「みんな、集まったわね。それでは班長会議を始めます」
会議室に集められた各班の班長たち。これから始まるのは丸の池ステージ前としては最後になる班長会議だ。もちろん、早急に知らせる必要のある事柄が発生すれば緊急会議という形で開催されるそうだが、定例会議としてはこれが最後らしい。
しかし、班長会議とはいうものの、日高の姿はない。その理由が俺たち一般の班長に公表されることはなく、今日の会議に関しても日高がいなければ回らないということはないということでそのまま続行されるようだ。
「来週はテスト期間ということで、多くの班が今週の間で準備を詰めていると思います。各班の進捗を聞いておこうかしら。菅野班はどう?」
「ウチは至極順調と言うか、大きな問題はないかな」
「そう。さすがね。その調子で頼むわよ。次、鎌ヶ谷班は」
「ウチか? まー頑張ってるよ。ちょこちょこ微修正は入るかもだけど、後は詰めるだけって感じ」
「ファンフェスよりは見られるステージになりそうかしら」
「当然だぜ! いつから準備してると思ってんだ!」
「ファンフェス終了直後からね」
「だろ?」
「朝霞ー、助けてくれー!」
平常授業がテスト前最後になる今週は、ステージの準備をしたいのをグッとこらえて授業に出席している。いくら丸の池に全てを懸けていると言っても、一応は授業もきちんとやらなければならないという意識がどこかで働いている。それに、レポートのテーマが発表されるのも大体1週か2週前だからだ。
対人関係の心理学という授業の教室で、いつものようにノートとネタ用、2枚のルーズリーフを広げて座っていると、隣に鳴尾浜が滑り込んで来た。鳴尾浜とは同じ学科で、とは言え日頃から一緒に行動しているとかではないが、テスト前になるとこんな感じですり寄られることもある。
放送部にはステージに熱を上げすぎるあまり学業が疎かになって、単位数がかなり怪しくなる奴が一定数存在する。鳴尾浜はその典型だ。ちなみに俺は「3年のステージに懸けたいなら単位は1、2年のうちに取れるだけ取れ」と越谷さんから教わった通りにしてある。そう言うと、大体意外がられる。
「おい、石川」
「ん?」
「情報センターにグミが大量発生した。消費を手伝え」
「お前と違って俺に砂糖菓子を食う習慣はないが」
「いいから食え」
リンが大量にグミの入った袋を寄こしてきた。見るからに輸入菓子という感じのパッケージで、どこの国の物かもよくわからない。ハリボーとかメジャーな物なら見ればわかるけど、そういう感じでもない。
奴は常日頃からポケットの中にチュッパチャプスを携帯している程度には砂糖菓子を好む。タバコを吸っていなければ飴を咥えているという感じで、絶対将来糖尿になるだろう。まあ、奴の健康はどうでもいいけど、問題はこの大量のグミだ。
俺は常日頃からチョコレートを携帯している程度にはチョコを食べるけど、正直甘いものが特別好きなわけではない。チョコレートにしたってミルクよりもビターやダークの方がよく食べてるし。甘いチョコならともかく、グミだなんて。
今日の夜には、圭斗と約束が入っている。厳密には「たまには先輩たちと食事でもどうかな、昼放送の収録の後だし対策委員の話も聞かせたいから野坂も一緒に連れて行こう」という感じの食事会の予定だ。だけど、困ったことが一点。
現在時刻が3時半。圭斗には5時ごろには終わらないかなという風に待ち合わせ時間の目安を伝えていたのだけど、この調子で行くと5時には毛頭終わらないだろうなという予感しかしない。と言うか、収録後に出掛けるからっていうのはノサカにも伝わってるのに通常運転しやがって。
今回の食事会に来られる先輩が村井サンと麻里さんだけだったらまだ話せば通じると言うか、ノサカの悪質な遅刻癖のことも知ってるから諦めてもらえると言うか。だけど、今日はそのお2人の他にダイさんも来るという風に聞いている。これは非常にマズい。
夏合宿の班割りが発表されて、これから始まるのは班員の顔合わせだ。班長から「これからよろしくお願いします」という連絡が最初に入って、そこから顔合わせはいつにしましょうか、という感じで日程調整をするんだ。果林が班長を務める4班の初顔合わせは、無難に花栄のいつものコーヒーショップで。
「――というワケで、これからこんな感じの班でやっていきたいと思います。よろしくお願いしまーす」
「おなしゃーす」
4班は班長が果林、副班長にりっちゃんがいて、あとはうちと3人の1年生という編成になっている。1年生を含めて緑ヶ丘と向島から4人も出ているというのは、6人班としてはかなり異例なんだ。基本、この2校は上手いこと散りばめるのが班編成の基本だったから。
しかも、2・3年が全員この2校から出てるんだ。今年は青敬や星ヶ丘かからもちょこちょこ出てるからそういう連中とミックスするかと予想してたら。さすがにちょっとやりすぎじゃないかと思ったけど、対策委員には対策委員なりの考えや事情があったんだろうとグッと飲み込む。