Maniacer's Spiral (R)

「おい、起きろ！」

　まあ、１回声をかけたくらいじゃ起きやしないよなコイツは。一応、アラームをセットしたコンポとケータイが鳴り出すまでに時間はまだもう少しある。ただ、そこは根気よく行きたいところ。
　ひっちゃかめっちゃかだった部屋は辛うじて綺麗に出来た。水周りも昨日死ぬ思いで掃除したし、ゴミも全部出した。傘立て代わりになってるバケツにはこれでもかとペットボトルが突っ込まれてたけど、これも捨てた。
　まあ、帰省するから寝坊しないように起こしてくれというアホな頼みを引き受ける俺も俺だけど、頼む高木も高木だ。と言うか普通は自分で起きるだろっていう。

　自分には残虐な姉が２人いる。１人は双子の姉の冴。星大の２年。こっちは一緒に生まれた分遠慮も何もあったモンじゃない。とにかく奔放と呼ぶのが適してるンすかねェ。
　そして、か弱い自分は当然として、冴も恐れる長女の怜(レイ)。こちらも冴と同じ星大で、現在は４年生。こちらは有無を言わせない雰囲気がある。一言で殺しに来るっつー感じスかね。

「りっちゃん先輩、俺で戦力になりますか」
「ミドリにいてもらわねーと困るンすわ」

　いつもは用がなくてもぷらぷら実家に帰ってくる冴が、年末になっても戻ってこない。っつーワケで怜サマから派遣されたものの、冴の部屋はもぬけの殻。そこで冴のバイト関係の人脈を当たってみたっつーワケすね。

　たまに足を伸ばして風呂に入りたいと思うこともある。年内最後のバイトが終わって、家より先に向かうのは銭湯だ。着替えはゼミ室から拝借してきた。

「すごーい、おっきいねー！」
「烏丸、銭湯には来んのか？」
「そうだね、来たことがあっても覚えてないや。ユースケはよく来るの？」
「さほど頻繁ではない。月に１、２回ほどか」
「え、十分頻繁だよ」

　今日は26日、フロの日ということで入館料が普段より安く設定されていた。オレは回数券を持っていたから恩恵はさほどないが、烏丸はこれに大はしゃぎ。経験が浅いとそんなものか。

「じゃ、乾杯」
「お疲れ様です」

　何と言うか、不思議だとしか言いようがない。午後11時前、高崎先輩とまさかのサシ飲み。俺と先輩の間には、焼いてすぐ持ってきたというピザが１枚。
　これは「半期の番組お疲れさまでした」という体のサシ飲みだ。ご丁寧にも、俺の部屋に先輩が来てくれて開催に至っている(クリスマスは稼ぎ時なんだそうだ)。
　今日で緑ヶ丘大学の秋学期はひとまず中断して、年末年始の冬休みに入る。それと同時に放送サークルMBCCは３年生が引退して、週３回の定期的な活動や昼放送なども終了する。
　俺はこの秋学期、昼放送デビューという場で高崎先輩とペアを組ませてもらった。MBCCの昼放送は必ず枠がもらえるワケじゃないから、名前が呼ばれた時は本当に嬉しかった。

「ん、とうとう完成しなかったね」
「MMPあるあるスからネ、想定内スわ」

　積まれた紙の束とMDに、MMPメンバーは皆一様に絶望感を湛えていた。いや、律が言うように想定内ではあったんだ。だけど、ここまで出来てないとは思ってなかったですよね！

「圭斗先輩、どーしヤす？　ナレーションの三井先輩がいない以上、完成しないスからね」
「と言うか三井先輩は活動最終日なのにどちらへ出かけてるんでしょうかね、まったくもう」
「それは別にいーンすケドどーしヤス？」
「そうだね……よし、緊急特番だ！　どんな毒も抹殺も辞さない深夜番組のノリでMMP10大ニュース！　年末特番は元々外に出すワケじゃないしこれで行こう」