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卯月/量産型の憂鬱

牡丹さんの帰りが早かったのは、一緒に暮らすように成ってからその日が初めてだった。

「ただいま」

その言葉を聞いたら、私は堪らなく嬉しくて「おかえりなさい」と答えるのを忘れてしまったくらいだった。父や母が言うのとは違う、それは本当に甘美な言葉だった。

「料理?」

牡丹さんはキッチンを覗いてそう尋ねた。

「そう。お夕飯をね、作っていたところ」
「奥さんみたいだね」

私は多分、間違いなく、赤く成った。

「そしたら牡丹さんは、旦那さんみたいですね」

私の精一杯のお返しを牡丹さんは楽しそうに笑って躱した。

牡丹さんのその優しい笑い方に私はいつも体中の力を抜き取られてしまう。そこに、ぺたん、と座り込んでしまいたいくらい、私の体はふにゃふにゃに成る。

「牡丹さん、着替えないの?」
「うん」

牡丹さんは頷いて、部屋に行った。

牡丹さんのスーツ姿は完璧過ぎる。絵画に描かれたモデルみたいな黄金比がそこに在る。私とは余りに違う。牡丹さんは神様が一生懸命作った人間のモデルで、私は工場で作られた量産型に違いない。



【量産型の憂鬱】



「美味しそう」

突然の声に振り返ると、牡丹さんが居た。私の直ぐ後ろ。

「ごめん、驚いた?」

牡丹さんは、ふふ、と笑った。私が驚いたのを何故面白がるのかは分からないけれど、牡丹さんが楽しそうだから気にしない。

「ご飯、もうできるよ。何時くらいに食べたい?」
「じゃあ直ぐに食べたい。お腹空いてるんだ」

牡丹さんは自分のお腹を撫でた。

「テーブルで待ってて。お料理運びますから」

私がそう言うと、牡丹さんは「俺も手伝うよ」と言って盛り付けるお皿やお箸を用意して呉れた。私はそこに鍋やボウルから料理を移す。牡丹さんと食べるのだと思うと妙に意識して変な盛り付けに成ってしまった。

「こんなご飯でごめんなさい」

私は恥ずかしくてそう言った。

牡丹さんには、もっとお料理やお裁縫がうんと上手な女性が似合う。柔らかい手をしたお姫様。

私は料理を御盆で運びながら、悲しいお夕飯が詰まらなそうに並んでいるのを眺めた。それを見ていたら、後ろから牡丹さんに頭を撫でられた。

「本当は、掃除もご飯も俺がやる積もりだったのに。梅香に無理させて、ごめん」

何故、牡丹さんが謝るの?

「どうしたの?」

私が振り返って牡丹さんを見上げると、牡丹さんは大切なものを失ったような顔をしていた。

「俺はこんな感傷的な人間じゃない。分かってるよ。でも梅香が家に居て、俺が仕事で夜遅くまで帰れない時間、一人で過ごして居るのかと思うと駄目だ。今日も、本当はこんなに早く帰る筈じゃなかった。会社の人に飲みに誘われてたのを断っちゃった」

牡丹さんは崩れ落ちるように近くの椅子に座った。

牡丹さんを感傷的にさせているのは私だ。私はそのことが悲しくて、とても悔しく思った。

駄目じゃない。

全然、駄目じゃない。

牡丹さんの完璧ではないところ。恰好良くて、優しい牡丹さんの、完璧ではないところ。牡丹さんの黄金比ではないところ。私はそれが大好きだ。

私は料理を乗せた御盆をテーブルにそっと置いた。

「牡丹さん。私ね、今度学校の人とお花見に行こうと思うの」
「花見?」

牡丹さんは怪訝そうに私を見た。

「私はね、一人じゃないわ」

私はそう言って牡丹さんがそうするみたいに優しく笑ってみせた。

牡丹さんの笑みとは似ても似つかないそれを、それでも牡丹さんは真剣に受け止めて呉れたと思う。牡丹さんは私をじっと見てから、ゆっくり目を離した。

「学校はどう?」

牡丹さんは少しだけ暗い声でそう言って、続けて「こんな話しも、今までちっともできなかったね」と自嘲した。

「友達なんて一人もできないと思っていたのに、できたの。入学式の日には牡丹さんとの約束を守れるようにって気負ってたのに、今はそんなこと考えてないのよ。ただ、明日も学校に行くんだわ、って思ってる」

