Maniacer's Spiral (R)

「ねーねーノサカ、これ何て読むん？　語……？　力？」
「語彙力な」
「語イ力て何」

　講義が早く終わったから、ヒロと一緒にサークル室へ行ってみると誰もいない。とりあえず機材を立ち上げると、急に何かを思い出したのかヒロがB6サイズくらいの紙を手に訊ねて来る。この文字の読み方がわからないのだと。
　俺はその“語彙力”という単語を「ごいりょく」と読むのだと教えると、次に訊ねられるのはその意味だ。そもそも、突然出てきたその紙の正体をよくよく見ると、夏合宿のモニター用紙。まさかひと月の間、語彙力という言葉の意味を調べることもせず放置していたのか。

「ふゎあ」
「眠そうだねタカちゃん」
「あ、果林先輩おはようございます」

　月曜日は必修科目もあるし授業もカツカツ。長い夏休みの間に狂いに狂った生活リズムが戻り切っていない体には正直かなりしんどい。４限の講義を終えてサークル室に向かっていると、元気の象徴とも言える果林先輩に出会う。
　とにかく果林先輩はいつでも元気そうだ。火曜と木曜、それから土曜は深夜帯にアルバイトをしている。にもかかわらず、大学で会う果林先輩はいつだって元気だし、俺みたいに間抜けな顔でアクビなんてしていない。
　どうやったらそこまで元気でいられるんだろうと思う。果林先輩に聞いてみようにも、多分俺はご飯を食べなさすぎるからだとこの話は終わってしまうだろう。確かにご飯を食べる量は果林先輩より少ないし財政事情もあるからそこまで贅沢は出来ないけれども。