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【SSS】闇を掬う

 時刻は夜の11時半過ぎ。4フロア分の階段を登り切って見える高架には、発車した電車が滑るように加速していく。これが終電か、精々あと1本というところだろう。目の前の部屋のインターホンを短く2回鳴らし、相手の出方を待つ。
 春とは言え、夜はまだ冷える。それに、見た目からして女の住人が多そうなピンクの外壁。そんなところであまり長い間待たされたくはない。ただ、俺の部屋からも決して近いとは言い切れないその場所に、のこのことやってきた俺も俺だ。

「あ」
「おう」
「ホントに来たんだ」
「てめェが来いっつったんだろ」
「……まあ」


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【SSS】1人の部屋と2人の空間

 4年に上がるのを機に伊東は部屋を引き払って実家に戻った。それは伊東家の掟じゃないけど、教育方針とかそんなようなことで。通えない距離ではないし、4年にもなれば授業も少ない。必ずしも1人暮らしをしていなければならない理由はない。
 ――というわけで、宮林サンの部屋でなければ俺の部屋に転がり込むことも増える。バイトの前後だとか、何でもない時でも。それで人のクッションに全身を投げ出すのだ。いくら全身投げ出せるクッションとは言え、好き勝手し過ぎだ。

「っくしょい! へーっくしょい! あ〜……浅浦、ティッシュ」
「ほら」


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