悪い人は
どこにもいないよ
と、その子はつぶやいた
「生まれたときは
そりゃそうでしょうよ」
「悪い人がまったくいないなら、戦争だって起きてないわよね」
「誰だって裏表くらいあるわ。聖人君子だなんて、笑えてくるわ」
……娼婦たちが厚化粧を施しながら、口々に言った
きっと、その子はとても素直
だけれど、愚かなのだろう
その純真さは、
常に護られていなければ
一瞬にして真っ黒に染まるか
砕け散るだけだというのにね
それを見ながら、ポツリと心の中で、真っ赤な口紅を塗りながら私は思った
けれど、その純真さも素直さも愚かさも
とてもとてもいとおしく想う
嗚呼……砕け散る姿が見たい
どんな高価なモノより、尊く奇麗なのでしょうね
想像するだけで
恍惚とするわ