そうだ。

私にはあやめが居る。

「その友達と花見に行くの?」

牡丹さんは御盆の料理をテーブルに並べながら尋ねた。

おそらく、あやめは花見に来ない。本当は来て欲しいけれど、花見に招かれただけの私があやめを誘うのも憚られるので黙っている積もりだ。だからあやめは花見に来ない。

それは確かにそうなのだけれど、今そのことを牡丹さんに説明するのはちょっと話しがややこしくなりそうで、私は心の中の蟠りを飲み込んだ。

「そう。今度の土曜日」

牡丹さんは何時もみたいに笑った。

「そうかあ。俺の杞憂だったね。そう言えば、梅香はもう子供じゃないもんね」

牡丹さんの声には明るさが戻った。私はそれが嬉しい反面、牡丹さんを嘘で騙すなんてことをして後悔もしていた。

甘えれば良かったのだ。花見には行きたくない、上級生にからかわれて嫌な思いをしている、せめて牡丹さんと一緒に行きたい、そう懇願すれば良かったのだ。

牡丹さんなら拒否しなかった。

ねえ、そうでしょう?

牡丹さんはふんわり微笑して、「ご飯をいただこう」と言った。

「はい」

私は良い子の返事をして席に着いた。

不細工な料理が、惨めな私を笑う声が聞こえた。

雨は天から涙は目から

瀬川って直ぐ泣くよね、と初めて耳にした時から、俺は瀬川が実際に泣くところを見たことがない。

瀬川って直ぐ泣くよね、って言ったのは誰だ?

高橋と大久保と。あー、あと誰だっけ?

「弓は一人暮らししないの?」

瀬川は慣れた手付きでホットケーキを切りながら言った。居酒屋で僅か2品目でホットケーキを注文する女は瀬川ぐらいじゃねえの、と俺はちょっと面白くそれを眺める。しかもホットケーキの次は手羽先が来る予定だ。

瀬川は大学を卒業してから割と直ぐに一人暮らしを始めた。お姉さんに甘えっぱなしの瀬川が一人暮らしするのはちょっと意外だった。

「一人暮らしね。転勤したらすると思ってたけど、ずっと東京勤務だからなあ」

俺の答えに瀬川は「ふうん」と曖昧な相槌を打った。人に質問しておいて答えをちゃんと聞かないのは相変わらずだ。

大学を卒業してから殆ど会うこともなかったけど、瀬川からメルアド変更のメッセージが来てから話しが弾み、こうして会うことになったので、実際にこんなにじっくり話すのは3年振りか。

瀬川は見た目は可愛いので俺もこうして会えるのは嬉しい。あわよくば、とも考えていることは、気付かれているかもしれない。

「この間さ、すっごい雪降ったよね」

瀬川はそう言って俺を見た。

きれーな目。青っぽいグレーの瞳。

「確かに。金曜日は午後2時くらいには帰っていいって言われたなあ。お前んとこは?」

瀬川は驚いた顔で「途中で帰ったの?」と尋ねた。こちらの質問への答えは、詰まり「いいえ」ってことか。

「台風とか雪とか、社員帰せなくなったら会社も責任取れないだろーしな。そういうことたまにあるよ」
「そっかあ」
「瀬川は。帰れたの?」

瀬川は「帰れたよ」と素っ気なく言った。

「店長が『僕んち泊まる?』とか言うから、帰った」

またお前は、なんつーことを。

しかし店長もセクハラの負い目があって引き留めなかったか。やるか、やられるか、殺伐とした職場だな。

「店長って。お前、なんか同僚にも迫られてるんじゃなかったか」

俺はそう言ってから、これは本人からではなく人づてに聞いたことだったことに気付いた。たしか大学時代の女友達がそんなことを言っていた。ムカついたから憶えてたんだ。カッコわりー。

瀬川は「あっ」と呟いて手を打った。

「仕事変えたの。言ってなかったね。コンビニって変な人多いしね。お姉ちゃんも辞めた方がいいってずっと言ってたし、私も夜シフトとか嫌だったし。今はケータイ売ってる」

瀬川は正社員じゃないんだ、って思ったら、言葉が出なかった。

だって俺、フリーターのこと馬鹿にしてる。

「今は夜勤ないし、ちょっとだけどボーナスも出るんだよ。契約社員なんだけどね」

契約社員。やっぱり。

一生その仕事できんの? ババアになってもミニスカートの制服着てケータイ売るの?

