気功治療への道案内…三日目
◆脉を診て気を当てる、気を当てたら脉を診る
「今日は脈を診る練習もしてみましょうか」
私が言うと、二人の娘は顔を見合わせてにこっと笑った。、 彼女たちにとっては未知の世界なのだ。
「まずは脈の診方についてお話しますね。」
佳与の目が輝いた。
「最初に自分の脉を診てみましょう。
右手の親指(拇指:ぼし)側の手首の下に少し出っ張った骨がありますね。」
私は橈骨茎状突起(とうこつけいじょうとっき)を指差した。
「その内側の脈動部に左手の中指の腹を手の甲側から回して当て、それに示指(じし)と薬指(やくし)を添えて当てるんです。」
「こうですか?」
と、茉奈が手の形を見せながら言った。
「それでいいですよ。
その形で指の一本ずつでも良いし、三本一緒でも構いませんが、脈動部の血管の上に指の腹が軽く乗っている程度の押さえ方で脉を感じてみて下さい。」
「脈が触れればいいんですか?」
と、佳与が訊ねたので、私は佳与の手首に手を回し、軽く脈を押さえて、
「これくらいでいいですからね。」
と伝えた。
「少し難しいかも知れませんが、その部を陽部と言い、陽の経絡を診るところになるんですね。」
「すると、グッと押さえたところが陰の部で、陰の経絡を診るところになるんでしょうか?」
勉強の進んでいる茉奈が訊いたが、私は、脈の話は後日、詳しく話をするからと伝え、脈を診る練習に話を進めた。
「さて、その三カ所の部の脉に違いがあったり、気になるところがあれば、つまり、力が弱かったり、指に突き刺さるような感じの脉があれば、それを記憶しておきましょう。」
「私、忘れるといけないので、脈の状態をメモしておいてもいいですか?」
佳与が訊ねたので、私は軽く頷いた。
「さて、脈の状態を診た後、、気のボールを作り、それを自分の関元(かんげん)に3分ほど当てましょう。」
その時は、掌の感覚、気のボールを押し当てている感覚に没頭して下さいね。」
*関元は、へそから指四本分の幅だけ下がったところにある経穴の名前。
*気のボールの作り方は、
「気功実習体系・5〔ふぁんそん掌と気のボールづくり」
https://chuplus.jp/blog/article/detail.php?comment_id=7957&comment_sub_id=0&category_id=218
二人は気のボールを作り、下腹の関元あたりに掌を向けていた。
3分ほどしてから、私は口を開いた。
「では、もう一度脉を診て、先ほど気になった脈がどう変わったかを診てみましょう。」
「よくわからなーい…」
と、佳与が首を傾げた。
「私、脈が強くなった気がするんですが…。」
茉奈は落ち着いた声で言った。
「二人とも体調を壊している訳ではありませんから判りづらいかもしれませんね。」
「自分の体調が悪い時、頭が痛かったり、眠れなかったり、おなかの調子が悪い時に脈を診て、同じように関元に気を当ててみると、脈の変化が割と判ると思いますよ。」
そう私が言うと、佳与が、
「家族の人の脈を診て、気を当ててもいいですよね?」
と訊いた。
「勿論ですが、これはまだ治療ではなく、気を当てると脈が変わることがわかるようになるための、言わば脈に慣れる練習ですからね。
この練習を左手でもして、脈を診ては気を当て、気を当てたら脈を診るという具合にして、脈を診ることに慣れていきましょうね。」
「はーい!」
と二人は明るい声を上げた。
「気功治療への道案内」?2(下書き)
◆
二回目の『静観塾』が始まり、お茶を飲みながら、茉奈が持ってきてくれた山梨土産の信玄餅を戴いた後、私は二人に語り始めた。
「気功治療の技術には、補法と瀉(しゃ)法という二つの違った技法があるんです。」
すると、私が次の言葉を発する前に、
「気のボールを当てるだけではダメなんですか?」
と、佳与が訊ねた。
「気功治療にも、鍼灸治療と同じで、補瀉(ほしゃ)という二つの違った技法がありましてね…。」
私が言うと、佳与は初めて聞いたようにキョトンとして丸い目を更に丸くして言った。
「相手の状態によって違った気の当て方があるってことですか?」
「そうです。
体が弱っている人には気を補ってあげなければならないし、炎症や痛みなどの邪気がある場合には、それを取り除いてあげなければなりませんよね。
それが補法と瀉法という違った治療法になるんですよ。」
「補法は気を補うという治療法で、瀉法は瀉血のように、気を瀉す治療法という意味なんですね。
と、茉奈が頷きながら言った。
「ふーん、気のボールを当てるだけではダメなんだー。」
佳与が独り言のようにつぶやいた後、私に向かって顔を上げた。
「その二つの違った気の当て方について教えて下さい。」
私はもう少し理論的な話をしてからにしようと考えていたのだが、実習を先にしても良いかなと思った。
「では、私たちの発する気はイメージではなく、確かな感覚でなければなりませんので、それが体感できるようになる為の練習をしてみましょうか。」
そう言って、私は二人を立たせた。
「気は、掌から発する方法と、剣指(けんし)から発する方法の二つがあるんです。」
「剣指?」
そう言ったのは、またもちろん佳与だ。
「示指(じし)と中指(ちゅうし)を伸ばし、他の指を折り曲げた形を剣指と言い、丁度鍼のように真っ直ぐにツボから気を入れる場合に用いるんです。」
「この剣指が瀉法になるんですか?」
佳与が自分で作った剣指を見ながら言った。
「いいえ、剣指は鍼と同じで、補法にも瀉法にも用いることが出来るんですよね。」
私は答えた。
そして、
「養生気功の『鳥の舞』の動きなどで、手を降ろしてくる時に、掌から息を吐き出すようにしたと思いますが、その時に剣指を作り、特に中指の先から気を発するようにしてみるんです。」
そう言って、私は気の発し方を伝え、二人に。剣指で気を発する練習をさせたのである。
タイトル
「気功治療への道案内」を書くにあたって
本文
みなさんこんにちは!
