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【SSS】exercise my bargaining power

「菜月さまー! 菜月さまー!」
「ちょっ、何なんですか。この時期にこの持ち上げ方、想像は付きますけど」
「どうかー! この村井めをお助けくださいましー!」

 村井おじちゃんが菜月さんに助けを乞うている。と言うかそれこそこの時期にこの持ち上げ方。村井サンが何を求めているのかが丸わかりで面白いね。――と言うか、わざわざそれをもらいに既に引退したサークルを覗きに来るのがね。悪足掻きをしているという感じがあって滑稽だ。

「菜月さんに助けを求めるとか」
「失礼な奴だな」
「クッソ……圭斗め。草生え散らかしやがって」
「いや、どう考えてもおかしいでしょう」


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【SSS】主人たる力と召使の正義

「宇部、少しいいか」
「何かしら」

 菅野が険しい顔をして私に話しかけてきた。人がいるところでは話しにくいことのようで、図書館の自習室まで連れ出される。相当警戒しているようね。ちょっとした話なら人払いをするにしても部室で、ということがほとんどなのだけれど、部室も今は人の往来が多いからと断られたわ。

「よほど重大な話なのかしら」
「俺が日頃付けている議事録と、坂戸の管理している会計帳簿を見比べた」
「部費の中に使途不明金や、各班に割り当てられているステージ準備用の資金に差異でもあったのかしら」
「……その様子だと、お前は全部知っているってことか」
「先に言っておくと、私も全容を掴んでいるわけではないわ」


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【SSS】再起 〜抜け駆けの月曜日〜

「あ〜さ〜か〜ク〜ン、お〜は〜よ〜」

 金曜日に熱中症をやらかして、休養に充てた土日を経て今日に至る。ステージ前最後の一週間。星ヶ丘大学では先週の金曜からテスト期間に入っていて、今週も引き続きテスト週間だ。とは言え俺と山口はテストのない講義ばかり履修しているから、レポート提出を除けばあとは自由だ。
 俺たちはテスト期間中の日中に動く作戦を取ることになっている。俺たちのテストがないのと、俺たちの妨害をしてくる日高がテストで手一杯なのと、という事情だ。日高の目さえなければ俺たちに対する監視網や妨害の手は緩まる。その隙にやることをやってしまうのだ。
 戸田と源は1、2年だから授業コマ数もまだまだ多い。だけど使う音や道具などは今日に至るまでにほぼほぼ揃えてくれたし、後は台本に沿った練習が主になる。源に大きく影響を及ぼすような台本の変更はするなと戸田から釘を刺されているし、俺もそれには納得をして変更は些細な点に収めるつもりだ。


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【SSS】after midsummer day of the ox

「菜月さん、いるかい?」
「ああ、圭斗。どうしたんだ、実家に帰ってたんじゃないのか」
「ちょうど戻って来たところでね。頼まれていた物を買って来たから、それを渡しに来たんだよ」
「明日でもよかったのに」
「なるだけ早い方がいいと思ったんだよ。一応賞味期限のあるものだしね」
「それはお気遣いどーも」

 圭斗がうちを訪ねて来た。うちはと言えば、圭斗が来るなんて思ってもないから髪は手櫛でざっくり結んだ上にメガネのままだ。それでもって、寝て起きたまま着替えてないから青い部屋着のまんまで。まあ、圭斗はそこまで肩肘張る間柄じゃないけども、さすがにラフ過ぎるとも思う。
 うちに手渡されたのは“うなぎのたれ”だ。話せば長くなるけど、圭斗は無駄にウナギに気合を入れている。アイツの地元、山羽エリア湖西市は全国でも有数のウナギの産地だ。それが誇りなのだろう、せめて丑の日だけでもとわざわざウナギを食べるためだけに実家に帰るのだ。
 スーパーを見歩いていても、土用の丑の日だ何だとウナギならびにその代用品が所狭しと並んでいた。うちはウナギをあまり食べないから、そのコーナーはスルーしていたんだけど。ウナギってかば焼きの他に調理法がないような気がする。うちの知識が貧弱なだけかもしれないけど。
 でも、あのたれは本当に美味しいと思う。甘くどくて、ご飯に合う。うちはあまり白いご飯を食べないけど、味が変われば話も全く変わって来るんだ。さすがに「白飯を食わねえと飯を食った気にならない」とかいう大飯喰らいどものようにはいかないけど、丼一杯くらいなら食べられるようになるんだ。


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【SSS】拗れた内情のレポート

「はー……」
「泰稚、お疲れなんだ。冷たいお茶なんだ」
「ああ、ありがとう」

 今日はバンドの方の練習で、スタジオのある星羅の家に来た。それまでが何て言うか、すごく疲れたとしか表現しようがない。それは、金曜日にあった丸の池ステージのリハーサルからだ。星羅が淹れてくれた水出し緑茶を一口。うん、美味しい。しみる。

「泰稚がスケジュールを動かすなんて珍しいんだ」
「あれっ、詳しい話ってしてなかったっけ」
「聞いてないんだ。言えないなら聞かないんだ」
「いや……ステージのリハの時に朝霞が熱中症で倒れたんだ」
「えっ! 大変なんだ! 大丈夫だったんだ!?」
「ああ。洋平と応急処置をして病院にも連れてって、異常はなかったからあとはゆっくり休んでもらってっていう感じだな」
「それは良かったんだ。でも、朝霞が大人しくしてるとも思えないんだ」
「まあな」


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