「ぶっは! ウケるー!」
「うわー、こんなこと言う奴とかいんのな! だーっはっはっは!」
課題のためにゼミ室に来てみれば、飯野と倉橋がケータイ片手に大爆笑している。飯野はともかく、倉橋がこんなに馬鹿みたいに笑っているのはあまり見たことがない。相当ツボに入っているのだろう。
「うーす」
「おっ、高崎! ひー、見ろよこれ!」
「あ?」
「何か倉橋が結構前からやり取りしてるらしい男なんだけどさ、ひー」
飯野が俺に突きつけてきたケータイを見てみれば、そこには口に出すのが躊躇われるような口説き文句が並ぶ。つか何だこれ。
ユミちゃん(倉橋の偽名)と話してると元気になるよ、僕に甘えて欲しいな、笑った顔はすごく可愛いんだろうね、どんな時でもその笑顔が僕の支えになるんじゃないかな。などなど。
「……さぶっ」
「高崎は鳥肌派かー」
「倉橋、よくこんなの相手してんな」
「ここまで突き抜けてると逆にもっとネタを引き出してみたくなるよね」
「完全にヒマ潰しじゃねえか」
「アタシも柄じゃないゆるふわ感演出してるから気持ち悪いったらないよね」
「高崎、お前MBCCのアナウンサーで緑大準ミスターなんだからこの口説き文句ガチで言ってみろよ」
「そんな拷問みてェなこと出来るか。あと準ミスターって言うな」
このテの口説き文句を地で言えそうな男なら思い当たる節はあるが、俺は生憎愛の伝道師でもなんでもねえ。惚れた女にさえストレートに好意を伝えることも出来ねえのにそんなこと言えるはずもない。
倉橋は相変わらず例の口説き文句にどう返信しようかなーと悪い顔をしながら考えていて、飯野もそれにノリノリで文章を考えている。ったく、ヒマな奴ら。
「会わないかみたいなことは言われてるけど、会わないよね。めんどくさそうだし」
「つか倉橋、相手の写メとかねーの」
「あるある」
「見して見して! おー、悪くねーじゃん。つかこの顔でこのセリフか。なくはないじゃん。高崎、お前も見てみろ」
「あ?」
――っつって飯野が再び突きつけてきたケータイに目をやれば。ホントコイツどこにでも湧いて来やがるな。顔だけ見ても間違いなくこれは向島の三井じゃねえか。
ただ、率直な疑問としては、三井がこんなに手の込んだ口説き文句を用意できるかという部分だった。三井ならもっと後先考えねえイタさが先に来るはずだ。なるほどな、これは裏に誰かがいる。
「倉橋、何となく相手の男に文体を合わせろ。で、誰々さんって特別な感じとかナントカ適当に上げてみたらどうだ」
「高崎、アンタも嫌いじゃないじゃん」
「心底下らねえとは思うが、俺が見てるのは画面の奥の裏だ」
画面の奥の裏、という一見して意味の解らない話に飯野と倉橋は首を傾げているが、俺からすれば三井自体はさほど問題じゃねえ。
圭斗か菜月か、はたまた村井サンか麻里サンかは知らねえが、この道化を裏で操ってる奴がいるはずだ。俺のヒマ潰しは、裏にいるであろう連中の反応を楽しむことだ。いや、それか、共犯だな。
「誰々さんとラブ&ピースな感じに仲良くなれたらなって思いますーとかどうだ」
「は? ラブ&ピースはないっしょ」
「高崎、お前そのチョイスはどうかと思うぜ」
「画面の奥の裏には効果があると思ったんだけどな、まあいいか。まだ早い」
誰々さん、調子扱いてっと抹殺するぞ、語尾にハート。っていうのの俺なりに捻った文面だったけど、やっぱり一般受けは良くないか。向島風には出来たと思ったんだけどな。
とりあえず、しばらくは泳がせといてここぞというときにぶっこむか。しらばっくれることの出来ねえ状況に追い込みつつな。黒幕が誰かは知らねえが、精々楽しませてもらうぜ。
end.
++++
ホントコイツどこにでも湧いて来やがるな。という例のヤツ。遠い昔に菜月さんが共謀してなんかやってた気がする。
多分、小窓の向こうではなかなか実際に会うところまでは行かないなーってぐぎぎぎってなってる頃。
本人たちの知らないところで高崎と菜月さんが相手を落とす口説き文句を飛ばし合ってると考えると大草原