「節操がない……」
長い電話が切れて、美奈が発した最初の言葉がそれだ。電話の主は奥村さんで、ディナータイムにピアノの生演奏があるような店にはどういう服を着ていったらいいのか、という相談のようだった。
美奈の知り合いにそういう店でピアノを弾いている男(と言うかリンだ)がいるというのは彼女にも知れ渡っていたらしく、そういう友人がいる美奈なら、とのことで相談相手に選ばれたそうだ。
「しかし、世も末だな」
「……徹」
「わかったよ、尾行に付き合えばいいんだろ?」
「菜月、聞いて聞いて」
授業中に擦り寄ってきた三井を一蹴、休み時間にも話を聞けとしつこかったから購買で甘い物を奢らせ、その足で食堂に陣取る。ったく、何なんだ。
「そう言えば菜月、誕生日おめでとう」
「昨日だぞ」
「知ってたんだけど、昨日は会えなかったからね」
「まあ、どーも。でもこのプリンはそれと別件だぞ」
「誕生日のプレゼントはまた今度ね。それでね、今日はね」
「サエちゃん絡みで何かあったのか」