いつもながら、この展開になるとわかっていて抵抗しない俺も俺なのはわかっている。酒を飲んでぐだぐだになったり、気持ちが落ち込んだ菜月の相手をするのは慣れたものだ。
今も、たまたまこっちに帰ってきてた菜月と飯を食って、酒を飲み、酒を飲み、止めたにも関わらず菜月はまだ飲み、ぐだぐだな現在に至る。腕を取られ、今にも泣きだしそうな顔をされたところで、どうしろと。
「菜月、寝るなら寝る、起きてるならしっかりしろ」
「もうちょっと……」
「さとちゃん、鍵持ってる?」
「ありますよー」
「ちょっと借りるねー」
さとちゃんは台所で水仕事、俺は部屋で洗濯物を畳むゆったりとした時間。まだもう少しさとちゃんは時間がかかりそう。その間に、さとちゃんに渡しているこの部屋の合鍵をちょっと拝借。
あんまり相手をびっくりさせすぎない、ささやかなサプライズは好きだ。特にさとちゃん相手だから、変に怖がらせたりするようなことはしない。高崎相手だったら軽くジャブを入れる程度に驚かしたりしたけど。
文鳥カフェのついでに俺に会いに来たらしい水鈴が帰る時間になった。星港から光洋まで新幹線で1時間ちょっと。案外簡単に来れる距離だ。こっちでも何だかんだ振り回され、新幹線のホームまで見送っている。
大学を卒業後、水鈴はタレント一本で行くことになっている。今は情報番組の仕事を1本持っていて、話題になっている物や場所に行って体験したことのレポートが主らしい。ただ、本人の希望はあくまでイベントMC。まだまだこれからだそうだ。
俺は義肢の研究開発の道に進むことになっている。入社式はこれから。研究施設と言うよりは、町工場と言うのに近いかもしれない。だけど、スポーツ用に肉体労働用、もっと細かいシチュエーション。細かな要望に応えられる仕事に惹かれた。
「やァー、気紛れで引いたら出たンで奈々にあげヤす」
「きゃーッ! いいんですかいいんですかッ! りっちゃん先輩いいんですかこんなかわいい物をッ!」
「自分が持っててもしャーないンで」
「きゃーッ! 大切にしますねーッ!」
奈々がきゃっきゃと喜んでいる。何が起きたのかにさほど興味はない。ただ、律が何かを渡していたようにも見える。ガチャガチャのケースだろうか。奈々が喜んでいるよりも律がガチャガチャをするというシュールさがヤバい。
今日はMMPの3年生追いコンで、ボウリングからの食事会(酒はない)に落ち着くことになった。ボウリングは3年生のムライズムと負けず嫌いを久々に見たし、何より菜月先輩と圭斗先輩のコンビネーションが素晴らしく眼福だった。
それからボウリング会場近くの鍋屋へやってきたのだ。確かに入り口にはガチャガチャが何台かあったような気がする。律の奴、いつの間にか回してやがったのか。どんなラインナップなんだろうか。後で見てみるか。
「カ〜ズ〜」
「おかえり……って慧梨夏、大丈夫か顔色悪いぞ。イベントで人酔いしたか」
「事件だ……」
慧梨夏がとんでもない顔をして帰ってきた。血の気がちょっと足りないような感じ。どんな事件があったのかはパンピーの俺にはちょっとよくわかんないけど、血の気がないのはよろしくない。
今日は例によってイベントということで慧梨夏はアヤさんと一緒に参戦することになっていたと聞いている。それと、就活で出会ったお仲間の人を巻き込んだとか。