「あれっ、普通に買うよりお得なんじゃないの? 挑戦してみればいいじゃん」
「喜んで買いそうな友達はいるんですけど、俺はお子ちゃまなんでエナジードリンクにはまだ早いです」
「ハタチすぎた子が何言ってんの」
「俺も伊東さんも若者扱いじゃないですかこの会社じゃ」
もしそういうののお世話になるときが来るとするなら、日付も何も関係ない戦場と化したときにデカビタが売り切れていた場合だと思う。
まあ、売り切れてるって最初からわかってたらコンビニとかで買って持ち込むようにすればいいだけの話なんだけど。
end.
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自販機でちょっとお得なレッドブルを喜んで買いそうな友達(しろめ)
さて、ちーちゃんと姉ちゃんのバイト先も忙しくなってきた模様。職場の戦場度合いを見るには自販機を見ろという技も就活関連の話題で見たことがある。
明日辺りレッドブルを実際に買ってみて大学祭シーズンに備えた某友達のお話の参考にしなきゃ