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笹木。天然少女2。



唇にむにっと指を当ててみた。
あの時やっぱりキスされたんだと、自覚する。


「宇宙」

名前を呼ばれて振り返ると、幸村さんが片手を軽く上げていた。

「こんにちは」
「うん。よく眠れた?」
「? はい」
「そっか。よかった」

今日に限って睡眠について訊かれた。
特段変わった事もなかったので、流したんだけど、幸村さんの表情は浮かない。

「幸村さん、何かありました?」
「あれ、顔に出てたかな」

少しだけ寂しそうに言う幸村さんに、検査の結果がよくなかったのかな?とか、良くない事が浮かぶ。

「…宇宙がそんな顔しないで」
「え?」

気付けば、私が神妙な面持ちになっていたらしい。
いつもみたいにふふっと笑った幸村さん。けどやっぱり何処か寂しそう。

「実はね、退院が決まったんだ」
「え!おめでとうございます!」
「…それが素直に喜べない自分がいてね」
「なんで!?せっかく普通の生活に戻れるのに!」
「…宇宙」

前のめりになってしまう身体と、気持ち。
幸村さんが、くしゃりと私の髪を撫でる。どうして退院するの嬉しくないのかな。私にはサッパリだった。
そしたら、幸村さんは意外な言葉を紡ぐ。

「退院したら、宇宙ともこんな風に頻繁に会えないだろ?」
「え?…そうですね」
「それが寂しいんだよ」

寂しそうだったのはそれだったのか。合点がいって、それでも首を傾げる。

「幸村さん」
「なに?」
「私なんかより、生活に戻れる事を喜んで下さい」

やっと、庭球できるんですから!
そうガッツポーズをしてみせると、やっぱりふふっと笑う幸村さん。

「宇宙は強いね」
「え?」
「…なんでもないよ」

また髪を撫でられて、自然と目を閉じてしまう。
幸村さんにこうやって撫でられるの好きなんだぁ。こんなの幸村さんのファンに知られたら恨み買っちゃうよな。

「宇宙は寂しくないの?」
「幸村さんが退院する事ですか?」
「……いや。今の忘れて。ズルい事訊いた」
「私はハッピーですよ!幸村さんがまた庭球できるんですから」

ただ、私はその姿を見る事は出来ないけど。
そう思うと少し寂しいけど、幸村さんが大好きだった事ができるのなら、それでいい。

「宇宙…」
「ぶちょー!!」

幸村さんが何か言いかけた時に遠くから男の子の声がした。
部長って幸村さんの事だよね。
多分、面会の人たちだ。私は邪魔にならないように退散しようとしたら、幸村さんに車椅子の取っ手を掴まれて、叶わなかった。なんで?

「赤也、病院では静かにしろ」
「ふふっ、相変わらず元気だね」

わやわやと何人かの男の子のたちが幸村さんのところに集まってくる。
ジャージ姿って事は、部活の人たちかな。
今度こそ、と車椅子を動かそうとしたら、最初に幸村さんを呼んだ声が私に気付いた。

