「は〜、疲れた〜」
勢いよくベッドに飛び込んで。一瞬だけ休憩。朝霞クンはキャメルのダッフルコートをハンガーにかけながら、そんな俺を呆れたように見ている。ツインで取ったホテルの一室。1泊2日のお出かけは、1日目の行程が終了。
「そりゃお前、ここに来るだけでも結構な時間だし体力使うのにそこから買い物してイルミネーション見て飯食って酒飲んでってすりゃ疲れるだろ」
「別に嫌な疲れ方じゃないから全然いいんだけどね」
「まあな。温泉で久々に足延ばしてお湯に浸かれてよかった」
「一人暮らしだとね〜」
今日は久々にIFサッカー部の活動……ではあるものの、部長たちがそれぞれの用事で今日はいないらしい。まあ、カズと洋平がいなくたって体は動かせるし、いるメンバーで今年のフットサル収め。
「――ここはライブスタジオか何かか?」
「しょーがねーじゃんよスガー! この後CONTINUEの合わせだし。スタジオ……もとい星羅の家に機材まるっと置いとけるお前とは違うんだ!」
「エージのそれは」
「ギターっす。メンテ出してたんすよ。ちょっとしたことなんで自分でやりゃいーんすけど、そこの店員もレフティで、喋りたい時とかに持ってくっていう」
公式学年+2年
++++
「康平、弟はどうした」
「まあ、見ての通りで」
「果林も最近イケメン君に避けられてるってしょぼくれてるし、早いトコ解決しないかなと思ってんだけど」
課題に何となく目処をつけた後、4年生何人かと飯を食いに来た。と言うか半分は半ば強制的に拉致されてきた。千葉ちゃんはバイトだっつってたし、高木はそのままスタジオに籠もってくっつってたから来てないのが好都合。
岡山サン、小田サン、それから平田サンの間でも最近千葉ちゃんの様子がおかしいということは話題に上っていたらしい。普段は何ら変わりないけど、高木の話になると空元気になるという現象が見られるとか。
公式学年+2年
++++
「あー……何やってんだろ俺」
「まあ、完全に不審がられてるじゃん?」
「ですよねー」
昼も夜もないスタジオのさらに奥。分厚い鉄の防音扉の向こうの録音スタジオにこもる。その勢いで黒いベンチシートに寝転び、外と遮断された空間で始まる自己嫌悪。俺を見下ろす鵠さんも呆れ顔だ。
「お前、最近あからさまに千葉ちゃんのこと避けてるよな」
「だって」
「だってもへちまもあるか」
「だって」
「は〜あ。まったく。嫌になりますね、どいつもこいつも浮かれやがってますよ」
「やァー、ウザドルの僻みスわ」
「何とでも言いなさい。いいんですよ、別に。私にとってはクリスマスなんて年末商戦の一環でしかありませんから」
「へーへー」
「――とか言いながらクリスマスのラブソングなんて流すのやめていただけますぅ〜!?」
こーたは安定の浮かれたカップルしねしね団みたいなことになってるし、律もそれに対するラブ&ピースを緩めない。今日もMMPは平和だ。
流れて来るラブソングは雪を天使の羽に例えてみたり、鐘が鳴ってたり。浮かれてんじゃねーよと思うのは俺も同じだけど、この場合降ってる天使の羽は律とかいう殺戮の天使の物なんだよなあ。