「わー!!可愛いっ!」
今日は仕事が午後からだったんだけど、暇だったので朝からスタジオにお邪魔していた。
そこで遭遇したのは派手モデルの筆頭であるKさん。
久しぶりにお会いするので、それはもう丁寧に挨拶させてもらった。
Kさんはそんなの気にしない感じで、友好的に接してくれる。
ふと。
「ネイル、剥がれてません?」
「え?」
思った事を口にしてしまった。
ヤバい。やっちゃったよ。
そう後悔していると、Kさんは驚いたように自身のネイルと俺の顔を交互に見た。
「本当だー!よく気付いたね!」
「あ、まぁ」
美容に関しては細かい事を気にしてしまう、とは言えず、頬を掻く。
「そういえば成瀬くん、自分でメイクするって聞いてたけど」
「はい、できる限度がありますけど」
「自己流?」
「いえ、この業界に入る前に専門学校に」
「あーそうなんだ」
じゃぁさー、とKさんは笑みを浮かべる。
そしてこうなる。
俺はKさんに頼まれて、彼女のネイルを直すことになった。
派手モデルさんなので、彼女の持つマニキュアやネイルパーツも派手派手だ。
蛍光ペン。第一印象はそうだった。
Kさん、というか。女性陣の楽屋にお邪魔して、テーブルを挟んでKさんの正面に座る。
一旦、今のネイルを落として、ベースを塗って相談しながらパーツを選んでいく。
他の指のネイルとのバランスも考えて、イチゴ等のフルーツでまとめる事にした。
女の子の手に触れるなんてなかなか無い機会に、緊張するのだけど、それを助長するように他のモデルさん達も何事かと寄ってくるから、手の震えを誤魔化すのに必死だった。
なんとか、トップコートを塗って終わり。
はぁ、と止め気味だった呼吸をすると、どれどれとKさんを囲むように他のモデルさん達が集まって来ていた。
「わー!可愛いっ!!」
どうやら気に入ってもらえたらしい。
安堵の溜息を吐くと、後ろから抱擁魔のAさんが抱きついてきた。
振り向かずとも分かるようになった自分…相当だな。
「Kちゃんばっかりズルい!」
「えーっと、機会があったらAさんのもやりますから」
と、Aさんの腕を解き、すり抜ける。
するとAさんは酷く嬉しそうで、約束ねっ!と小指を絡められる。
「純くんと一緒の時にオソロとかよくない?」
それは完全に俺が女装する時の事だ…。
嬉しそうなので水を差すのも気が引けて、こてんと首を傾げてみる。
「ていうか、純くんの撮影って午後からじゃなかったっけ?」
「する事なかったんで来ちゃいました」
「なにそれ可愛い」
何が可愛いのか分からないが、Aさんに手を引かれてスタジオに連れて行かれる。
スタジオ待機していた男装モデルさん達は俺が「男」の格好である事が珍しくて嬉しいらしい。
「両刀っていいよねぇ」
「それなんか語弊ありません?」
「そうかなぁ?」
さっきネイルを仕上げたKさんが撮影に入っていて、笑顔でこっちに手を振ってくれた。
軽く手を上げて返すと、さっきにも増して笑顔でカメラの前に立つ。
空気の切り替えがすごい。
そんな環境に身を置いてるんだよな。
改めて身が締まる思い。