「部長、その人は?」
「あぁ」

それをキッカケに、男の子たちの視線が私に向く。
うわ。すごく気まずい。

「この子は笹木宇宙ちゃん。俺の病院仲間だよ」

そう紹介されて、思わず頭を下げると、男の子たちも自己紹介をしてくれた。

真田さん、柳さん、切原さん。
どうにか名前を覚える。幸村さんの部活仲間らしい。

なんだか、切原さんにしげしげと見つめられて目を合わせれずにいると、彼は突然声を上げた。

「そうだ!シグマのソラ!」
「えっ!」
「やっぱそうだー」

「赤也、どうしたの?」
「あぁ、この人音楽やってる人っすよ!」

うわー、有名人初めて見たわ。
なんて言い出して、私は大変気まずい。
3人の刺さるような視線に、耐えられそうにありません。

「…そうなの?宇宙」
「あー…はい」

皆の視線から逃げるように下を向くと、また頭を撫でられる。

「赤也が先に知ってたのには妬いちゃうな」
「俺たちはそういうのには疎い方だからな。俺も情報不足だった」
「まず、名前を呼び捨てなど、たるんどる」

それぞれが口を開くから、混乱していると切原さんは真田さんから逃げるように、私の後ろに隠れる。
すっごく気まずい。

「真田、宇宙を睨まないでやってくれるかな」
「そんなつもりは…」
「ほら怯えてるじゃないか」
「あ、いや私は」

大丈夫だと、大丈夫じゃないけど伝えようとしたら、真田さんに謝られた。
いや、そんな!

それから、差し入れだとスイーツを持ってきていた真田さんたちは、4人分しかないそれをみて気まずい事になった。
別に気にしなくていいのに。

真田さんたちの登場で、幸村さんの寂しさも紛れたよ…ね?

笹木。天然少女1。

気付いたら、生徒会長の顔が目の前にあって、思わず目を瞑った。
そしたら、唇に温かな感触。
驚いて目を開けると、生徒会長の顔が離れて行くところだった。

…え?


「…生徒会長?」


意味が分からずにいると、

「名前で呼べ」

とだけ告げられて、困惑。
急かすような目に流されるように口から言葉が滑り落ちる。

「…跡部…さん…?」

少し不満そうな顔をした生徒会長 基 跡部さんは仕方なさそうに私の頭をぐしゃぐしゃにする。

「今はそれで勘弁しててやる」


…どういう意味だろう。
いやその前に、何故私は跡部さんに…その…キスされたのだろう。

跡部さんとは、特に接点もなく、学年違うし、部活だって違う。
庭球部はファンの子がたくさん張り付いてるから遠巻きにその勢いに感心してるくらいで、本当に接点がない。
だって、私さっきまで「生徒会長」って呼んでたんだよ。

それがどうだ。
入院したら、突然お見舞いに来て、今に至る訳だけど。
お見舞いは、生徒会長のお仕事の一環で、入院した生徒の所には必ず顔を出すようにしてるんだと思ってたけど、違うらしい。
じゃぁ、なんで私の所には来たんだろう。


跡部さんが去った中庭のベンチの横に車椅子をつけて座っていると、最近お知り合いになった幸村さんが顔を出した。

「…跡部が来てたみたいだね」
「幸村さん、お知り合いですか?」
「本当に宇宙は何も知らないんだね」
「え?」
「俺、跡部と同じ庭球部の部長同士でね」
「そうだったんですね」
「…で」
「はい?」
「宇宙は氷帝だったね。跡部と付き合ってるの?」
「は、?」

幸村さんが唐突にそんな事を言い始める。なんでそうなるんだろう。
不思議に思ってると、今度は幸村さんが怪訝そうにこっちを見る。

「あの跡部がお見舞いに来るなんて珍しいからさ」
「そうなんですか?」
「…自覚無しかぁ」
「え、人を天然みたいに言わないで下さい!」
「うーん。鈍感の方が合ってるかな」
「なんでそうなるんですかー」


車椅子から幸村さんを見上げると、幸村さんはすっごく優しく笑っていた。

「それに私、跡部さんとは接点ないんですよ!」
「それじゃぁ益々…」
「え?なんですか!?」
「いや…なんでもないよ」

優しく笑ったまま、幸村さんが車椅子の取っ手に手を掛けた。

「そろそろ病室に戻ろうね」

なんだかはぐらかされたんだけど、確かに夕日も沈みかけていて、辺りは夜の匂いがし始めていた。


…キスされてたの、幸村さんに見られてたのかな。

青山。草鞋を脱ぐ。



「だぁぁぁ!また負けかよ!」

倉田が大声を上げるから、その場にいた人たちは大注目。

「倉田五月蝿い」
「うっせ!」


二足の草鞋を辞めた俺は、碁に打ち込む時間が増えて、成果が出始めた。
まだ正式なものではないけど、倉田には勝ちが続いている。
その度に、次こそは勝つからな!と次の約束を取り付けられて、こうやって碁会所で打つことが増えた。

