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【SSS】価値創造のタイミング

「あー……あ〜…!? どーするよー……あ〜…!?」
「おい、まだ決まらないのか」
「ちょっと待て浅浦、もうちょっとだけ悩ませてくれ」

 伊東に連れられやって来たのは、家電量販店のキッチン用品コーナーだ。アイツは自動調理鍋を前に、うーんうーんと彼是1時間ほど悩んでいる。元々優柔不断な方ではあるけど、まさかここまで悩むかと、暇を拗らせた俺はマッサージチェアのお試しを終えて溜め息を。
 コイツがキッチン用品だの台所家電に目をキラキラさせるようになったのは一人暮らしを始めてから。厳密には、宮林サンのお世話が軌道に乗って来て、料理の腕が上がって来てからだ。今では自分の部屋も彼女の部屋も、台所は完全に奴の要塞と化している。
 酒豪サークルと名高いMBCCで開かれる飲み会でも、酒の飲めない伊東は飲む代わりに延々と料理を作り続けているという。宅飲みで居酒屋並、もしくはそれ以上のメニューが出て来るとあって満足度はかなり高いらしく、伊東も長く飲み会の空気を楽しめるとかで持ちつ持たれつのようだ。
 で、そんな伊東が目を付けたのが自動調理鍋だ。コイツが悩んでいる機種に関して言えば電気圧力鍋とも言えるだろう。それを前に欲しいな、でも本当に要るのかな、などと唸っているのだ。展示品を前に、時折声を掛けに来る店員も引くぐらいの悩み様で。


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【SSS】pleasant blue

「ゴメン、慌てて片付けたからまだ汚いかもしれないけど」
「ううん……綺麗にしてある……」

 オープンキャンパスまで1週間となり、さすがにそろそろ帰って来た方がいいなと思って夏の帰省を終了した。帰って来たその日には星港駅で石川と山口とバッタリ会って、駅近くの中華料理店に連れて行ってもらった。ご飯も美味しかったけど、デザートのミルクプリンが特にうまーでした。
 帰りは「どうせ大学まで行くから」と石川が豊葦方面へ走らせる車に乗せてもらえることになり、途中までは山口と3人でやいやいと下らない事を話しながら。山口が降りてからは、共通の友達である美奈の話が多くなっていたように思う。石川からその話を聞いたらしい美奈から「会いませんか」って連絡が来て現在に至る。
 星港でウィンドウショッピングをして、お昼ご飯はお好み焼きを食べた。うちはお好み焼きをふんわり美味しく焼くのが得意だから、久々に腕を振るおうと思って。美奈が美味しいって言って食べてくれたのが本当に嬉しかったなあ。うちが一から作ったワケじゃないけどね。
 ウィンドウショッピングが終われば、今日は夜までじっくりと。美奈がうちの部屋に泊まることになっている。だから昨日慌てて片付けたよな。うちは帰省するときもあんまりガッツリ片付けないから、それはもう惨状と呼ぶのが相応しい状況で……。頑張りました。これを教訓に、今度からは帰省するときもある程度片付けよう。


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【SSS】イケメンセンサーの暴走

 夏合宿が終わってしまえば対策委員の活動も頻度がガクンと下がり、バイトもしていない俺はただただ暇な夏休みを謳歌していた。いや、何もしていないワケではなく普通に勉強をしたりして過ごしてはいるのだけど、それでもやっぱり暇には暇で。
 そんな時にこーたから「世音坂にでも遊びに出ませんか」と誘いがあるのは本当にありがたいなと思う。夜メインとは言えこーたはバイトをしてるから、遊びの誘いを入れて来るのは基本的にこーたの気分次第って感じで俺は受ける方。今日も例によって暇を拗らせていたからもちろん出ますとも。

「来週の今頃はオープンキャンパスかー……まともに番組が出来る気がしない」
「あなたはヒロさんと打ち合わせが出来ているだけまだいいじゃないですか。私なんて打ち合わせすらままならないんですから」
「三井先輩も何気にいい加減な人だからな」
「なんなら野坂さんの超弩級に悪質な遅刻癖がまともに見えてきますよ。どれだけ遅れても、必ず現場には現れるじゃないですか」
「こーたドンマイ。可哀想だしういろう奢ってやるよ」
「ありがとうございます。恐縮です」


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【SSS】偶発的遭遇と復習

 大きな本屋は地上1階に作らなければならない法が早く制定されないだろうか。星港駅にある商業ビル、その8階にある大きな本屋に足を延ばす。地元の本屋や大学の本屋より品揃えがいいと言うか、思いもよらなかった出会いがあるから本屋通いは楽しい。でも立地は出来れば地上1階が好ましい。
 学術書や参考書の他にはマンガや小説、イラストハウツーなど、いろいろな本を抱えて歩く。すると、人ばかりが密集した中でもパッと見でそれだとわかる金メッシュの髪が。山口が本を読むという印象がなかったから、正直呆気に取られた。俺が呆気に取られていると、なになに〜と奴がこっちに近付いて来る。

「あれ〜、石川ク〜ン、ど〜したの〜? ……って、買い物だね〜。買い込むね〜」
「ああ、まあ、いろいろな。やっぱ大きな店は品揃えがいいし。お前はどんな本を」
「俺はサッカー雑誌だね〜」
「お前、今でもサッカーは見てるんだな」
「うん、見てはいる。弟が一応プロのサッカー選手だし。あとは簿記の勉強をするための本かな〜」
「やっぱり、経済学部だと簿記検定を受けたりするんだな」
「そうだね。一応2級まではもう持ってるんだよ。次受けるのは1級。でも、理系の学部にも試験はあるんでしょ?」
「そうだな。俺は情報系の基本情報技術者とか応用情報技術者っていうのを持ってるけど、化学系の資格を取る奴もいるかな」
「へ〜。化学系の資格か〜。難しそ〜」


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【SSS】スルスル・スルー

「あっ、いたいた! おーい石川、それに福井さんも!」
「高井、どうした?」

 筒状に丸めた紙を手に、そいつはやってきた。俺たちを見つけると喜びを表現して目の前に陣取る。高井圭希、岡本ゼミの中でも無駄に熱く鬱陶しい男だ。高井は今年から星大に編入してきた。だからなのか本人の性格なのかはわからないが、見る物すべてに大袈裟な反応を見せる。

「今さ、大学祭のブース説明会に出て来てさ」
「ブース説明会? 授業も始まってない時期にやってるのか」
「何かそうらしい。で、ゼミの3年で出るからその諸々の手続きとかしてたんだけど、そろそろ本腰入れて準備をしなきゃいけないなと」
「……徹、今、彼……何て…?」
「俺も聞こえなかったことにしたい」


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