ふよふよと、身体が浮く感覚が心地よくて。
でもパチンと、何かが弾けた音がして目が覚めた。
天井と、一番に視界に入ってきたのは、泣き顔の中田さんで。
なんで泣いてるんだろうってぼんやり思いながら上体を起こしたら、抱き締められた。
肩が温かくて、あぁ涙かと冷静になれた。
それから気付いたのは、中田さんの肩越しに見えた、真田さんと幸村さん。
それに男子庭球部の面子が揃っていた。
なにやら大ごとになってる気がする。
「なんで…なんで助けたのよぉ」
中田さんは情けない声を出して、抱き締める腕に力が入る。
なんでって。
わたしも無理矢理連れてこられて、リンチなりなんなり受けるところだったんだ。
それに、口振りから、囲んでた女子生徒たちが女子庭球部の人たちって分かって、この前のゲームのせいで中田さんの立場が無くなってるのは言わずもがな。
「ごめんなさい。わたしのせい」
「謝らないで。惨めになる」
泣きながらそう言われたから、何となく彼女の背中を撫でた。
さて。問題は保健室に集まった男子庭球部の面子だ。
「中田さん、そろそろいいかな」
「あぁ、うん。樋崎さんありがとう」
ポンポンと肩を叩いて、中田さんは保健室を出て行った。
「ねぇ、何で無茶ばかりするの?」
幸村さんが超絶笑顔でわたしを見つめる。怖い。
「そんな事より、樋崎。身体はもういいのか?」
「そんな事、なんて酷いな、真田は」
「む…」
真田さん、そこ言い勝って!って思ったけど、幸村さんの笑顔には誰も口出しできない。
「そうだね、質問を変えよう。なんであの場所に樋崎がいたの?」
「なんか、無理矢理引っ張っていかれて…」
「女子の嫉妬はドロドロぜよ」
口を挟んだのは仁王さんだった。
なんだろう、この大人な意見は。的を射てる分つらい。
「その頬も心配ですね。淑女を殴るだなんて紳士のやる事ではありません」
最近知り合いになった柳生さんが、静かに言葉を落とす。
「でもあれだろぃ。コイツ1人であの数の野郎共やっつけたんだろ。とんだ根性だな」
「それは俺が稽古をつけていたからな」
真田さんが言う通り。
わたしはたまに真田さんに居合の稽古をつけてもらっていた。
そのおかげもあって、今回は助かったという訳だ。
ノートを取る柳さんの横で、幸村さんが何か言いたげにこっちを見ている。
「そうだ、これお前んだろ。体育館の前に落ちてたんだよ」
切原くんがわたしの薬ポーチを差し出して、あぁそうだと、受け取る。
「ありがとう」
「お前、普段からんなもん持ち歩いてんだな」
中身を見たのか、表情を曇らせてわたしを見る。「んなもん」というのは薬だろう。頓服とはいえ、いっぱい入っていて、そりゃぁ驚くだろうな。
それに、真田さんが浮かない顔をした。
皆は知らない。
言葉に詰まっていると、空気を読んだのか柳さんが真田さんと幸村さんを残して退室するよう促した。
それに流されて、皆、保健室から出て行く。
「…ご迷惑お掛けしました」
「迷惑じゃないよ。心配した。真田が顔色変えるんだもん」
「な、」
「すみませんでした」
「ちょうどポーチを見つけたのが俺たちで良かったよ」
「そうだな。中身を見られたのはあまり良くなかったが」
「そうだ。教えてよ、真田と樋崎の共有してる秘密」
「…」
「…」
「なんで黙るの。俺そんなに信用ない?」
「そうじゃないんですけど…」
「樋崎が煮えきらん事には俺からは言える事ではない」
あ、真田さんが丸投げした。
くそぅ。
「…いつか。落ち着いたら、話します」
「そう」
幸村さんの返事は案外呆気なくて、安心した。と思ったのに。
「真田の知らない樋崎も教えてもらうから」
と。またしても超絶笑顔で言われてしまった。
どう頑張っても太刀打ちできない。