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日枝。悩み事。



考え事をしながら歩いていたら、見事に人にぶつかった。すみません!。咄嗟に謝ったら、ぶつかった相手は先輩の四ノ宮さんだった。
大丈夫ですかぁ?。はい、すみませんでした。
ほんわかした雰囲気の四ノ宮さんは怒るでもなく、私の心配をしてくれた。
四ノ宮さんこそ、怪我とか無いですか?。うん、大丈夫、それより鼓立ちゃんこそ、大丈夫?。え?。なんだか悩んでるみたいだったから。…。僕でよかったら相談にのりますよ、話してみませんか?。あー。
折角の先輩の申し出を断る訳にもいかず、大人しく頷く。人生の先輩だし、四ノ宮さんなら秘密も守ってくれそうだ。そう判断して。
場所を変えて、スタジオの隅っこ。内緒話をするように2人で身を寄せた。実際内緒話なんだけど。
人気者の男子に告白されたんですね。…はい。それで鼓立ちゃんとしては答えが出ないと。…はい。でも好きは好きなんでしょう?。…でも友達の範疇を出ないというか、そんな感情のままお付き合いするのも相手に失礼じゃないですか。…そうですね。
そう言ったかと思ったら、突然四ノ宮さんに抱き締められる。!?。思考が付いていかなくて思わず固まってしまう。
四ノ宮さん?。あぁすみません、鼓立ちゃんがあまりにも可愛くて。
可愛ければ抱きつくのか…。私の何が可愛かったのかはわからないけど。
もし、相手の男の子が許すのであれば、このままお友達でもいいんじゃないでしょうか?。そんなものですか?。えぇ、僕がその男の子なら、鼓立ちゃんの側に居れるだけで幸せですよ。…そうですかね?。はい!そうですよ!。

そのまま、四ノ宮さんに抱き着かれていると、スタジオに先輩方が集まってきた。
四ノ宮さん、何してるんですか?。最初に口を開いたのは一ノ瀬さんだった。スキンシップですぅ、トキヤくんもやりますか?。いえ、遠慮しておきます。そして、愛島さんや来栖さんが私と四ノ宮さんを引き剥がして、ひと安心。
シノミー、子猫ちゃんと内緒話かい?。神宮寺さんが目を光らせて私たちを見てくるから、怯んだ私とは正反対に四ノ宮さんは、はい!秘密です。と言い切った。すると神宮寺さんは私に寄ってきて、耳元で、今度は俺とも内緒話しようね。と囁いた。色気のある声に思わず耳を塞ぐ。神宮寺、ふざけが過ぎる。聖川さんが怒ると神宮寺さんは悪怯れるでもなくご機嫌だ。ねぇ!何話してたの!?。素直に訊いてくるのは一十木さんだ。…人生の相談ですかね。小さな声でそういえば、四ノ宮さんも賛同するように目を合わせた。


友達か…。私はちゃんと伝える事が出来るのだろうか。不安でいっぱいだった私を四ノ宮さんは、もう一度抱き締める。
大丈夫ですよ。
そう言われて、少しだけ勇気が出た気がする。次、幸村くんに会った時はしっかり私の気持ちを伝えよう。



応援。

灯色。距離感。




加賀くんは、俗にいう不良さんだ。
中学から一緒の学校だけど、出会った時には既に煙草を嗜んでいた。

そんな彼とは、将棋を通じて仲良くなった。
私が将棋を始めた理由は、話せばだいたい笑われる。
そう。駒の形が好きだったのだ。
そんな不純な動機で始めた将棋だけど、気付けば結構イイところまで上達した。
そこに立ちはだかったのが、加賀くんだった。

彼は、強い。

自信家かと思えば、実力がそれに伴っていて、毎回惜しいところで負けるので悔しい。

そんな加賀くんは、優しい。不良さんだけど。
鈍臭い私のフォローをさり気なくしてくれたり。そういう事が度々ある。
まず自分の鈍臭さを直さねばと思うのだけど、どうしていいのか分からないし。
それを素直に加賀くんに話せば、お前はそのままでいい、と言われた。

そんな付き合いが高校も一緒になって、長くなった。
加賀くんが嫌がる素振りを見せないから、調子に乗って一緒にいたりするのだけど。本当に鬱陶しく思ってないか、怖くて訊けない。

加賀くんと私は、友達だ。と勝手に思ってるんだけど、正直怖いのだ。
今は仕方なく将棋に付き合ってくれたりしてくれてるけど、邪魔くさいんじゃないかとか。

考えれば考えるほど、怖くて不安になる。



「お前、なんかくだらねぇ事で悩んでんじゃねぇ?」

将棋盤越しに、加賀くんがそう尋ねてくる。
ドキリとしたけど、私からしたらくだらない事ではない。

沈黙を返せば、1つ駒を進めてチラリと私を見る。溜息付きで。

「どうせ、お前の大きな悩みなんて、俺にとっては鼻くそみたいなもんだろ」

1つ話してみろよ。
そう言われて、顔を上げれば加賀くんはこっちをガン見してて、目が合う。

「…邪魔、じゃないかなって」
「邪魔?」
「だって、私勝手に加賀くんについて回ってるから。本当は邪魔なんじゃないかなって」
「…お前なぁ」
「だって…」
「ほんと鼻くそだな」
「え?」

私が悩んでる事を素直に話せば、加賀くんは鼻で笑った。

「邪魔ならとっとと追い払うっつーの」

また駒が1つ進む。

「ダチだと思ってる、信じろ」
「…うん」

涙声になるのが分かった。
嬉しかったんだ。


これからは堂々としてていいんだよね?

