スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

夕樹。転入生効果。



3年生の男子が体育の授業で、蹴球をしてるのが窓から見えた。

あ、あの金髪は直樹だ。
とか思っていたら、最近3年に転入してきたらしい生徒に絡んで行くのも見えた。
なにって、簡単にボールをカットされたのが気に入らなかったみたい。
正直言えば、直樹も不良と呼ばれる部類の生徒で、その直樹に喧嘩を売るようにボールを取りに行く生徒なんていなかった。
それが、今回アッサリ。
直樹のプライドも傷つくよね。

そしたら、転入生に直樹が手を伸ばした瞬間。

直樹の体が宙に浮いて、その後すぐ地面に叩きつけられていた。
あ、護身術か。転入生、小柄だからそういうの習ってそう。

直樹が無様に地面で、なにが起きたのか分からないような仕草をしていて、思わず噴き出してしまった。

そしたら、教室中の視線が私に集まったんだけど、残念なことに私も不良生徒認定されてるから、誰もなにも言わなかった。というか言えなかった。教師もそうだからね。どんだけ日和ってんの、飛葉の教師。




昼休み。定番の屋上前の階段に、誰ともなく集合してしまう不良生徒認定されてる私たち。

そんな、吹き溜まりみたいな所に、なんと件の転入生が姿を現した。
なになに、ケンカ?
と思っていたら、一緒に蹴球部を作らないかと、気の抜けるような申し出をしてきた。

優等生と不良集団が?

そう思うとやはり噴き出してしまって、それで不良生徒の中に女、私がいる事に気付いたらしい転入生。
少し困った顔をしたから、別に私は数に入れないでいいよ、と言っておく。すると。

「マネージャーって席がある」

と、私まで誘われた訳だ。
私も柾輝たちのレベルでは蹴球できるけど、そこは男子蹴球部、という事で。


その後、意外にも更生はしていないけど、前ほどヤンチャをしなくなった私たち不良生徒認定は蹴球に本格的にのめり込むのである。

翼様様。
学校ではキューピーとか煩いから、フットサル場に行ったりして精度を上げていった。
私はマネージャー業しか関わらないから少し面白くなかったけど、皆が楽しそうだからいいかって思った。

夕樹。苦手な物はサンドバッグで。



「失礼しまーす」

ノックをした扉を開けて、返事をした人の方へ向かう。

「…生徒会長は不在ですか?」
「えぇ、少し席を外しています」
「じゃぁ副会長でもいいです。これ、今週の報告書です」
「はい。確かに受け取りました」


私は、今会話しているこの副会長、橘遥が苦手だ。
総じて、生徒会長が苦手である。
でも執行部に所属しているのは、あの空間が心地良いから。決してこの人たちの為じゃない。

最低限の会話を済ませて、生徒会室を出ようとしたら、後ろから腕を引っ張られる。
嫌々振り返れば、大型のくせに小型犬のような目をした副会長と目が合う。

「…何の用ですか」
「いえ。お母様が久しぶりにお会いしたいと仰ってましたよ」
「そうですか」
「僕も夕樹さんのような妹が欲しいんですけどね」
「そうですか」
「それは肯定と捉えても?」
「よくないです」



そう。私の母親だった人は今は橘家の妻となり、この副会長の継母になるのだ。
イコール、私は副会長の義理の妹になるのだが、戸籍上はもうあの人は母親ではないし、副会長とは何の縁もないはず。
なのに、この人はこうやって私をからかってくる。
慣れたといえば慣れた。
だが、苛つくのは苛つくのだ。
その表情を見ては、ほくそ笑む、この副会長が嫌いだ。






「あ"ー!!」

何故か執行部部室に備え付けられているサンドバッグ。いや、持ち込んだの私ですけど。
まさか許可が下りるとは思わず。
私はそれに容赦なく拳と蹴りを入れていた。

「荒れてるわねぇ」

和美先輩はそんな事を悠長に言うけど、原因作ったの先輩たちだからね!
今忙しいから、って報告書持って行かせたの!
藤原くんには「野蛮だね」って言われたけど、(仮)に言われたくない。
今はそれだけ、苛立ってる。

