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日枝。相談、視野、結果。

あれからどうなりました?。
先輩の四ノ宮さんがレッスンの間に声をかけてきてくれた。四ノ宮さんには相談していたので、結果報告するのは当然だ。いつ話しかけるか悩んでいたから四ノ宮さんからきっかけを作ってもらって助かった。
それが、諦めないと言われてしまって。そうでしたか、でも何だかそうなる気がしてました。…そうなんですか?。えぇ、鼓立ちゃんはいい子ですから。いい子なんかじゃないですよ。そうですかぁ?。
四ノ宮さんはそんな事を言って、私の頭を撫でる。私は全然いい子なんかじゃない。2人の想いを否定した。ただ物珍しい私に興味を持っただけだと、そう言い聞かせていた。今だって、様子を伺って自分からは動けなかった。嫌なヤツだ。そんな私を四ノ宮さんはいい子だと言う。そんな事を話していると神宮寺さんが私と四ノ宮さんの姿を確認して、声を掛けてきた。
また内緒話かい?。はい!鼓立ちゃんの相談相手は僕ですから!。妬けちゃうねぇ。
その会話に入る事が出来ず、私は下を向いていた。
君はもっと色んな意見を知った方がいあのかもしれないね。え?。
神宮寺さんに頭を撫でられ、そんな事を言われた。
シノミーの意見だけじゃなくてさ、俺や他のメンバーの意見さ。皆さんの…。そうすると視野が広がる、あぁ決してシノミーの意見を蔑ろにしてる訳じゃないよ?。視野…ですか。それも一理ありますね、今度は翔ちゃんにも相談してみたらどうですか?。話しやすい人からでいいからさ。
そうアドバイスをくれた2人は笑顔で私を応援してくれる。他の人の意見か。ずっと自分の事ばかりで考えてもなかった。それからの私の行動は早かった。でも皆一様に現状維持を提案してきた。相手が飽きるまで、諦めるまで、それまで想われてていいんじゃないかと。そして私自身が好きだと想える人ができるまで。視野は広がらず、寧ろ皆同じと言うことは視野狭くなってないか?と思わなくもなかったが、言わずにおいた。先輩たちからの貴重な意見だもんね。学校では相変わらず、幸村くんと柳くんが構ってくる。用事がなかったら一緒に居ちゃダメなのかと、半ば責められて。これは周りの女子生徒から見たら面白くないだろう。また呼び出しとか嫌だなって思っていたら、幸村くんも柳くんも、ファンクラブの人たちにちゃんと説明して、公認になってしまっていた。それはそれで違う気がする。



最近、仁王くんを見かけないけど、なんかあったのかな?

日枝。ごめんなさい。

頭を下げた。それは2人に対して。私はやっぱり2人のことを恋愛対象として見れないし、それを理由にズルズルとした関係ではいたくなかったから。状況を把握するのは早かった。流石の2人。それで、全てが丸く収まるかと言えばノーなのだけど、取り敢えずは私の気持ちを伝えた。今更友だちでいよう、なんて言えるはずがなかった。その言葉を遮ったのは幸村くんだ。
じゃぁ、俺はずっと鼓立に片思いしておくよ、それくらい許してくれるよね?。
疑問文ではあるのに、断れる雰囲気なそれに、思わず息が止まる。考えないではなかった。幸村くんがもし、諦めないと言うのであれば。そんなこと無いと思いたかったんだ。でも現実となった。
俺も、鼓立が必要だ。
柳くんまでそう言い出すのだから、上手く呼吸ができなくなる。やめて。やめて。柳くんには、過信していた。ただの親戚に戻れることを。まさか、そんな事。
私、2人のこと、振ったんだよ…?。それは鼓立の気持ちであって、俺の気持ちは変わらないよ。
疑問は見事に撃ち落とされて。ただただ呆然とするしかなかった。
鼓立の事だから俺との関わりも切ろうと思ったのだろう?そんな事はさせない。
柳くんはそう言って、私の頭をポンポンと撫でてきた。負けじと幸村くんは私の両手をひとまとめにして握る。どう足掻いてもこの人たちからは逃げられないのか。絶望…ではない。2人の優しさに甘えそうになる自分がいる。
俺から逃げられると思わないでね。
考えを読んだように幸村くんがニッコリと笑う。それは獲物を狙うハンターのように。
精市に負けるつもりはない。
柳くんまでそんなことを言い出すから手に負えない。私はどちらかに撃ち落とされてしまうのか。

