昨日から、徹の機嫌がすごく悪い。徹に言わずにリンと2人で西京旅行をしてきたからかもしれない。お土産を受け取るときの顔は、どこどなく引きつっていたように思う。
ただ、どうやらそれだけでもない様子。極力顔色を包み隠す徹が、ここまでわかりやすく機嫌を表に出しているということは、それは相当な事情……なのかもしれない。
「徹、何かしたなら、謝るから……」
「美奈には関係ない」
「うーい、リーン、いるかー?」
「はい。何の用ですか」
「そりゃねーだろ。ほら、こんなモンでいいか」
どすんと机の上に置かれたのは、やたら重たそうな紙袋。それを離した春山さんは、よほど腕が疲れたのかぷらぷらと手を振って休めている。
その紙袋を覗き込んだ林原さんは、中から本を取り出してパラパラと中身を確認している。その表情は普段春山さんと接するときのような、言いにくいけど仏頂面ではなくて機嫌が良さそうな顔。
先日、リンが大量にジャガイモの入った箱を抱えてゼミ室にやってきた。好きに持って行けと一言添えて。情報センターの先輩から譲り受けた物のようで、その日のうちにここで何個か蒸かして食べたけど、とても美味しかった。
今日もリンはもらったジャガイモの消費に忙しくしている。リンの席にはポテトサラダの入ったタッパー。結構大きな容量の容器だけど、それいっぱいにサラダが入っている。
「美奈、少し摘まんか」
「その、ポテトサラダを…?」
「要らんのならいいが」
「食べさせてもらって、いい…?」
「あっL、お前昨日やってたテレビ見た?」
「何てヤツすか?」
「ほら、あの掃除のヤツ。すげー潔癖なタレントとか出てたじゃん」
「あー! はいはい見たっす」
昨日のテレビ見た、で始まる会話を聞かなくなって久しいなと思いつつ、その話に耳を傾ける。伊東先輩とL先輩はテレビでやっていた掃除特集の内容をとても楽しそうに話していて、趣味だなあと思う。
今日は、久し振りにショッピング。何と、朝霞クンと一緒! すごいでしょでしょ〜……って、俺のファッションセンスがあんまりヒドくて朝霞クン呆れちゃって〜、せめてステージ衣装だけはっていう、見繕いだね〜。
チェックのシャツを腰に結んでおはよ〜って待ち合わせ場所に顔を出したら、早々になんだそれって言われちゃったよネ。ドット柄のハーフパンツにチェックを合わせるかって。しかもそのシャツ、冬物のネルシャツだろって。
「まさか朝霞クンと買い物出来るなんて〜」
「お前のセンスで服を選んでたらMCが悪目立ちする。他の時は何をどう着てもいいけどステージの上でだけは俺が選んだ物を着てくれ。いいな」
「は〜い」