「気功治療への道案内」?1(下書き)


◆プロローグ

 早めの夏がやってきた2019年の5月の末に、二人の娘が私の愚庵にやってきた。
 二人は、気功治療の技を身につけたいということだった。
 彼女たちの友人の中には、偏頭痛やめまい、肩こり、腰痛、不眠、冷え症、生理不順などの症状を持っている人や、皮膚のトラブルを抱えている人、仕事上のストレスから精神的に参ってしまっている人など色んな人がいて、気功を習っている彼女たちに「気功で治せないの?」と訊いてくるということで、彼女たちは彼女たちなりに「気」を当てたりして、時々は症状を緩和させることは出来ても、そんなことだけでは治療にならないと実感し、私に教えを乞いに来たという訳なのだ。
 私は36年間、鍼灸治療に携わってきたので、東洋医学の基礎や応用については一定の理論も技術も持ち合わせており、鍼の代わりに「気」を用いるという視点で彼女たちに「気功治療」のいろはを伝えることにした。
 彼女たちが治療が出来るようになるために、そのお手伝いをしようと決めたのだ。

◆東洋医学の一翼だという視点を忘れるな!

 二人の娘を座敷に上げ、お茶をふるまった後、私は話し出した。
 「お二人ともご存知のように、気功治療は、日本では免許も資格もありません。
 だからと言って、自分勝手に、独りよがりに、好きにすれば良いということにはならないと思うんですよね。
 少なくとも東洋医学の一翼として、鍼灸治療、按摩治療と同様に、外からの物理的な力によって患者さんの気の調整をしていくんだという視点を忘れてはならないでしょうね。」
 茉奈(まな)が口を開いた。
 そうそう、二人の娘の名前、お知らせしていませんでしたね。
 一人は茉奈さんと言い、気功歴は5年くらいでしょうか。
 二人目は佳与(かよ)さんで、彼女は3年目くらいだったと思います。

 茉奈は言った。
 「つまり、鍼の代わりに私たちの掌や指先から発する気を用いるということなんですね?」
 「そういうことになりますね。
 だから、気功治療を施すに当たっては、東洋医学としての診察、診断、治療の基礎的な知識と技術、中でも治療の方針や治療の成否、予後を判断するための脈診は身につけておく必要があるでしょうね。」
 「脉診ですか?
 それって難しいんですよね。
 私にもわかるようになりますか?」
と、佳与が言った。
 「大丈夫ですよ。
 私も最初は素人だったんですから(笑)」
 気功治療と言えども東洋医学の一翼を担っているんだという立場に立ちながら、実践的に気功治療を身につけていけるような方法を模索していくので、どんどん質問して欲しいということを二人に伝え、私たちは「気功治療」が出来る術者になるべく学びを積み重ねていくことを確認し合ったのである。

◆気を発することと脉を診ることの練習を!

 「私、友達が頭が痛いと言うので、気のボールを作り、それで彼女の頭を包むようにしていたら、頭の痛いのが治まってきたことあるんですが、気功治療って、そんな単純なものじゃないですよね?」
と、茉奈が訊ねた。
 私は言った。
 「そうですねぇ、私たちの気功治療が相手の体に影響を与えることが出来たかどうか、良い効果をもたらせたのかどうかを私たちは自分で判断出来るようになる必要があるんですよね。」
 「ただラクになったから治療として成功したということにはならないということですね?」
 佳与が訊ねた。
 私は応えた。
 「はい、例えば、屋根の瓦が落ちたとします。
 その場合、突風で吹き飛ばされただけなら、屋根を葺き替えれば良い訳ですが、家が傾いてきて、それで瓦が落ちたとすれば、屋根を葺き直しただけではダメですよね?」
 「症状は緩和出来ても、それを起こしている素が壊れていては、また症状は起こるということですね?」
と、茉奈が言った。
 「その為には、掌や指先から気を発することが出来るようになることだけではなく、脈を診て、治療の成否や効果を判断することが出来るようになることが大切なんですね。」
 「私たちが発する気は、イメージではなく、確かな感覚として体感できるようになるまで練習することに併せて、脈診の技術を基礎から一つずつ身につけていく必要もあるんです。」
 「そうすれば、私も気功治療が身についていきますか?」
と、佳与が言った。
 私は頷き、焦らず、諦めることなく、一緒に気功治療の道を歩んでいこうと激励したのであった。