菜月先輩は動物全般が苦手だったという風に記憶しているのだけど、だとすると今いる場所はかなりの場違いなのではないだろうか。周りには無数の猫。それらと手元の資料を見比べながら、あれはどの子だと照らし合わせ。
「えっと、あの白いのがコニー」
「コニー」
「白黒がぶっさん」
「ぶっさん」
何を間違えたか、俺たちは猫カフェにいる。食事も楽しめて、猫と気軽に遊ぶことの出来る空間だ。もちろん、自分の家で飼っている猫と一緒に来ることも出来る。本来は会員制らしいけど、会員でない人も入れるサービスデーなる制度がある。
猫カフェに来ることになった経緯は、大学でのこと。かわいい猫を見かけたんだと学内を探し回ること1時間。普段は簡単に出会えるところがその日は一匹も会えず。きっと寒かったからだろう。だけど、その日の菜月先輩はどうしても猫と戯れたかったようで、現在に至る。
どうしてこうなった。例えて言うならそんな感じ。今日は宇部の誕生日で、山口が「店でお祝いしよ〜」と言って今に至っている。いつもの店の、いつものカウンター席で。いつものように飲みながら何でもないことを話す、はずだった。それがどうした。
「はー、ついこないだまで生きとった鶏やー」
「ひかり、やめなさい」
「ぷりっぷりで、つやっつやでホンマ美味しそうやわー」
「それを食べることに抵抗はないのな」
「あくまで食糧よ」
「何か、みんな揃ってるのってすごく久し振りな感じがしますねー」
「どこぞの土田が気紛れで来たり来んかったりするからな」
「やァー、サーセン。烏丸サン家の本が面白いンすわァー」
「それはわかるがシフトには入らんか」
今日は烏丸さんの誕生日ということで、烏丸さんたっての希望で鍋パーティーが開かれることになった。誕生パーティーというものをしたことがなかったそうで、「してみたいなあ!」って。
それくらいならすぐにでも開催してやろうじゃねーかと立ち上がったのが春山さん。会場は俺の部屋。バイトが終わってから、シフトに入ってる人も入ってない人もみんなが集まって。A番研修をしていたカナコさんもいる。
公式学年+1年
++++
「あー、今年も金策の季節がきたしー!」
「デカイよな、参加費15000円って。それと別に小遣いも要るし」
「去年は何とかなったけど、今年は本格的に切り詰めないとなー」
佐藤ゼミの卒論発表合宿は、長篠エリアのリゾート地にある大学の施設で行われる。これが結構なコテージで、シャンデリアが輝いてたりディナーはフランス料理のフルコースだったりする雪山だ。
2泊3日で参加費は15000円。それとは別にスキーがしたければレンタル料金も要るし、お小遣いもあった方がいい。当日だけじゃなくてそれまでの準備にもお金がかかるから何だかんだで3万円弱は必要になってくる。
「あー、意味がわかんねー。これをどーやってレポートにするんだー!」
そう叫んで、飯野はバンと机に手を叩きつけた。パソコンには、これまでに集めた人の集まるイベントの資料。資料と言うか、写真や動画だ。
「つーか見事に冬休みの分しかねえが、地元以外の資料はねえのか」
「ない」
「あ? てめェやる気あんのか」
「やる気は空回りするほどある!」