俺には分かんねえよ。

「コンビニ、変な奴いたの?」

時間掛けて考えて漸く出た言葉がそれだった。普段から馬鹿にしてるから、なんか話したらそれが伝わるんじゃないかって思ったら、どうしてもその話題に触れ難かった。

でも良かった。瀬川は特に気に留めずにホットケーキを食べているっぽい。

「まあ世の中変な奴ばっかだよねー」
「そう?」
「雪の時、職場の近くで雪になんか掛けて食べてる人いてびっくりしたもん。変な人いるなーって」

きっと子供のことじゃないんだろうな。

それは俺でも驚くよ。

「職場どこ?」
「田町」

おお、俺の職場と近い。

「どこ住んでるんだっけ?」
「田端。別にどこでも良かったんだけど、三鷹より田町に近かったから」

それが瀬川にとって不本意なことなのか、そうでもないのか、俺には分からなかった。瀬川は特に辛そうとか面倒くさそうとかいう風でもなくて、食堂で内容見ずにAランチ注文したらメンチカツだった、みたいなテンションだ。

瀬川ってそういうところがある。

心配してやったら、ケロっとして忘れていたり。へらへら笑ってるから放っておいたら骨折してたり。

職場が近いことが分かったし、まあいっか。

瀬川がどう思ってるかは考えても絶対に理解できない。

「田端もけっこう雪降ったの?」
「降ったよー。雪かき用のシャベル買っちゃった。それで雪かきしまくった」

瀬川は笑って言った。

無邪気なその姿は見ておきたかった。

俺って瀬川が好きなのか?

不明だ。

「雪かき疲れなかった?」
「疲れた。でもなんか楽しくてさー」
「それはいいことだろう。周りは助かっただろうね」
「どうかな。雪かきしてたら『大変じゃない? 手伝おうか?』って言われて、途中休んじゃったよ」

誰だ、それは。

それは今突っ込んでいいのか?

「良かったじゃん。近所の人?」

瀬川は首を傾げて「知らない」と答えた。その仕草はとても可愛いと思ったけど、瀬川の無防備さを恨みもした。

瀬川は見た目でまず人生がイージーモードだ。助けて欲しそうな顔、助けてやってもいいかと思わせる顔、無垢で素直な顔、幼くて無知で悪さを知らない顔。

だいたい初めて瀬川と会った時、瀬川は教室から下駄箱までの僅かな距離で男に鞄を運ばせていた。思い返すと酷い状況だ。中身の無さそうな瀬川の学生鞄は、きっとノート数冊分の重さしかなかっただろう。それを下駄箱で瀬川に返した男は、やや緊張した面持ちで「オレ、1組の長浜っていうんだ。メアド教えてよ」と言ったのだった。

今思えば、俺は瀬川をたった一目見た時から既に心を奪われていたのかもしれない。鞄を持って、優しくしてやりたかったのは俺も同じだ。

いつもそうだ。

俺は瀬川を助けたくて、よく目で追っていた。

「雪、綺麗だったね」

瀬川はそう言って最後のホットケーキの欠片を口に入れた。

「うん。あんなに沢山降るのを見ると、圧倒されるよね」

俺は会社で誰かが言っていた言葉を無難に返した。それを聞いた時は、雪が綺麗だっていうのは世間知らずで幼稚な意見に思えたけれど、瀬川にはその方がいいだろうと思った。

「彼氏がさ、居たんだけど」

瀬川は俺の話しを聞いていなかった。

なんて答えても良かったのかと思うと、簡単な返答にも躊躇する自分のことが女々しく思えて情けない。

「あ、そうなの」

はあ、情けない。

「雪が綺麗だねって言ったら、そうかなって言うんだよ。真っ白で綺麗って言ったら、空気中の汚れが付いてて汚いって言うんだよ。久しぶりに積もって楽しいって言ったら、経済活動ができなくて困るって言うんだよ」

瀬川は淡々と続けた。

「わかんないんだけど、悲しくなって泣いちゃった」

瀬川はホットケーキの皿を下げてもらい、手羽先を一つ摘まんで囓った。

「私はそれで外に出て、雪かきしてたの。手が冷たくて感覚なくなったとき、『手伝おうか?』って言われて、それで私は彼氏と別れた」

え?

