「袖が……」
「それは酷いな。買い直した方がいいんじゃないか?」
「購買、まだ開いてる…?」
「さすがにこの時間はやってなくないか」
明日、購買で白衣を買うというメモをパソコンのディスプレイの端に貼り付ける。いつの間にか、袖に穴が開いていたし、汚れも酷い。きっと、薬品を扱うときにはねたりしたのかもしれない。細心の注意は払っているのだけど。
パソコンからフラスコまで扱える科学者に。そう掲げるのは国立星港大学理工学部応用科学科、岡本ゼミ。理系の研究室では、夜遅くまで人がいるのもさほど珍しくなく、研究室を実質的住所にする学生もいると聞く。
このゼミにも部屋の“主”と言える存在はあるけど、今はアルバイトをしている。ただ、8時を回ったし、もうしばらくすると帰ってくるかもしれない。私と背中合わせにあるその席が、この部屋の主の席。