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妃々季。最終日。





「夏も終わっちまうなー」


進藤君がそう言うから、何となく感慨深くなってたら、和谷君が突いて来る。


「なにー?」

「終わるな、夏休み」

「そーだね」


ショボン。
肩を落としてみせると、和谷君は笑う。


「まぁ、俺たち夏休みなんて無ぇけどな」

「授業もないもんね」


ケラケラ笑われるから、ちょっとお返し。
すると案の定、口を尖らせてまた私を突いて来る。


「別に、俺は学校行きたくなかった訳じゃねぇからな!」

「そうだそうだ!」


何度も突いて来る和谷君と、反対から進藤君にも突かれる。
ステレオで言われるから、思わず耳を塞いだ。


「もー、私が悪かったですー」


今度は私が口を尖らせて。


「分かればいいんだよ!」

「だよ!」


フンっと偉そうに腕を組む二人。


しかし。夏休みが終わってしまう。
学校が憂鬱な訳ではないのだけど、碁漬けな一日が送れなくなると思うと少し淋しい。



「…淋しいなぁ」

「なっ、なんだよ」

「あー、いや。皆ともこうやって会う時間も減っちゃうじゃん」

「…」

「え、無視?」


そう言って両サイドを交互に見ると、どっちも顔を合わせてくれない。
無視じゃん。


「なんだよー」


私の独り言と化した言葉を拾ったのは。


「皆、って僕も含まれますか?」


通りかかったアキラ君だった。
どうやら会話は聞かれていたらしい。


「勿論だよ」


そう笑って返せば、一気にこっちを見た両サイド。
今度は無言で肩をグーパン。しかも二人同時に。


「もー、痛いって」

「妃々季さん、危ないですからこっちに」

「おま!危ないってなんだよ!」

「別に塔矢に関係ないだろ」


アキラ君に腕を引かれて、二人の間から救出される。
ちょっとよろけたのをそっと支えてくれるアキラ君優しい。


「僕も妃々季さんに会えないのは淋しいです」

「お前、なんだかんだでいつも呼び付けてんじゃねぇか」


キュッと手を握られて、うるうるとしそうな目で私を見てくるから無下に出来ない。
確かによく研究会とかで呼び出されるけどね。

私の手を握ったまま、アキラ君は二人と言い合ってたけど、もう何でもいいや。
皆、まだ暑いのに元気だなぁ。




「夏、終わっちゃうなぁ」

朱華。手。




繋いだ手を解かれた。

あの感覚が忘れられなくて。
指が触れるだけで肩が跳ねる。


手を繋げなくなってどれだけ経ったかな。
もう、飽きられても仕方ないのに。
彼はまだ私の隣を離れようとはしない。

私だって、まだ彼が好きだ。

でも、身体は勝手に反応してしまって、それは私の深層心理なんじゃないかって不安になる。

彼だって、このままだったらいつかは離れて行ってしまうだろう。
分かっているけど、やはり手を繋ぐ事が出来ない。

解かれるのは、怖い。

嫌われるのは、もっと怖い。

妃々季。お弁当箱。




補習に行ったら、帰りにアキラ君が呼び止めてきた。
珍しい。

「…弁当箱」

「あ」

そういえばこの前、お弁当押し付けたのを思い出して、差し出されたお弁当箱を受け取る。

「その節は、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げたら、アキラ君は頬を掻いて、目を逸らす。

「…美味かった」

小さな声だったけど、聞き逃す事なく受け取って、顔がニヤけるのが分かった。

「良かったです」

私もつられて、というか少し恥ずかしくて小声で返してしまった。

実は手料理を誰かに食べてもらうのは始めてだったから、不安もあった。
でも、お世辞でもそう言ってもらえたのは凄く嬉しかった。

「でも、あの後大変だったんだからな!」
「え、お腹壊した?」
「ちげぇし」

そこは即答で返されて、ちょっと安心したんだけど、何が大変だったんだろう?
首を傾げると、アキラ君は腕を組んで説教モード。

「あれから…」

アキラ君が言うにはこうだ。
女子趣味な弁当箱を広げるところを、泉君に見られて、問い質されて棘のある言葉を投げられて、ケンカ寸前までいったと。
周りが仲裁してくれてどうにか、酷い言い合いにはならずに済んだらしい。