瀬川のロジックが分からない。

「それでメアド変えて、弓といまお酒飲んでる」

塞翁が馬って解釈でいいのかな。俺は瀬川が彼氏と別れたちょうどいいタイミングで再開できて嬉しいけどね、瀬川にとっては違うんだろうな。

「大変だったね」

俺が御座成りに返事をすると、瀬川は手羽先を食べる手を止めて俺を見た。

瀬川の顔はやっぱり綺麗だった。

「瀬川、いま彼氏いないの?」

俺が尋ねると瀬川は「いないよ」と答えて目を伏せた。目の周りの化粧が思いのほか濃いことに気付く。長い睫毛は所謂つけまつげかもしれない。

「雪のとき別れて、そのまま」

なんかこれってビッグチャンス?

「そうなんだ。嬉しい」

俺は瀬川の反応を窺い見た。瀬川はまた手羽先を囓り始めたので俺の誘いに乗る積もりはないのかもしれない。

俺は諦めなかった。

「でも瀬川可愛いからまた直ぐ彼氏できちゃうね」

俺の言葉を無視して瀬川は無言で手羽先を囓っている。

「瀬川。俺、瀬川のことずっと好きだったよ」

ずっとかどうかは分からない。

でもいま好きだと思うから、大した嘘ではないだろう。

「この手羽先、美味しいね」

瀬川はそう言って笑った。今まで殆んど笑わなかった瀬川が笑うのは卑怯だと思う。その少し恥ずかしそうな笑みは、俺の言葉に対してだとは思えないんだよな。

俺の話し、聞いてなかったに違いない。

それから暫く俺達は食事を楽しんだ。瀬川は時々自分勝手に話しては食事を口にして美味しいね、と言うのだった。

店を出ると外はもう暗かった。

「もう一軒行こうよ」

俺が言うと瀬川はちょっと嫌な顔をした。

「久しぶりに会ったからさ、せっかくじゃん。瀬川は田端でしょ。山手線なら電車はまだまだあるよね」

強引でもいい。

もうこんな機会はないだろうから身を引く方が馬鹿だ。

「カラオケと居酒屋どっちがいい?」

俺は瀬川の肩を抱き寄せて言った。瀬川は嫌がらないでされるがままでいたから、俺は自分のいいように解釈することにした。

それとなく、瀬川を誘導してみる。

それとなく。

それとなく。

なんて、無理だった。

「俺、瀬川のこと好きだよ。ねえ、このままだと俺、ホテルに入っちゃいそうなんだけど。嫌ならちゃんと言ってよ。冗談はやめてって笑ってよ」

俺は初体験を控えた中学生みたいな野暮なことを言った。

セックスするのに言葉で確認を取る奴なんていない。多少無理矢理にでもやってしまえばいいんだ。それでもできなかった時が、ダメだった時だと思えばいい。だいたい酒飲んで2軒目に行く時に、それらしいサインってものがある。良いサイン、悪いサイン。

でも俺には今の瀬川が何を考えているのか全く分からなかった。良いサインなのか、悪いサインなのか、丸で分からなかった。

瀬川からの返事は無い。

俺は決意した。これは良いってことだ。良いサイン。

言葉で聞いたのは野暮だった。女ってそうだよな。言わなくても分かるでしょ、ってアレ。

俺は歩き続けた。

いよいよホテルの目の前まで来てから瀬川は急に立ち止まった。

「取り敢えず入ろう。本当に嫌なら、俺、それ以上は何もしないよ」

我ながら無茶苦茶だと思う。

でも身体が熱くて止まんねえ。

俺は瀬川の体を強引に引き寄せてホテルの中へ入った。

ごめん、瀬川。

瀬川はホテルの前で立ち止まったこと以外には目立った抵抗はしなかった。だからと言うのも卑怯だとは思うけど、服を脱がせて風呂場に連れ込むと興奮して瀬川のことなんて考えてられなかった。

もういいじゃん。

やっちゃえば既成事実ってやつだろう。

俺は手に石鹸を付けて瀬川の体を弄って、自分の体もちょっと洗った。

始めは「せがわ」「すげえ、いいからだ」って話し掛けていたけど、瀬川からの返事は無いし、自分でも驚くくらい興奮して余り記憶もない。流れでベッドに入って、あっという間にやってしまった。

「瀬川。シャワー、先いいよ」

俺がそう言っても瀬川は動こうとしなかった。寝てるのかと思って覗き見ると、瀬川は目を開けてぼーっとしてた。

「瀬川?」

俺は瀬川の肩に手を置いて、ちょっと罪悪感を感じた。

なんか話してくれ、そう思ったのが伝わったのか、瀬川は口を開いた。

「これって、今日だけなの?」

え?