「やっぱり、夕樹の生徒会長克服は難しいか」
「そんなに嫌か?まぁ俺も得意じゃねぇけど」

久保田先輩も時任先輩もなんとか私の生徒会嫌いを直させようとしてくれてるのは分かるけど、嫌なもんは嫌だ。





「そろそろサンドバッグが可哀想になってきた」
「許可したヤツ誰だよー」

夕樹。初恋と再会。




初恋の人の夢を見た。
こういうのは初めてで、起きて1人なのに身悶えした。
甘酸っぱい、とても大切な想い出。



「…え?」

今日は学園祭での仕事が入っていた。
学園祭なんて、俺は小さい頃から英才教育というのを受けてきたから縁がなくて。
この前の他の学園祭はドタキャンしたけど、今度の学校は行かなければと、まぁ仕事的に当たり前の事を思っていた。

ビューティ、ラブリーと名乗った男子生徒に案内されて、控え室になってる教室に入る。

不思議な感覚だった。
ここの、護衛?をする執行部という部の生徒は俺を見ても騒がない。
意外で、新鮮だった。


「差し入れですー」

1人の女子生徒が入ってきた。腕には護衛についてる2人と同じ腕章。執行部に女子もいるのか。

「お疲れ様です」
「おぅ、そっちはどうだ?」
「今のところは問題ないですよ」
「このままだといいんだけどねぇ」
「そうですね」

そう言いながら、差し入れのパックを護衛に渡した女子生徒は俺の前にも来た。

「模擬店のものですが、よかったらどうぞ」

同じようにパックとペットボトルを渡してきた女子生徒の顔を見て、俺は固まってしまった。
そんな俺を見て、女子生徒は、あ、と声をあげた。

「紹介遅れました。2人と同じ執行部の黒川夕樹です」
「…黒川…?」
「米谷、の方が馴染みありますかね」

そう言う黒川夕樹は、混乱する俺の思考をかき乱すように笑う。

米谷夕樹…。

俺の初恋の相手だ。
一気に顔に血が上って、思わず顔を覆ってしまう。
慌てているのは俺だけだ。

「米谷って夕樹の旧姓だっけ?」
「はい、もう消滅しましたけどね」

パックの焼きそばやたこ焼きを食べながら、護衛の2人がこっちを見る。
赤くなったであろう顔を隠すが、隠し通せてる自信は正直無い。

は、初恋なんて!

「てかお前ら知り合いかよ」

護衛の片方がそう言う。
チラリと夕樹の方を見れば、ニコリと笑って護衛に、秘密です、と人差し指を口元に当てていた。

「その返しだと否定じゃないんだ?」
「まぁ隠す関係ではないんですけど」

ですよね、工藤くん?
と夕樹は首を傾げる。…相変わらず可愛い。

どうにか、あぁ、とだけぶっきらぼうに返せたけど、夕樹を不快にさせてないだろうか、とか。
そんな事が頭を巡る。
護衛の2人はそんなに興味はなさそうに、ふーんと返すだけ。

ドラマなんかで感情を殺す事には慣れていたはずなのに。
夕樹を前にすると、全て制御が効かない。

「それじゃぁ、ステージ楽しみにしてますね」

クルリと背を向けた夕樹を引き止めそうになった。
そんな事をしてしまえば、台無しだ。


夕樹が居なくなった教室で、護衛の片方が表情の分からない顔で声をかけてくる。

「工藤ちゃん、夕樹に惚れた?」
「はぁ!?」

思わず大きな声が出たが、惚れ直したのは本心だ。図星に慌てて、慌ててるのを悟られないように目を逸らす。

それからは、2人と言い合いになって、一緒に模擬店とか見て回る事になってテンションの上がった俺をマネージャーが回収にきた。
マネージャーの目を盗んで脱走し、誘拐されかけ、結局護衛の2人に助けられたんだけど。

あとで駆けてきた夕樹は俺が無事だと知ると、安心したように笑った。

胸の高鳴りは止まらない。

紙切れに俺のメアドと電話番号を書いて、バレないように夕樹に握らせた。
夕樹は酷く驚いた顔をしていて、悪戯が成功したような達成感を感じる。





その日の夜、夕樹からメールが届いて、また身悶えするのだった。

夕樹。大まかな事。



蹴球ボールを傷付けられて、頭に血の登った翼はヤの付くお仕事をしてそうな人に蹴りを食らわせて。
相手が怯んだ隙に翼を回収して逃げたけど、まさかヤの付くお仕事かもしれない相手にそこまでやれるというのは吃驚だった。
けど、その後みんなで爆笑だった。