私の弁当一つがそんな事になるとは…。
迂闊に渡せないなぁ。


「…泉君に渡してみるとか?」
「は?」

思っていた事が口に出ていたらしくて、アキラ君が怪訝そうに私を見る。

「でも、ファンの子に貰ってそうだよね」
「…そうなんじゃね?」
「だよねー」

少し面白くなさげなアキラ君。
確かにファンの子に貰えるとか羨ましいよね。
うーん。


「じゃぁ、今度一緒に食べませんか?」
「なんでそうなったし」
「えー」

話が飛躍し過ぎて、また呆れられた。

「美味しいって言ってくれたから」

また食べてくれるかなと思って。
言葉を続ければ、今度は顔ごと逸らされた。


そんなに嫌か!
ちょっとヘコむなぁ。

青山。かき氷とよくある事。





夏真っ盛り、というのは半月ほど前の話で。
セミも遅い時期に鳴きだすヤツが鳴き散らしだして、朝晩が涼しくなった。
いやごめん、セミっていっても詳しくないんだけどさ。

まぁ、めっきり秋めいてきたって事で。

夏を惜しむように、近場では最後の花火大会が催されるらしい。

俺は特に興味もなくて、仕事が終わったらそっこー家に帰って寝ようと思っていたんだけど。


「行くよね!?」


芦原くんに負けた。
ただでさえ、前日ほぼ徹夜で今日の指導碁に来てるのだ。
…スケジュール管理が甘いのを棚に上げてはいけないけど。
この指導碁だって急に決まった事だから仕方ないよな!って誰に言い訳してんだ、俺。


そんなで。
強制的に付き合わされる花火大会。
男二人で行って何が楽しいのかと。
そんな俺とは裏腹に、芦原くんはウキウキと浮かれた感じで今にもスキップでもし始めそうな勢い。
正直、横を歩くのは恥ずかしい。


「高都君、お腹空いてる?」

「いや、特には」

「じゃーぁ、かき氷ね」


え、なんでそんなチョイスになるの?
半ば押し付けられたかき氷に疑問を抱きながら、仕方なく口に運ぶ。
無難ないちご味。芦原くんはブルーハワイだって。青って食欲減退するよな。
そんな事を思ってたら。


「一口もぉらいー」


なんて、勝手に俺のかき氷にストロースプーンを刺して強奪していく。


「あ」


二人でハモった。
俺のジーパンに芦原くんが掬いきれなかった氷が落ちたのだ。
幸い、目立つ染みにはならなそうだけど、冷たい。


「うわっ!ごめん!」

「あーいや…」

「え、どうしよう!拭く物ないし」

「いや、大丈夫だって」


洗えば落ちるだろ。
そう宥めると、少し涙目で俺を見る。


「かき氷、芦原くんの奢りでしょ?」

「え?…あぁうん」

「じゃぁチャラね」

「でも…!」

「俺が良いって言ってるからいいの」

「…」


そりゃね、無理矢理連れて来られてジーパン汚すとか、災難でしかないんだけど、まぁ夏祭りとかにはよくある事だろうし。
特に気には止めなかった。


夏の終わり。
芦原くんには悔いる思い出が出来たな。

壱基。飲み会に付いて回るもの。



壱基くんって好きな人居ないの?



誰かが言ったその一言が、こんなに場をギクシャクさせるとは思わなかった。

いえ、爛れた生活を送ってる俺のせいなんだけど。


呑みの席。
俺は楽しく飲めればそれでいいんだけど、必ず付いて回るのはその後の誰と帰るか。
だいたい爛れてるから、そのままコトに進んでしまう。
これだけは言っておくけど、俺から誘った事は一度もないからな。
そこ分かってほしいけど、分かったところで爛れてるのは変わらない。さーせん。
断ると後々響くんすよ。


数人の間でパチパチと火花が散りそうな感じになっちゃって。
一言を投下した人は、どうなのどうなのと迫ってくる。

うーん。
この言葉で切り抜けれるかな。


「アイドルは恋愛禁止なんすよ」


そう言えば、場は一瞬静まりかえった。
やべぇしくったか。
そう思った時。


「おめぇ、自分でアイドルとか言うか?」

「そうだよ、アイドルだって。笑える」


火花は散った。
鎮火成功ってとこだな。

好いてもらってるのは大変ありがたいんだけど、やっぱ爛れてちゃ駄目だね。

これからは断る勇気も持たないと…。

って言ってる今日も、誰が俺を送っていこうかと、やっぱり火花は飛び散ってた。

あぁ!!
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