小生の名は黒田官兵衛。先見の明があって、頭もいい(何せ軍師だ)、豊臣軍でもちょっとした地位にある無類の男前だ。
 ツキに恵まれないのが欠点といえば欠点だが……人間、足りないもののひとつやふたつなきゃ可愛げってものがない。そうだろう?
 ツキのなさを馬鹿にして、小生を暗の官兵衛なんて呼ぶヤツもいるがね。毛利や三成なんかがそうだ、あとは……刑部とか刑部とか刑部がだ。

 …………。

 くそっ、小生だってな! 好きでこんな星の元に生まれついたわけじゃないんだよ!!
 運がよくなる方法があるなら教えてほしいもんだ!!


 ……まあ、つまりだな。
 いろいろな不運を経て、小生は悟ったのさ。どうにもならないツキのなさは、輝かしい小生の人生のなかでキラリと光る演出だ。これはもう個性ってヤツだ、開き直ってやるってな!!
 あがいてどうにかなるなら、あがいてやるさ勿論。そこはまだ諦めちゃいないんでね。

 そうとも、諦めなかった甲斐あって、小生は少しばかり特殊な力を手に入れた。どうやって手に入れたのか、具体的な手段は聞かないでくれよ。頭のいい小生にも、そこのところはよくわからん。

「というわけでだ! そろそろお前さんにいびり倒れる日々からも解放のされ時だ!」
「やれ、暗よ。頭が沸いたか、ついに中身は零れ出ったか」
「なんとでも言え! これからの小生はひと味もふた味も違うんだよ!! 刑部、お前さんの理不尽からも逃げ切ってやる!」
「…………さようか。では、試しやれ」
「おおおぉ?!」

 いきなり数珠の正攻法とは、お前さんらしくないな刑部?!
 落ち着け小生、ここであれを使えば…!

「小生の幸運の女神、時よ留まってくれ! お前さんは何より美しい!!」

 あ? 何を言ってるのかって?
 気が変になったわけじゃないぞ、呪文ってヤツだ。刑部のような物騒なまじないはやらんがね、小生のこいつはこの言葉でしか使えないんだよ!

「どうだ!? これで刑部のヤツは…!!」

 さすが、小生……いや、幸運の女神。こっ恥ずかしい文言言わせるだけのことはある、刑部も数珠も見事に静止だ。見たか、これが小生の奥の手だ!
 時間を止める秘術なんぞ使った日には、さすがの刑部も手も足も出ないだろう!?

 今のうちに小生は全力で退散するかね。何せこの秘術、たったの三秒しか保たないんでね!!

「暗め……ついぞ現と夢の境もつかなくなったか」
「官兵衛、貴様ァ!!」

 おっと、動き出したか…「って、三成を使うとは卑怯だぞ刑部ーッ!!」

「知らぬな。」
「黙れ、官兵衛!」
「っ…ぐぁッ?!」
「三成は、われが止めるいとまもなく逸るのよ」

 やっぱ逃げきれなかったか……ッ駿足の三成相手に三秒なんてあってないようなもんだぞ畜生!!
 いや、それよりもこの、今にも首を(絞め)落とされかねん状況…っなんとか、ならんかね…苦しいんだが…っ?!

「三成、いくら暗とて死なせてはならぬ」
「何故だ、刑部。ここまで馬鹿を極めた官兵衛など、秀吉様には不要だ!!」
「何、身ひとつあらば遣いようもあろ。そも太閤の許しなく殺し、後悔するのはぬしよ三成」
「……官兵衛……貴様永劫頭を垂れていろ! 今ある生を秀吉様の恩情と刻み、献身すると誓え!! 秀吉様の御世に暗躍し、刑部を侮蔑することはこの私が許さない…!!」

「ぐっ?! ……く…」
「さもありなん。ぬしの運とは、その程度よな」

 くそっ…いつだ、いつから三成はいたんだ!?
 なんでいつも刑部にばかり状況は味方するんだよ!!?

「ッなぜじゃーーーッ!! なぜいつもこうなるんだー?!」




「……付き合いきれるか。刑部、あとは貴様がなんとかしろ」
「あいわかった、三成。任しやれ」



(こうして、黒田さんの受難は続くのでした)
・・・終わったんだよ。


 という夢を見た、二度目の映画鑑賞後の夜。