音パレード。役に立つ。




「お前さ、なんでパーティがある度に俺ら呼ぶんだよ」

何気なく訊いたのは間違いだったらしい。

「なんでって!南んだって藍ちゃんが他の男に取られるの嫌でしょ!」

そう力説されて、俺はどうしていいやら。

藍さんには、ちゃんとした婚約者がいる。
非の打ち所がない、家柄も見合った完璧な婚約者だ。

一庶民の俺としては、お似合いだと思うし、それが藍さんにとって幸せなら、全力で応援するまでだ。

だが、楠本の話ではそうではないらしい。
藍さんという婚約者がいながらも、他の女に現を抜かすという、男としてはどうかという婚約者らしい。
まぁ跡部の事だ。女の方から寄ってくる可能性もあるが、言い寄られて満更でもないらしい。
現に今の庭球部マネとデキてるという。

そんな奴と藍さんが婚約して…と考えるとなんだか怒りしか込み上げない。


それを少しでも妨害しようと、麻生家主催のパーティには俺たちを呼んで、藍さんが他の男とも仲良いアピールをしているらしい。
その度、殺気を向けられるのは俺たちなんだけどな。
一度、男装した楠本が調子に乗って、藍さんの頬にキスした時の跡部の顔は忘れられない。あいつでもあんな嫉妬に塗れた表情をするのか。

「南んたちは藍ちゃんにとってオアシスだよ」

そう言われると照れてしまうが、もしそうなら、少し背伸びしてパーティに参加するのも悪くないと、思わなくもない。



…あぁ。藍さんに盲目だ。

樋崎。act.22。


「それで。樋崎はいつマネージャーになってくれるの?」
「なりません」
「今日もつれないかぁ」
「人を魚みたいに言わないで下さい」
「そういう意味じゃないんだけどね」


漸く、幸村さんの顔がまともに見れるようになって、薬も頓服薬だけで済むようになった頃。
今日も今日とて幸村さんからのお誘い。
いやいや、私マネージャーなんてやんないよ!
週末はスクールの雑用もあるし。

「その気になる確率…」
「そんな確率要りませんから!」

柳さんと幸村さんが私の傍を固める。
そういえば。

「真田さんはそんな事言いませんよね?」

そう。真田さんだけは私に賛同してくれると信じていた。

「…樋崎の気持ち次第だ」

なんだそれ!
私に完全賛同ではなかった事にショックを覚える。
でも2人より私の事を考えてくれてるのは分かって、ほっとした。

私の気持ち次第か。
ちょっと嬉しくないなぁ。


「真田さんだって、樋崎が欲しいって言ってたじゃない」
「それは…そうだが、無理にとは言っておらん!」
「俺たちだって無理に言ってる訳ではない。それは弦一郎も分かっているだろう」
「…うむ」


え、なんか真田さん丸め込まれてない?
止めてよ、私の味方…。


「と、とにかく。私はマネージャーにはなりません」

…手伝いはするかもしれないけど。
とは続けられず、私の心の奥にしまっておく。




「よー、樋崎。今日も部長の誘い断ったんだって?」
「なんか聞こえ悪いよ、切原くん」
「事実だろ」
「…そうだけど」
「いい加減、マネージャーになれよな」
「ならない!」


皆してなんなんだ!

都筑。似てるところ。




「都筑さんって、鬼灯様に似てるね」
「え?」

シロさんが突然そんな事を言い出した。
鬼灯様と俺…?

「ないない!それは断じてない!」
「えー」

シロさんは不満そうに、俺に戯れついてくる。
まぁモフモフ気持ちいいから撫でちゃうけどね。

「だって俺、あんなに仕事出来ないし」
「でも俺と遊んでくれるじゃん!」
「それは貴方が…」

無理矢理とは言えず、黙ってしまったのだけど。

「それに呼び方!同じじゃん!」
「呼び方は仕方ないでしょう。大の大人がシロちゃんなんて呼んだら気持ち悪い!」
「そーかなぁ。俺は嬉しいけど」
「そうですか?」


「盛り上がってますね」


後方から、何とも振り返りたくない声が聞こえた。やばい、ひと休憩が長過ぎたんだ…。

「あ!鬼灯様!」

シロさんは一目散に鬼灯様にダッシュしていく。
俺は怒られるのを覚悟で、シロさんの後に続いた。

「すみません。休憩が長過ぎました」
「何を言ってるんですか。根を詰めるのはよくありません」
「ですが」
「私も休憩しようと思ってたところです。一緒にどうですか?」

完全にノーと言えない空気に、俺は頷くしかなかった。

「何の話をしていたのですか?」
「あぁ、鬼灯様と都筑さんって似てるって話です」

シロさん止めて。それ鬼灯様に失礼だから!

「私と都筑さんがですか…」

鬼灯様は少し考えたようにして、俺を見た。

「だと嬉しいんですけどね」
「え?」

何だか意外な言葉を聞いた気がする。

「俺なんてまだまだですって話をしてたんです。仕事も捗らないし」
「それは捗らないのではなく、1つ1つを正確に間違いないようにチェックしてるからですよ。時間がかかって当たり前です」

うーん。褒められたのか何なのか。
シロさんは鬼灯様にモフモフされて、気付けばご機嫌だ。

「そうだ!」

突然シロさんが飛び上がって、今度は俺の足に擦り寄ってきた。

「都筑さんの撫で方も鬼灯様に似てるんだ!」

そう言われて、しゃがんでシロさんを撫でると心地好さそうに目を細めた。





しかし。鬼灯様と似てると言われるとは…。
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