中途半端なことを言わない方が良いだろうと思って、俺は瀬川の次の言葉を待った。

「私、男の人の『好き』って言葉がよくわかんない。女の子の言う『カワイイ』と同じ? 弓の言う『好き』って、『カワイイ』っていう意味なの?」
「俺のは、」

俺が答えようとしたら、瀬川は身じろぎして立ち上がった。スレンダーな体の前だけをフェイスタオルで隠して、風呂場に行ったらしい。

なんか言った方が良い。

でも恋愛に関して口下手な俺には瀬川に上手く好きだと伝えられる気がしない。

俺は瀬川を追って風呂場に入った。

瀬川は一度だけ俺をちらっと見てから、驚いた様子も見せず、直ぐに目を逸らして再びシャワーを体に掛けた。白い泡が流れてつるつるの瀬川の体が露わになった。

「どうぞ」

そう言って瀬川は俺の横から風呂場を後にしようとした。

「待てよ!」

酷くないか、それ。

「お湯、張ろうぜ。それで少しあったまろう。瀬川を急かす積もりでここに来たんじゃないよ。分かるだろ」

俺の提案に瀬川は同意も否定もしなかった。

つるつるの背中だけが見える。

「おい。無視すんなよ」

なんでか俺は怒っていた。瀬川って誰とでもセックスするんじゃねえの、ってちょっと思ったからかもしれないし、人の話しを全然聞かない態度にムカついたからかもしれない。

俺は瀬川に抱き付いた。

「俺の好きは、今日だけじゃないよ」

それだけ言うので精一杯だ。

瀬川の前に回って、瀬川の顔を見ると、瀬川は泣いていた。

なんで?

「なんで。泣くの」

瀬川は荒っぽい手付きで涙を拭った。

「もう帰りたい」

俺は放心状態で瀬川を手放した。泣くようなことを言った積もりはなかった。ちょっと怒ったけど、泣く程じゃないと思う。出来るだけ嫌がることはしなかったしさせなかった。

訳が分からない。

瀬川が部屋から出て行く音が聞こえた。

え、なんで?

本当に?

女ってマジでめんどくさい。

訳が分からない。

まあいっか。後でメールしよう。そしてまた今度会おうって誘ってみよう。俺は悪くない。

瀬川って直ぐ泣くんだな。高橋の言う通りだ。

俺は独りくしゃみした。



曰く、“雨は天から涙は目から”。
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メゾン・ドゥ・イッテー


Maison d' it KYOTO
メゾン・ドゥ・イッテー
スペシャルボックス(12個入)

鮮やかなオレンジの外装。
中にはガナッシュとトリュフが2段になって入っている。

甘い。
ガナッシュもトリュフに近い味わいなので、ここのトリュフが好きな人にはおすすめしたい。食べ応えがあるので、トリュフだけではまだ物足りないという人にもおすすめ。

凝った味わいや作り込まれた繊細なショコラではないけれど、疲れた時に一口食べたくなるチョコレート。
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PATISSERIE SADAHARU AOKI PARIS


パティスリー・サダハル・アオキ・パリ
P?TISSERIE SADAHARU AOKI PARIS
ボワット ロンド(8個入)

マカロンとクッキーのアソート。
白い外装は丸くて外から中が見えるようになっていて現代的。

男性が買っても気後れしないスタイリッシュなデザインのお菓子。とても甘いので、甘いものが好きな女性への贈り物に向いている。
色は赤や緑や黄色で華やか。それぞれ色にぴったりの香りや味付け。

マカロンはチョコレートでコーティングされているのだけれど、それぞれ持っているシトロンや抹茶の味はチョコレートに負けない。柔らかくて甘い口溶けの中に、さっくりとした食感があって楽しい。
クッキーも柔らかめであっという間に食べてしまえる。チョコレートやゴマなどの味も、しっかり作り込まれていて、とても繊細で上品で甘いお菓子。マカロンに劣らない。

