「カン、大晦日の夜にライブ入ったんだけど、やるか?」
「おーう、やるやる! どこでやるんだ?」
「丸の池公園駅近くにライブカフェあるだろ、ちょっと前にオープンした。あそこを借り切ってやるらしくて」
「マジか! あそこめっちゃ雰囲気いいから楽しみだー!」
青山さんが、声をかけれるだけかけてねって言ってたけど、こんな感じでいいんだろうか。大晦日に、いろんなバンドを集めてシャッフルしたり新曲をやり合ったりしてとにかく楽しく年を越そうという内輪の音楽イベントがあるらしい。
カンはさすがにノリがいい。と言うかカンは心配してなかった。カンさえ落とせれば他のメンバーもカンの勢いとか空気に引き摺られて出て来てくれると信じて話を進めよう。手元には、渡されているCD-R。
「あ、リン君来てくれてありがとー」
「いえ。今日はアレですか、春山さんを陥れる作戦の話ですか」
「それもあるけど、別件もあって。あっ、アオキちゃんとカナコちゃんも来るから話はもうちょっと待っててー」
星港市某所スタジオ。ブルースプリングは大学祭が終われば自然消滅するバンドだとばかり思っていたが、意外にもまだ息はあったらしい。ただ、今回は春山さん抜き。ピアノとドラムの編成だ。
何でも、青山さんは年末に帰省する春山さんにドッキリを仕掛けたいのだと言う。それが、春山さんのいないところでとびきり楽しい音楽イベントを仕掛ける作戦だ。大晦日に路上ライブ、そこまでは決まっている。
最初はこの人は何を言っているのかと思ったが、春山さんへのドッキリ、と言うかオレの場合は復讐と言うべきか。与えられた機会は大切にしておきたい。しっかりと新曲も書き上げ現在に至る。
「おーうユーヤぁ、今年もこの季節がやってきたなァー」
「あンだ長谷川、今年は百歩譲っても帽子だけだ」
「あー、面白くねー男だなーお前はよ! クリスマスシーズン、ファミリー層に対する受けは大事だろうが!」
「俺が行くのはファミリーよかバカップルか独り身の学生メインだ、残念だったな」
とある日、バイト先に出勤すると長谷川がニタニタと赤い衣装が透けて見える袋を肩から提げて俺を待ち伏せていやがった。この店はイベント事になると妙にコスプレさせたがるが、クリスマスなんて絶好のコスデリチャンスだろう。