【気づきの足跡・2/蝶の羽ばたき・羽回しとすわりイルカ

 僕が気功を習い始めた頃、時々ではあるが、その教室に顔を出す女性がいた。
 どうも師の友人のようであった。
 彼女は教室に来るなり、マットの上に坐り、体をくねくね動かすのを常としていた。
 彼女自身は気持ちよさそうなのだが、蛇など、くねくねするものが苦手な僕は、彼女に冷たい目を向けていた。

 ある時、彼女に誘われて別の集まりに参加した。
 仲間同士での勉強会で、そこで初めて「禅密功」という気功を体験した。
 脊椎を下から上へ、上から下へと、順に揺らしていく功法だった。
 その揺らし方は、前後、左右、回転、捻りの四種類だった。
 全体的に波の様に揺れている人もいれば、その部分だけを動かしている人もいた。
 僕は、勿論、体は硬く、何処を動かしても、硬い体のままメトロノームのように直線のままで動いていた。

 どうしたらあんな風に動かせるのだろうか?
 「動かすんじゃなく、揺れればいいのよ」
と彼女は言うが、揺らしても同じことで、上半身は棒状のまま揺れる。
 それを探究するのが僕の課題になった。

 ある日、家の近くの公園で小学校低学年の女史が縄跳びをしていた。
 それを何気なく見ていた僕は、ハッとしたのだ。
 そして、その場で試してみたのだ。

 彼女は縄を後ろから回す時、若干体を反らせ、そこから腕を大きく回して縄を上から前に回して、ピョンと跳び、それを繰り返していた。
 僕は、僕の胸板を少女の胴体、僕の大胸筋を彼女の腕とし、僕の肩に縄跳びの縄を持っている漢字で彼女と同じように体を動かしてみたのである。
 肩を回す時、胸板を支店にして大胸筋で回してみたのだ。
 それまでは、肩を回すと言えば、肩関節自体を回していたのだが、大胸筋を回せば、独りでに肩は回るではないか。
 しかも胸板から動いているのだ。
 それを繰り返しているうちに、あることに気がついた。
 胸板を少し前後に動かして、胸板から前に出る時に揺れている大胸筋の方向を少し上に向けてみるだけで、大胸筋は胸板を支店にして回っているではないか!
 そうか、揺れるというのはこういうことなんだ!
 揺らすのではなく、揺れるのだ。

 そして、それからは揺らされる感覚を大切にして、大胸筋を前後に揺らしたり回したりして楽しむ日々が続いた。
 やがて、縄跳びの上手い人が腕を回さずに、手首だけで跳んでいるように、胸板の部分だけを回して、大胸筋を揺らせるようにもなっていった。
 そして、肩が回るという点で言えば、背骨を支店にして肩甲骨間部の筋肉を揺らしても同じことだと判り、感覚を背中に持って行って試してみたのである。
 その時、体に今までにない感覚が現れたのだ。
 背骨が波のように揺れているではないか!
 そうか、胸板や肩甲骨の下の辺りを前後に動かすだけで、大胸筋も肩甲骨も独りでにゆれ、背骨も波打つように動くのだ。

 その体感を味わってからの僕の気功は飛躍的に進化したのである。

 これが、ふぁんそんテクニックの「蝶の羽ばたき・羽回し」と「すわりイルカ」の始まりである。