時間を追うごとに、裕貴の表情がどんどん険しくなっているのがわかった。怒りだとか、呆れだとか。普段は表に出さないように努めている物が、とめどなく溢れて隠せなくなっているように思えた。
視線の先にあるのはファンタジックフェスタの北側ステージだ。北側ステージでは星ヶ丘の放送部がステージイベントをやっている。南側ステージはプロのMCたちが舞台を捌いていて、言わずもがな、メインステージは南側だ。
「裕貴、顔がイッてるぞ」
「……このレベルの物で丸一日ステージを占有してしまうとは、主催に対して申し訳が立たないと思ってな」
「そりゃ3週間じゃ無理があるだろ」
「いくら突貫だとしても酷すぎる。学生のステージとは言え、これを見てイベント全体がつまらないと思われてしまっては元も子もない。下手をすれば、部の関係ない明日の集客にも影響しかねない」
その電話を受けた朝霞クンの様子に、これは只事じゃないなというのがわかった。ファンタジックフェスタ当日、俺は自分の番組を終えて余裕を持っていたけど、これから番組をやる朝霞クンはいつも以上に本番前の緊張感を漂わせていた。
ステージ本番前のそれとはいくらか質の違う、そして朝霞クンの力ではどうにもならない力が働いているのがピリピリの中にあるそわそわという様子から見て取れた。大丈夫、と朝霞クンに声をかけたとき、電話がかかって来たのだ。
「……そうか、わかった。まあ、命には代えられないからな」
通話を終えて、朝霞クンは大きく息を吐いた。それ以外には微動だにしていない。
とうとうファンタジックフェスタ当日。私がプロデューサー見習いとして出来ることはまだないけど、ステージは宇部さんの隣で見ながら誰がどう動いているとか、どのパートがどういう仕事をするのかということを勉強させてもらっていた。
宇部さんは自分の班のステージが終わってからもその場所を動かず、次の班のステージも続けて見始めた。部のステージ全体を見るのも仕事のうちなんだそうだ。その仕事に集中するため、タイムテーブルは自分をトップバッターにさせてもらったと。
ひょろひょろぱっぱとステージから楽しい音が聞こえ始めたかと思えば、音の主はあのカンノ。こないだはキーボードだったと思うけど、今日はアコーディオンを担いで壇上に上がっている。その脇では菅野さんがスネアドラムを叩いている。