みなさんは気功の技を身につけて、気の力で家族や友人が抱えている辛い症状や体調を良くしてあげたいと思ったことはありませんか?
そんなみなさんの思いにお応えして、次回から「気功治療への道案内」という記事を書くことに致しました。
僕は2015年まで、36年間にわたって鍼灸師として、東洋医学の立場から患者さんの治療に取り組んで来たんですが、その鍼灸師の立場から言えば、何の資格も免許もない者が治療をするという気功治療には疑問を抱き、これまで気功治療に対しては一線を引いていたんです。
あんま・マッサージ・指圧師は勿論ですが、僕たち鍼灸師も、3年間、治療を教える専門の学校に通って、医学的な学問と、鍼灸あんま等の技術を身につけ、その上で国家試験に相当する試験を受け、合格して免許を取り、その上で保健所に登録して鍼灸あんま等の治療を行なって来たんです。
ですから公に、医師や歯科医師、柔道整復師と同等に院を開設して患者さんの治療に当たることが認められているんです。
その立場から言えば、国家試験もなく、免許も資格もない気功治療は、どんなに治療的に効果を上げていようと、いかがわしい治療まがいのことをする人も自由に参入でき白タクと同じで脱法行為なんですね。
そしてもう一つ、気功治療に対しては、僕の信条でもある釈尊の教えに反していると考えていたんです。
それは、「自らを光とし、自らを依り処にせよ、他に頼ることをやめよ」という教えです。
気功というものは、自らの取り組みによって自らを健康体にしていくものであり、従って、養生気功が気功の本流であり、他人からされるものではないと考えていたんです。
しかし、最近、少しずつ考え方に変化が起こってきました。
気功治療を「営業」にするのは納得できませんが、個人的に身につけて、家族や友人に対してする気功治療は有りだし、その為には、僕が取り組んできたふぁんそんテクニックや養生気功などと同じで、法則的に身につけていく方法を探り、定式化し、それを伝えていく必要があるんでは無いかと考えるようになって来たんです。
つまり、白タクはダメだけれど、個人で運転することを禁止する必要はないし、それならば、僕が鍼灸治療の中で培ってきた東洋的な診察、診断、治療の技を気功治療に応用してお伝えする必要があるのでは無いかと考え出したんです。
鍼灸という道具の代わりに気(手や指から発する気)を用いることによって、気の巡りを改善し、乱れを調えていくという東洋医学としての効果を上げられると考えたんです。
そんな思いから、「気功治療への道案内」という記事を連載していきますので、期待していてくださいませ。
【新たな気功探究への歩み?】
?、
これまで何度も書いてきたんですが、昨年末までに「ゆるめる・ゆるまる気功の技」と「実践・これが気功だ!〜静観塾?〜」「同?」の三冊が出来、それらを愛知県内と名古屋市内の図書館に寄贈し、僕の気功&ふぁんそんテクニックへの山登りは頂上に到達したと感じました。
これまでもそうだったんですが、「気功の達人になろう」を作った時点、気功テキスト四分冊を作った時点など、一定の区切りを終えた時点で、それなりの山登りは終えたんですが、その時には、直ぐに次の山が見えて、歩き出すことは出来たんです。
しかし、今回ばかりは頂上は霞に包まれ、次の山は見えずにいるんです。
年齢的にも還暦で辞めよう、古稀で辞めようなどとも考えていたんですが、それも叶わず、71才を過ぎて半年になりました。
?、
この4月から気功の学校に鍼灸師のOさん、Mさんの二人が入り、S君、Kさんという新しい人も参加して、これまで何となく続けてきたIさん親子が希望していた気功治療の勉強会が、本当の意味での治療の勉強会になってきました。
すると、僕が36年間続けていた「脉診による経絡治療」の理論と技が役に立つというか、その東洋医学的な鍼灸術をベースにしなければならなくなったんです。
若い人たちに気功治療の理論と技を体系化して伝えなければならなくなり、それが新たな目標、次の山として見えてきたように感じているんです。
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そして、その課題を自らにきちんと課す為に、中日新聞プラス「達人に訊け!」の記事として、来月分から「気功治療への道」として載せていくことにしたんです。
かなり専門的な知識を要しますが、普通の主婦が旦那や子どもの脉が診れて、ツボから気を入れられるようになるくらいのことまでは伝えられたらと思っています。
◆中日新聞プラス「達人に訊け!」/和気信一郎のブログ
http://chuplus.jp/blog/list.php?category_id=218