そして、気付けば倉田より一段上に昇格してしまったのだ。これは正式に。
これには倉田の眉間にシワは寄りっぱなしで、手がつけられない。

「なんだよ、この前までチャラ男だったくせに」
「なんだよそれ」

碁石を片付けながら、倉田はブーブーと口を尖らせる。
俺はチャラ男と言われて、苦笑い。
確かに二足の草鞋だった頃は、今に比べてチャラかったと思う。
今より明るい茶髪に、カラコン。
香水こそ、そこまでキツイものはつけなかったけど、なかなかのチャラさだった。
今は落ち着いたよ!


「お前。それで国際戦出ねぇとかずりぃよ」
「だから、それは倉田に任せたって言っただろ」
「認めたくないけどお前の方が実力な上じゃねぇか」
「なーんか嫌なんだよ、国際戦」
「ワガママだな」
「うん、自覚ある」
「タチ悪いな」
「褒められた!」
「褒めてねぇし!」


そんな会話をしていたら、いつの間にか出来てきたギャラリーから声がかけられる。

「あの、指導碁を、お願いできますか」

その言葉に、俺と倉田は顔を合わせて笑った。

「俺たちが指導碁だってよ」
「できるのかよ、高都」
「お前の方が心配だよ」


そんな憎まれ口を叩き合いながら、指導碁に取り掛かる。


指導碁って慣れないけど、やり始めると楽しい。
その人の人柄が出てるみたいで。

一局終わった頃には、相手だった方が感動、と言わんばかりに俺を見る。

「あ、ありがとうございました!」

お代を…と言ってきた相手の方を制した。
今回は気まぐれでやっただけだ。お金を取るわけにはいかない。

「でも…!」

食い下がるので、珈琲奢ってもらう事にした。
倉田の方も終局を迎えて、くぅっと倉田が伸びをする。
そしてお代を貰おうとした倉田を一発殴って、同じく珈琲を奢ってもらう事にした。というか、させた。