日枝。自分から動く。


するりと掬うように握った手は、異性のものだと実感させるほどに、柔らかく小さい。所々、肉刺だろう、皮膚が硬くなっている事を含めて、愛おしいと思った。こんな親戚がいるなんて知らなかったし、ましてその親戚を巡って精市と対立する事になるなんて思いもしなかった。対立といっても、お互いの意地の張り合いだ。険悪なものではない、と思う。いつもの確率論も、彼女を前にすればあって無いようなものだ。
俺が諦め悪いの知ってるよね。それは俺も同じだがな。
そんなやり取りを精市とする日が来るなんてな。鼓立の事になると、ムキになってしまう自分がいて、戸惑う。同様に、互いの気持ちを伝えられた鼓立も戸惑った様子で、休み時間の度に教室にやってくる精市に押されていた。このままでは分が悪いな。そう思った俺は、日々歌の練習や勉強に打ち込んでいる鼓立が通う施設に、それが終わる頃を見計らって足を向けた。
お疲れ様でした。
そう笑顔で挨拶をしていた鼓立は、俺の姿を見つけるなり目を丸くした。それもそうだろう。突然の訪問であったから。
ど、うしたの、柳くん。迎えに来たのだが、迷惑だったか?。いやそんな事ないけど…遅い時間だから。だったら余計だ、お前を1人にする訳にはいかない。
そう言うと、鼓立よりあとに出て来たアイドルの1人がふふっと笑った。
ナイトのお出迎えなんだから、ありがたく受け取るんだよ。
ポンポンと鼓立の頭を撫でて、じゃぁねと手を振って施設を出て行った。
柳くん、あんまり遅いと明日の朝練に響くよ?。そう思うなら早く帰るぞ。え?あぁうん。
戸惑う鼓立の左手を掬うように握る。ビクッと肩が揺れたのが分かったが、その手を離す気はなかった。さっきまで練習に励んでいたのだろう、繋いだ手はとても温かかった。
…今日はどうしたの?。何か用事が無ければ来てはいけないか?。いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて。最近、精市に押されてばかりだったからな。?。
鼓立は意味が分からないと首を傾げた。そういう所が鈍感で、それでいて愛おしい。
鼓立の中で俺は何パーセントを占めてる?。
我ながら訳の分からない事が口を突いたと思う。鼓立はまた首を傾げて俺を見上げる。後から告白した俺とずっと鼓立を見てきた精市との差がどれだけ開いているのか、それが知りたかったんだ。鼓立は困ったように笑った。
今は…そうだな、歌が百パーだって思ってるんだけど。…。幸村くんの事も柳くんの事もちゃんと考えなきゃって思ってる。
そう言われて、質問した事を後悔する。鼓立を困らせている。それだけはよく分かった。尋ねるべきではなかった。そう後悔しても、もう遅い。







差を縮められたら。

日枝。戸惑い。





柳が告白したみたいだね。え?。
情報源はどこだと、逡巡したけど、そんな事はどうでもいい。何故知っているか、そっちが大切だった。
な、んで知ってるの?。なんでって、見てれば分かるよ、鼓立の事だもん。そんなに分かりやすいかな。ううん、俺だから気付いた感じじゃないかな。そっか。
机で向かい合って座る私たちは一見、恋人同士なのだろう。現に幸村くんは私の手をふにふにと握っている。恋人以外のなにであろうか。最初こそ悲鳴が上がっていた教室だったが、もう慣れたと言わんばかりのクラスメイトたち。彼ら彼女らの中では私たちは付き合っているのだろう。それは、この先どうなるのか分からないし、どうしていいのかも分からない。
また俺以外のこと考えてたでしょ?。え、あぁごめん。
幸村くんは私に関して目敏い。考えも読まれているんじゃないかって思うくらい。
どうしたらいいのかな…。
思わず漏れた言葉に幸村くんは驚いたように目を丸くして私を見た。
俺の意見としては、俺を選んでくれたらいいな、柳じゃなくて。…。でも優しい鼓立の事だから柳のことも考えてるんでしょ?。…うん。こんなつもりじゃなかったんだけどな。え?。や、こんなに困らせるとは思わなかったからさ。ごめんなさい。鼓立が謝ることじゃないよ。
そう言って、頬杖をついた幸村くんは私を見詰める。なんだか居心地が悪くて、私は目を合わせれずにいた。

予鈴が鳴る。

酷く優しい目をした幸村くんは私の頭を撫でて、またね。と教室を出て行った。




誰も傷付かない方法なんてない。

日枝。近付く三角。





日枝さんって幸村くんと付き合ってるんでしょ?。
そう噂が立って、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ごめんなさい、返事は保留させてもらってます。お願いですからそっとしておいて下さい。そんな事を思っていたら、柳くんに頬を抓られた。気配なかったよね。
どうせ下らない事で悩んでいたのだろう。下らないとか言わないで下さい。何故敬語になる。なんとなく?。…精市の事か。
そう言われて、私は思わず耳を塞いだ。幸村くんの事です。とは柳くんには素直に言える気がしなくて、視線を逸らした。
気まずくなった確率…。そういう確率論って女の子にモテません。…鼓立もか?。まぁ、好きじゃないです。そのせいか?敬語なのは。いや、それは…そんな気分なんです!。
言ってることがメチャクチャなのは分かっていたけど、なんとなく、今日の柳くんには敬語の方がいい気がした。少し考えるような仕草をした柳くん。
やはり精市の事を考えていたのだろう。黙秘。それは肯定と取るぞ。あぁもう、好きに捉えて下さい!。
そう余裕なく言ってしまえば、今度はガシリと肩を掴まれた。いつになく真剣そうな表情。怒られるかと思ったけど、違うらしい。
少しは…。なに?。少しは俺のことも考えてくれないか?。…は?。お前は唐突だと思うかもしれないが、俺も精市と同じ気持ちだ。え、それって…。
自惚れでなければそう。告白されてる?目を見開いて柳くんを見ると照れたように少し顔を赤くしている。そして、顔が見えないように、私の頭を掻き撫でた。




どうしよう。
誰に相談したらいいんだ?
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