色々な味があるので食べていて楽しい気持ちになれる。
次から次へと手が伸びてしまう、そんなお菓子。
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美しいものは正しい

「美しいものは正しい」

と、思う。

私は美しいものが好き。多くの人は美しいものが好きだし、そうでない人は却って不健全であるとさえ思う。

美しいものを、私達は、均整が取れているとか整っているとか表現するけれど、それは例えば分かり易く左右対称である必要はない。自然の風景などはそうでしょう。富士山が寸分違わず左右対称でなくても、あれはやはり美しい。

美しいものは正しい。

美しいものは無駄がなく、美しいものは普遍の真理を持っている。

美しいということが究極の理屈になっている。


インターネットでは面白おかしく「可愛いは正義」という言葉があるけれど、それと同じ。

美しいものには説得力があり、美しいものには迫力があり、美しいものには魅力があり、そういう力が私達の心を動かす。


美しいものは正しい、と思う。

アートフェア 東京

ART FAIR TOKYOに行って、
思ったこと。


芸術家には4つの人種がいて、美しいものが好きな人、何かを発信したい人、何かを受信してしまった人、新しいものを生み出したい人、がいるのだと思った。

そう思ったら、これまで興味のなかった現代アートも楽しく鑑賞できた。



美しいものが好きな人。

美しいものを見付ける目とそれを表現する技術を持っている。美しい造形、美しい風景、美しい構造、美しい色。

彼らの作品は美しければ美しいほど愛される。それは時に男女の愛や、神仏などの宗教に行き着くけれど、彼らの愛や宗教性は人種や文化を選ばない普遍性を持っていると思う。

私はこのタイプが好き。

これは絵画の世界では究極が求められて純芸術となるから目立つけれど、日常にも溢れているところが面白い。書体、建物、照明、衣装、これらも新しく作り出した人がたった一人いるとすれば、その人はきっと大衆芸術の芸術家だ。



何かを発信したい人。

作品の自己主張が強い。並べて見ていると演説会に来ているような、心にずかずか上がり込まれるような感覚になる。

巨大なカンバス、厚く重ねた油絵、一見して分かりやすい悲しむ人間、コピーをコピーした絵、何処かで見たことのあるような抽象、美しくない模様、脈絡のない性的表現。

芸術家自身を見ると、その服装や挙動も派手で、常に何かを発信しようとしていることが多い。現在ではインターネットを通じて発信もできる。しかし社交性が高いとも限らないらしい。

私は余り好きではない。



何かを受信してしまった人。

作品には一貫性がある。そしてそれは分かりやすい。何らかのシンボルや形、色、それらに連続性がある。ひたすら何か四角いものを描く人、ひたすら風景の中に鏡を置く人、ひたすら人の頭部を動物のそれと置き換える人。

彼らの中には作品に思想や発信すべきものがないような人もいるけれども、何故か惹かれるものがある。彼らが作品の中で『それら』に魅入られた理由を伝えることができた時、観る者は彼らの作品を愛するのだろう。

私がちょっと足を止めて見てしまう時は、このタイプが多い。



新しいものを生み出したい人。

言葉の通り常に新しい芸術であろうとする。見たことのない色の人間、見たことのない造形、見たことのない技法。

その作品というより、その作品を生み出す人を応援しようとする人が居るので成り立つ。「新しい芸術」そのものは社会性や美しさを持たない。芸術が爆発している。

私は余り好きではないタイプ。



作品を見ながら、好きだな、と思った時は、それが美しいから好きなんだ、と気付かされる。嫌いだな、と思った時は、それが自己主張が強過ぎるから嫌いなんだ、等と気付かされる。でもそれと同時に、この作品の制作者は何かを発信したいんだな、とも思えるようになった。

ああいう多数の作品に触れて興味のないものもよく見るというのは、自分の為にはいいのかもしれない。
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GODIVA

GODIVA
ゴディバ
レジェンデールトリュフ(6個入)

落ち着いていて品のある装丁。
トリュフだけのアソート。

これまでにゴディバが販売してきた歴代のトリュフの詰め合わせ。どれも基本的に苦味が強い大人向けのチョコレート。
それぞれ特徴があり、一粒をしっかり楽しめる。

ゴディバのトリュフだと、キャンディみたいなものを思い浮かべていたけれど、それとは全く違うもの。渋くて深みがある味わい。
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