それから。柾輝や六助に助けられっ放しの私は、翼に教えを乞うて、護身術を学んだ。
基本的に不意打ちだと翼は言ったけど、その「不意」を探すのはなかなかの難題だった。
でも次第にそれが掴めて来て、柾輝や六助に助けられなくても大丈夫になった。
とはいえ、2人…だけじゃないな。翼や五助、直樹にも心配はされた。
蹴球部の唯一の弱点だった私が、1人で色々出来るようになった事は、みんなが蹴球に打ち込める事に繋がった。それは良かったと思う。

気付いたら精神的にも落ち着いてきてて。
母親だった人が私を養子に出したと知っても、特に吃驚はしなかった。
養子先がイトコん家っていうのもあったかな。


そうして私は柾輝たちとは違う高校に入る羽目になったのだけど、学校は元男子校というのもあって女子生徒が少なかった。
なのでからかわれる事もしょっちゅうだった。
でも、自分の身は自分で守る。翼に教わった護身術がとても役に立ったし、それで他の女の子を守る事もできた。

そんな私の噂が生徒会の耳に入るのはあっという間だった。
久保田先輩と時任先輩にあれよあれよと丸め込まれ、生徒会執行部に入る事になった。

居心地は悪くないんだけど。
ここでも、女子生徒って私1人。でも今までが男所帯にまみれて来たから苦ではなかった。





和美先輩が入ってくれてすごく嬉しかったけど。

夕樹。お仕事。

「やめてください」

そう助けを求めるような声が聞こえて、見回りをしていた私と和美先輩はその声の方に走った。

女子生徒が、不良ですー!って輩に絡まれていた。

「何してるのよ!」

和美先輩が声を上げると、不良さん達は私たちを振り返った。
そしていやらしい笑みを浮かべる。

「なーんだ、執行部の女の子組みじゃん」
「ラッキー」

不良さん達は私たちを見るなり、時任先輩や久保田先輩じゃないことを確認して、ニヤニヤと気味の悪い笑みを見せる。

取り敢えず、絡まれていた女子生徒の腕を掴んで無理矢理こちら側に引き寄せた。

さて。どうしたもんか。

「ねぇ、君たちも、溜まってるでしょ?」
「俺たちとイイコトしようよ」

「する訳ないでしょ!」
「溜まってるって言ったらストレスですかね」

壁にめり込ませそうな勢いで拳を握った和美先輩。その後ろで絡まれていた女子生徒が震えていたから、そっと背中を撫でて落ち着かせてあげる。

「まー、それでもいいや」
「その子の代わりに相手してよ」

伸びてきた手を和美先輩が叩き落とすと、苛立った様子で不良さんは2人がかりで和美先輩を捉えようとする。

なので私の出番。よし、ちゃんと腕章も付いてる。

「和美先輩、しゃがんで」

その言葉に反応してしゃがんだのを確認して、1人の不良さんに渾身の回し蹴りを食らわせる。
食らった不良さんは吹っ飛んだ。

「なっ…」

もう1人の不良さんはその威力に圧倒されて、尻餅をつく。

「女だからってナメないでくださいね」

語尾にハートマークでも付きそうな笑顔で見下すと、不良さんはガタガタと震えているのか、慌てて走り去って行った。
蹴り飛ばした方はまだ伸びていたので、シカトだ。




「大丈夫だった?」

絡まれていた女子生徒に和美先輩が優しく声をかけてかけると、半泣きで何度も頷いた。
気を付けるんだよー、と女子生徒を解放すると、和美先輩はまじまじと私を見てきた。

「どうしました?」
「…威力増してない?」
「そうですかぁ?」
「まだ鍛えてるの?」
「そんな事ないですよ」
「…久保田くん達要らずよね」
「そんな。限度あるでしょー」
「藤原より使えるわ」
「あはは、藤原くんは文系ですからね」


そんな会話をしながら、部室に戻ると久保田先輩と時任先輩が笑みを浮かべて出迎えてくれた。

「夕樹最強説」
「酷い!」





「和美先輩。報告書お願いしまーす」
「えー!」
前の記事へ 次の記事へ