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 気功治療への道案内/十日目

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◆原穴を覚えよう!

 梅雨が明け、猛暑のヒビが続いていた。
 おかげさまで我が愚庵は山辺にあり、障子や窓を開けているだけで木々の間を抜けてくる涼風が家の中を通り抜けていく。

 「先生、前回、私の場合は脾の原穴の太白というツボを教えてもらいましたが、佳与さんの時は、私の肝が弱いということで、何処か足のツボを使っていたようなんですが、五行全体の肝、心、脾、肺、腎のそれぞれに用いる経穴を教えて頂けませんか?」
 珍しく茉奈が先に口を開いた。
 「いま、している練習は、、私たちが脈を診て、最も弱いと感じる脈に応じた経絡の原穴に気を入れる練習で、これは証を決めてする本当の治療ではありませんからね…」
 すると、私の言葉に続いて佳与が口を開いた。
 「ツボから気を入れると脈に変化が起こるのを確かめるという練習をしているということですね?」
 「そうです。
 だから、最も弱いと感じられる脈だけを用いているので、その基本になる原穴だけを用いて練習しているんですよね。」
 「証を立ててする本格的な治療の場合には、用いるツボも違うということですか?」
と、茉奈が訊いた。
 「そういうことになりますね。
 でも、その段階に行く前に、いまの私たちは、脈を診て、弱い脈、つまり、虚の脈を見つける、そして、弱い脈に相当する経絡のツボから気を入れる、気を入れると脈が調われるという一連の作業を通して、脈を診る技術と、気を入れる技術を高めていくことに取り組んだ方が良いと思うんですよね。」
と、私は告げた。
 佳与が手を挙げた。
 「原穴は、練習に用いるだけですか?」
 私は応えた。
 「ちょっと難しいですが、経穴には、一般のツボと五行穴というツボ、5要穴という三種類のツボがありましてね、そうですねぇ、電車で言えば、特急しか止まらない駅、急行なら止まる駅、どれでも止まる駅みたいな感じで、かなり大事な経穴群、少し大事な経穴群、一般の経穴群という具合に、ツボにも色々な役割があって、いま私たちが勉強している原穴は、各経絡の中で、補にも瀉にも用いて良い基本になる優れもののツボなんですよ。」
 私が言い終わると、佳与が、
「あのー、先生、まだ原穴、習ってません。」
と、笑いながら言った。
 「そうでした、そうでした。」
 そう言って私はホワイトボードを取り出し、次のように記した。



肝 →太衝
心 →神門
脾 →太白
肺 →太淵
腎 →太谿
心包→大陵


 「では、この六つのツボの場所を覚えましょうか。」
 そう言って、私は説明に入った。

 説明についてはみなさんにわかりやすくするために、会話形式をやめて、まとめて書かせて頂きますね。

1、肝の原穴→太衝(たいしょう)
*足の甲側で、親指と第二指の骨の間を撫で上げてきて、二つの骨が合流するところにぶつかったところ。
*骨と骨の谷間。

2、心の原穴→神門(しんもん)
*掌側の手首の小指側で、手関節に出来る横紋の先端にあたるところ。
*手根部の小指側にある少し尖った骨の下際。

3、脾の原穴→太白(たいはく)
*足の親指側の内側で、親指の根っこにある丸くて太い骨の後ろ側の凹んだところ。
*親指の中足骨(足の甲にある細長い骨)の内側の下縁を指に向けて撫で下ろしていって、太い骨にぶつかったところの凹み。

4、肺の原穴→太淵(たいえん)
*掌側の手首にあり、脈を診る時に人差し指の当たるところ。
*寸の脈である肺と心を診るところ。

5、腎の原穴→太谿(たいけい)
*足首の内側にあり、内踝とアキレス腱との間にある凹み。

6、心包の原穴→大陵(だいりょう)
*掌側の手首にある横紋の真ん中。
*手首に縦に走る二本のスジ(腱)の間。

 「では、今から、また二人で組んで、脈を診て、最も弱いところを見つけ、今日は、その経絡の原穴だけではなく、虚にあたる経絡の相生的に母にあたる経絡や相剋関係にあたる経絡の原穴などにも気を入れて、それぞれに脈の変化を診てみる練習もしてみましょうか。 
 そう私は提案した。
 「ということは…」
と、茉奈が目だけを上に向け、かんがえながら言った。
 「例えば、脾が虚だと診た場合、脾だけでなく、脾の母に当たる心や脾の相剋にあたる肝の原穴にも気を入れて脈の変化を診てみるということですね? 
 すると、
「それ、私、まだよくわかんないから、茉奈さん、また教えてね。」
と佳与は言って、さっさと横になったのであった。