初恋の人の夢を見た。
こういうのは初めてで、起きて1人なのに身悶えした。
甘酸っぱい、とても大切な想い出。
「…え?」
今日は学園祭での仕事が入っていた。
学園祭なんて、俺は小さい頃から英才教育というのを受けてきたから縁がなくて。
この前の他の学園祭はドタキャンしたけど、今度の学校は行かなければと、まぁ仕事的に当たり前の事を思っていた。
ビューティ、ラブリーと名乗った男子生徒に案内されて、控え室になってる教室に入る。
不思議な感覚だった。
ここの、護衛?をする執行部という部の生徒は俺を見ても騒がない。
意外で、新鮮だった。
「差し入れですー」
1人の女子生徒が入ってきた。腕には護衛についてる2人と同じ腕章。執行部に女子もいるのか。
「お疲れ様です」
「おぅ、そっちはどうだ?」
「今のところは問題ないですよ」
「このままだといいんだけどねぇ」
「そうですね」
そう言いながら、差し入れのパックを護衛に渡した女子生徒は俺の前にも来た。
「模擬店のものですが、よかったらどうぞ」
同じようにパックとペットボトルを渡してきた女子生徒の顔を見て、俺は固まってしまった。
そんな俺を見て、女子生徒は、あ、と声をあげた。
「紹介遅れました。2人と同じ執行部の黒川夕樹です」
「…黒川…?」
「米谷、の方が馴染みありますかね」
そう言う黒川夕樹は、混乱する俺の思考をかき乱すように笑う。
米谷夕樹…。
俺の初恋の相手だ。
一気に顔に血が上って、思わず顔を覆ってしまう。
慌てているのは俺だけだ。
「米谷って夕樹の旧姓だっけ?」
「はい、もう消滅しましたけどね」
パックの焼きそばやたこ焼きを食べながら、護衛の2人がこっちを見る。
赤くなったであろう顔を隠すが、隠し通せてる自信は正直無い。
は、初恋なんて!
「てかお前ら知り合いかよ」
護衛の片方がそう言う。
チラリと夕樹の方を見れば、ニコリと笑って護衛に、秘密です、と人差し指を口元に当てていた。
「その返しだと否定じゃないんだ?」
「まぁ隠す関係ではないんですけど」
ですよね、工藤くん?
と夕樹は首を傾げる。…相変わらず可愛い。
どうにか、あぁ、とだけぶっきらぼうに返せたけど、夕樹を不快にさせてないだろうか、とか。
そんな事が頭を巡る。
護衛の2人はそんなに興味はなさそうに、ふーんと返すだけ。
ドラマなんかで感情を殺す事には慣れていたはずなのに。
夕樹を前にすると、全て制御が効かない。
「それじゃぁ、ステージ楽しみにしてますね」
クルリと背を向けた夕樹を引き止めそうになった。
そんな事をしてしまえば、台無しだ。
夕樹が居なくなった教室で、護衛の片方が表情の分からない顔で声をかけてくる。
「工藤ちゃん、夕樹に惚れた?」
「はぁ!?」
思わず大きな声が出たが、惚れ直したのは本心だ。図星に慌てて、慌ててるのを悟られないように目を逸らす。
それからは、2人と言い合いになって、一緒に模擬店とか見て回る事になってテンションの上がった俺をマネージャーが回収にきた。
マネージャーの目を盗んで脱走し、誘拐されかけ、結局護衛の2人に助けられたんだけど。
あとで駆けてきた夕樹は俺が無事だと知ると、安心したように笑った。
胸の高鳴りは止まらない。
紙切れに俺のメアドと電話番号を書いて、バレないように夕樹に握らせた。
夕樹は酷く驚いた顔をしていて、悪戯が成功したような達成感を感じる。
その日の夜、夕樹からメールが届いて、また身悶えするのだった。