時刻は22時を回ったところ。
碁会所も閉店時間を迎えていて、慌てて店員さんに謝って、碁会所を後にした。



碁漬けの日々。

まぁ。彼。




「まぁが好きそうな雑貨屋さん見つけたんだ」


ソファで、DVDを見ていたら、彼が隣に座って、投げ出していた私の手を握る。


「今度、時間できたら一緒に行こうね」


勝手な決定事項だったけど、それが嫌だとは思わない。不思議。


「ん、いつになるかな」
「大丈夫。俺気は長い方だから」


ぽすっと、私の頭は彼の肩に寄りかかるように頭を撫でられる。
彼に頭を撫でられるのは好きだ。
ちょうどいい力加減を知ってる。そんな感じ。

うん。いつ時間取れるかな。
というか彼と都合を合わせれる日があるかな。
彼は忙しい人だから。


そんな事を考えていたら。
案外早い時期に、時間を合わせる事ができて。


彼はご機嫌そうに、私の手を握る。
彼の半歩後ろを歩く私。

「歩くの速くない?」
「疲れた?」

そう気を使ってくれる彼は、優しい。


目的の雑貨屋さんに着くと、本当に私が好きそうな物で溢れていてテンションが上がる。
それを見た彼は微笑んで私を見ていた。


「よくこんな、って言ったら失礼だけど…こういうお店見つけましたね」
「まぁの好きそうなところは分かるよ」


そう言われて、私ってそんなに単純かな、と不安になる。
それに気付いたのか、宥めるように頭を撫でられる。


「短い付き合いだけど、まぁの好きなものは何となく分かるんだ」
「…そうなの?」


そう言われると、私は彼が好きなものをあまり知らない事に気付かされる。
なんだか、気まずい。


「まぁが喜んでくれるのが、一番嬉しいけどね」


彼は私の心を見透かすように、笑う。
その度、胸がキュッてなる。



「この指輪、気に入ったの?」

指輪のコーナーで立ち止まった私の後ろから声を掛けられる。
キレイな石が並んだ、それでいて控えめな指輪が目に止まって、なんだか離れられずにいた。


「今日の記念に買ってあげる」


スッと横から手が伸びて、その指輪を取る。


「サイズはぴったりみたいだね」


それだけ言って、彼はレジに行ってしまった。
彼が近くに顔を寄せただけで、心臓がドキドキして、なんだかいつもの自分ではいられなくなる。


それから、急遽仕事が入った彼とはそのお店でお別れして。手元には買ってもらった指輪。

彼は指輪がそんなに大事なプレゼントなんて思っていないのだろう。

「気を付けて帰るんだよ?」

そう言って、バス停まで送ってくれた彼。

「今日はありがとう」
「また、何処か行こうね」
「ん」


手を繋ぐ事はなく。
それでもこの指輪が、彼との思い出を蘇らせてくれるから、それだけで充分だった。



彼が居なくなったのは、それから暫くしてからだった。

千代塚。待受画面。





何故か、美風さんが俺の携帯を見て固まった。
何より暗証番号知られてるのが怖い。
そして固まった原因であろう事に思い当たる節がある。まさか効果があるとは思わなかったけど。


「ねぇ、ゆう。これ誰?」

携帯を奪い返すべく、美風さんに近付くと、気配で気付いたんだろう、俺に振り向く。

「美風さんが暗証番号知ってる理由教えてくれたら教えます」
「そんなの、ゆうを見てたらすぐ分かるよ」
「な!覗き見反対!!」
「で?誰なの」


美風さんは俺の反対すら気にするでもなく、携帯を振ってみせる。

揺れるのはホーム画面に設定している俺の友人とのツーショット画像。
やべぇ、近くに水の入ったコップがある。答えによっては、やられる…。

しかし負けてられない。
これは友人との約束だ。


「…それは、(友人的に)好きな人です」
「へぇ…そうなんだ」


意外にもアッサリした答えに、俺は緊張から逃れる。
そしてこれもアッサリと携帯を返してもらえて、安堵。
これが寿さんだったらもっと駄々をこねるみたいな反応するんだろうな。
そんな事を考えていたら、美風さんが一言。


「ボクも女装したら好きになってもらえるかな」
「え…?」


何故バレた…。
そう。友人というのは友人に変わりないんだけど、画像に写っているのは女装した友人(男)とのツーショ。
バレない自信はあったし、現に他の人たちには携帯を見られても誤魔化す事が出来た。
何故バレた…。

絶望感に打ちひしがれていると、美風さんが俺の腕に絡み付いてくる。


「…なんで分かったんですか」
「そんなの、ゆうを見てたらすぐ分かるよ」
「俺ってそんな分かりやすいかなぁ」
「ボクはずっとゆうを見てるから」
「…ストーカーですか」
「似たようなものだよ」


はい、恐怖発言もらいました。
という事で、何を言っても無駄だとわかったので、ネタバラシ。


友人とは、お互いが女装してツーショを撮って待ち受け画面に設定している。
「好きな人がいます」宣言の為。
そうすれば、無駄な恋愛沙汰にはならないと踏んだのだけど。
美風さんにはバレてしまった。

あぁ。この調子だと少し突っ込まれただけでバレてしまう…。
頭を抱えた俺に、美風さんはその頭を撫でる。


「安心して、誰にも言わないから」
「え?」
「あと、他の人にはバレないよ」

そんなに洞察力のある人いないしね。
と、一種の脅しのような空気に怯む俺。
それに気付いた美風さんは、再度俺の頭を撫でる。


「別に脅したりしないから」
「…本当ですか?」
「脅してほしいの?」
「そんな事ない!」



こうして。
携帯については触れずにいてくれる美風さん。
代わりに、美風さんからメールが届くようになった。メアド交換が嬉しかったらしい。


一件落着。
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