お題:趣味が悪い


 一生にひとつしか持てないものくらい、もっと高望みしたらいいよ。そう言ったら彼女は何のことやら、本気で分からないみたいだから、やっぱり今のは無しで、と訂正をした。
 空を貫く夏の日射しみたいにまっすぐで、受け止められることを疑いもせずに飛び込んでくる。君みたいなのに付き合えるのなんて、やっぱり僕くらいのものかもね。
「ねえねえ、何色にする?」
「男の衣装なんて何でもいいんじゃないの?」
「何言ってるの。私に世界で一番綺麗なチハヤを見せてよね」
「何? 君って僕の彼氏だっけ?」
 本当にもう、と。呆れて閉じたカタログは、無数の折り目で膨らんでいる。カフェオレはとうに冷めてしまった。底に砂糖が沈殿しているだろう。
 洗濯物を取り込まなくちゃ。手の甲に差した光の橙色に気づいて顔を上げたら、「洗濯物を取り込まなくちゃ」全く同じことを彼女が言った。驚いて立ち上がりかけた姿勢のまま、外に駆け出ていく背中を見る。
「チハヤ! 手伝ってよー」
 一直線に向けられる笑顔に、瞼の奥がじんと眩んだ。きっと一生言わないだろうから、今ここで、聞こえないと知りながら言っておこう。
 高望みを叶えたのは、僕なんだ。草臥れたシャツでも、綺麗なのは君のほうだ。