「俺どうしたらいいか分かんなくてっ」
しまいに情けない声で助けを求めるから正面口まで行くと説明通りの状況が広がっていた。
「何これ」
「報告した通りですよ! 俺だってわけ分かんないっす…」
「あ、そう」
「ダリアさん〜」
「中入れていいんじゃねえの?」
「まじすか!?」
「……」
「じゃあダリアさん、連れて行ってあげてください!」
ぽんっと軽快な音でも聞こえてきそうなほど軽々しく俺の肩を叩くとあとはよろしくお願いしますと言って巡回に戻っていった。
薄着の少年が、そこにいた。
手を差し出すと、少年はじりじりと後退ってしまった。慌てて腕を掴むと大きく肩を揺らしその場にへたり込んだ。
「おい!」
「……」
「中入ろうぜ。寒いだろ」
「…い、やだ…」
「なんもしねえから。お前が大金持ってるようにも見えねえし」
「……」
寒いから早く中へ入りたいので苛立ってしまう。少年こそ寒そうなのに何故嫌がるのか。
「おら、行くぞ」
そう言って更に力を入れると少年はいよいよ抵抗を強め、俺は無理に連れていく他になかった。担ぎ上げると今度はごめんなさいと言い始めたので嫌悪感が込み上げる。
これではあの男と同じじゃないか。
そうか。ああいうことをされると思っているのか。
「うるせえ!! なんもしねえって言ってんだろうが! ほんとになんもされたくなかったら黙ってろ!!」
少年は硬直した。寒さにではなく恐怖に。
建物に入ると仲間は犯罪者を見るような目を寄越したが、それに抵抗する気力もなくなる。どうせ俺の少年愛は犯罪なのだ。
自分に対する嫌悪感が込み上げた。
仮眠室に連れていき、少年をベッドに下ろす。目立った外傷はなく、また、少し衰弱しているように思ったがあの暴れ方なら心配もいらないだろう。寒いだろうが震えてはいない。
「お前、名前は」
「りゅう」
「あ、そう」
「オニイサンは、名前は」
服装や容姿を見た時も思ったが、名前や言葉使いもそういう出身なんだと思わせる。
罪悪感なんてないけれど。
「ダリア」
「…あの、ありがとうございました」
「…服脱げ」
「え」
「服、脱げ。シャワー浴びろ」
リュウはベッドの縁に座る俺から遠ざかるように壁に向かう。反射的に腰を捻って脚を掴むと再び激しく抵抗し始めた。黙れと言えば余計に叫んで俺から逃れようとし、それに苛立つ俺は俺で余計に声を荒げる。
リュウの目からは涙が零れ落ちた。
身体を売っていたんだろう。今更怖がるのか。それとも余程の嫌な目に合って、それで逃げてきたとか。
俺は少年の目に、そう映るのか。
「シャワー浴びるだけだっつってんだろうが!!」
「やだああぁぁぁぁ!!」
「喚くな! 殺すぞ!」
「…ひぅっ、ごめんなさい……も、ヤだ…ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい…」
「……」
「…ごめんなさい、……痛いのは嫌だ…ごめんなさい、ごめんなさい、」
「うるせえ! 誰もてめぇになんか欲情しねえんだよ!!」
「へえ、そう」
冷めた声に振り返るとミツルとチャップが扉を開けて立っていた。ミツルは挙動不審に目線を泳がせ引き攣った笑みを浮かべている。チャップは綺麗に笑っていた。
怒っているらしい。
その目の余りに冷ややかなことから冷静になると、確かに弱り切って泣いてさえいる少年を羽交い締めにして殺すぞなどと言って身体の自由を奪ってシャワーに連れ込もうとしている少年愛の男は異常なのかもしれなかった。
誰にでも欲情するわけでもないのだけれど。
この少年は好みに違いないけれど。
一気に脱力してリュウを手放すと、恐怖に竦むリュウはその場に倒れながらも未だにごめんなさいと繰り返した。
「さいてー」
チャップがなんとかしてくれるらしいと思ってしまえば面倒を押し付けるようでもリュウを置いていくのが一番だと思えた。ミツルは精一杯の気遣いで「事情は聞いた。あとは俺がやるから」と去り際に言うのだった。
今日は頗る運が悪い。