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和泉。会話。南瓜の時期。




「まくらもとにおいてあったの!」
「あぁうん。ディーにもって思ってね」
「ダムはこの前もらったって言ってたから、すごくうれしい!」
「ほんと?良かった」
「和泉には私のほしいもの、分かっちゃうんだね」
「そうかな?」
「そーだよ、いつも気づいてくれる」
「ディーもね、私の欲しい言葉をいつもくれるよ」
「ほんと!?」
「うん。そういう反応、凄く嬉しい」
「へへーっ」
「なんだろうね、ディーもダムも性格は違うのに、相性いいのかもね」
「私、和泉のこと大好きだよ!」
「こっちこそ。大好きじゃなかったら、こうやって頻繁に来ないよ」
「ふふふっ。そーだ」
「ん?」
「私も作ったの、カボチャさん!」
「おぉー!」
「和泉にあげる!」
「いいの?」
「うん!和泉のために作ったんだから」
「ありがとう」

そう言ってると、ディーがうつらうつらと睡魔に負けだした。

「はしゃぎ過ぎたかな」
「うーー」
「今日はもう寝なね。また来るから」
「ふにゅ、わかったぁ。またね、ぜったいだよ」
「うん。今度はケーキ持ってこようね」
「やったぁ…」

ベッドに横になったディーに布団を被せて。完全に寝てしまったことを確認する。



折り紙1枚の幸せ。

藍歌。肝が座る。






パーティの最中、私と景吾さんは紛れ込んだ強盗に、情けなく捕まってしまって。背中に拳銃を押し付けられた私と、それを盾に金庫部屋まで案内させられる景吾さん。
下手に景吾さんが動けば、強盗に撃たれると思ったのだろう。いつもの勢いは無く、大人しく強盗に従った。

地下に連れて来られて、私は柱に両腕を縛られ、身動きは取れない。
同じように景吾さんも床にではあるが、腕を縛られ転がされている。

強盗は外部と連絡を取っているようで、私たちの身代金を要求をしているようだった。
その交渉が上手くいかないのか、若干の苛立ちを抑えれずにいる。
電話に夢中になってる間に、私は普段付けているブレスレットに仕組まれている小型の刃物で、どうにか腕の縄を切る。
ちょっと失敗して手に怪我をしたのはご愛嬌。
強盗が苛々して、電話に夢中になってる間に、景吾さんの縄も切る。
なんで、と言いたげな景吾さんを制して、強盗の動きを見る。
一応私は柱に縛られてる演技を忘れず。

一瞬の隙を突こう。

私たちに背を向けた瞬間を見逃さなかった。私は強盗の後頭部を、近くにあった木材で殴った。

しかし手を負傷で力が足りなかったのだろう。
強盗は後頭部を押さえながらも拳銃を私に向ける。

微かに聞こえる足音。
あぁやっと。


「貴方に私は撃てないわ」


そう言ったと同時に、私たちを囲むようにSPが拳銃を構えていた。
勿論、ウチの護衛の人たちだ。

強盗はすっかり腰を抜かして、地面にへたり込んだ。

その護衛の中には音ちゃんの姿もあって、私の手の負傷を見て、激情したのだろう。近くにいたSPから拳銃を取り上げて強盗に向ける。
その顔は全然笑ってなくて、いつもの音ちゃんとは別人だ。


「止めなさい」
「でも!」
「私は音ちゃんを犯罪者にしたくないわ」
「うーー」

そう言うと、渋々SPに拳銃を返して、私の元に駆け寄る。

強盗はアッサリ捕まった。


「…よく俺たちの場所が分かったな」

景吾さんが怪訝そうに言うので、ネックレストップを引っ掛けて見せる。

「GPS付きです。便利でしょ」
「プライバシーも何もねぇな」
「有事の為ですよ」

音ちゃんが、傷口を舐めようとしたので、それだけは阻止しておいた。
事の顛末に付いて行けなかったのか、景吾さんは呆然と私たちを眺めるばかりだ。



お嬢様には有事が多い。


妃々季。妹に甘い。




「まだ暖房はいれないんですか」

ヒロ兄が私の家に来た時、感心したのか呆れたのか、そう言葉を落とした。

「あ、寒い?」
「あぁいえ、そういう意味ではなくて」
「寒かったら言ってね」
「えぇ」

いつもは棋譜が散乱している部屋は、ヒロ兄が来ると分かって、慌てて片付けた。

「インスタントですが」
「ありがとうございます」

テーブルに、ヒロ兄が比較的好んで飲んでいる紅茶のインスタントバージョンを置くと、親しき仲にも礼儀あり。お礼を言う。

「さて。順調なようですね。雑誌にも載っていましたよ」
「え、ヒロ兄、雑誌買ったの?」
「えぇ、大切な妹の快進撃を見逃す訳にはいきませんからね」
「負けても載るから嫌なのにー。恥ずかしい!」
「恥じる事はありません。負けも成長の糧になります」
「…そうだけど」

私はクッションをぎゅっと抱き締めて、恨めしくヒロ兄を見る。
ヒロ兄は優雅に紅茶に口を付けていた。

「学校の方はどうですか?困ってる事などありませんか?」
「うん、大丈夫。クラスメイトも優しくて、休んだ日のノートとか見せてくれるんだよ」
「そうですか。それはよかったですね」

ふわりとヒロ兄の笑みは柔らかい。
それにつられて私も自然と笑顔になる。

「ただね、」
「どうしました?」
「暖房とかいれると、部屋が乾燥するでしょ?」
「そうですね」
「だからって加湿器つけると、棋譜がふにゃふにゃになって困る」
「ふふっ、それは完全に職業病ですね」

決して馬鹿にしたようにではなく、笑うヒロ兄に解決策を求める。

「それで、暖房はいれないんですね」
「や。私、寒さには強いし!」
「…そうですね、クリアファイルなんかに入れてみてはどうでしょう?そうすれば片付けもしやすいかと」
「そっか、大会ごとにも分けれるからいいかも!」

ありがとう!と笑えば、ヒロ兄も安心したように笑ってくれた。
でもそうすると、膨大な量のファイルになるから、それを収納する棚も必要になる。なんとか今のカラーボックス活用出来るかな。
そんな事を考えていたら、テーブル越しにヒロ兄が頭を撫でてくる。

「片付ける時は手伝いに来ますよ」
「ほんと?」
「えぇ」
「ありがとう!善は急げだよね。早い内に時間作る!」
「ふふっ」

ヒロ兄は楽しそうに目を細めた。





後日、酷く片付いた部屋に居心地が悪くなったのは内緒だ。

伊剣。図書室。先輩と同級生。





図書室で、不二先輩に捕まった。
不二先輩は他にも席が空いてるにも関わらず、俺の隣に座って顔を覗き込むように頬杖をつく。

「あぁ、伊剣くん。本当に綺麗」
「は、はぁ…?」

その繰り返しで、意味が分からない。
綺麗、とは褒め言葉なのだろうけども、素直に喜べない自分がいる。
何度かそのやり取りを繰り返していると、不意に不二先輩の手が俺の髪に伸びてひと掬い。
天パ気味の俺の髪を弄ぶように、指に絡めてみせる。

「ふわふわだね」
「コンプレックスなんですから止めてください」

スパッと言えば、少し驚いたように目を開いたかと思うと、また笑みを浮かべる。

「それも伊剣くんの魅力だよ」
「…そう言われても」
「凄く似合ってる」
「はぁ…、ありがとうございます?」
「うん」

不二先輩はさぞ楽しそうに俺を見つめるけど、俺はその視線に居心地が悪い。
こんなに見つめられた事なんてないから。

「…不二先輩は、本を読みに来たんじゃないんですか?」
「いや、伊剣くんが入っていくのが見えたから追いかけちゃった」

ウインク1つ。あぁなんてサマになるんだろう。
そう感心してると、ふふっと不二先輩は笑う。

「惚れちゃった?」
「え?」
「まだまだか。仕方ないよね」
「何の話ですか?」
「いや、伊剣くんはまだ知らなくていいよ」

気になる。まだ、って事はいずれ知る事になるんだろうな。それまで我慢か。


「不二先輩、何してるんすか」
「越前…」

不二先輩と話してたら、越前くんが不機嫌そうに俺の後ろに立っていた。

「そっか、越前くん、図書委員だったね」

そう思い出すと、更に機嫌を損ねたのか、目力が…。三白眼怖い。

「大丈夫だよ。…まだね」
「伊剣、図書室に来るの暫く禁止」
「え?俺!?」
「他に誰がいるの」
「…」
「伊剣くんと会えなくなるのかぁ。淋しいなぁ」

不二先輩はわざとらしくなのか、俺を抱き締めた。越前くんの表情は見えない。

(中庭で会おうね)

耳元でそう囁かれて、とてもくすぐったかった。
俺は越前くんに頭を叩かれて、不二先輩の腕から解放される。

「嫉妬する越前なんて珍しくてね」

意地悪しちゃった。
と笑みを絶やさない不二先輩。

「じゃぁ、俺はこれで」

そう言い残して、不二先輩は席を立った。


「何してたの」
「話してただけだよ」

越前くんにいくらそう言っても信じてもらえなかった。
嫉妬?
なににそうなるの?



天然フェアリー。

武末。横断歩道。




「武末!」

思いっきり引っ張られた腕。
そのままの勢いで歩道に投げ出された身体。
隣には同じように歩道に転がった和泉。

何事かと。
私はただ歩いていて、横断歩道に差し掛かった所、こうなった。

「…なに?」

意味が分からないまま和泉を見ると、和泉は苦笑いで横断歩道の信号を指差した。

「あ、か信号…?」

私は赤信号を渡ろうとしていたのか?
いや、ちゃんと青である事を確認したはずだ。

「もー、生き急ぎ過ぎだよ」

歩道に座り込んだ和泉は、いつもみたいに笑うかと思ったら、それは苦笑いで何か思い当たる節があるのか。
よいしょ、と年寄りのような声を出して立ち上がる。そして同じく座ったままだった私に手を差し伸べた。

「私なにしたの」

自分では分からないが、和泉はなにか知ってるのだろう。

「うん、ちょっとね。私のせいなんだけど」
「は?」
「もっとちゃんと見てればよかった。ごめんね」

立ち上がった私の肩を撫でて、目を閉じる。
混乱で熱くなった身体が、ヒヤリと冷える感覚。

「…ごめん」

再度、謝罪の言葉を述べると、パンパンと肩を叩いた。

「さ、帰ろう」

投げ出されたままだった互いの鞄を拾った和泉が私に渡してくる。

なんだかしっくり来なかったけど、大人しく鞄を受け取って、今度こそ信号が青である事を確認して横断歩道を渡る。
和泉を見遣れば、やっぱり苦笑いを浮かべていた。





珍しく謝るなんて。
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