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戸田

カツサンドは少し乾燥していた。

「先輩」

俺に声を掛けてきたのは宇津木だった。中等部で風紀委員長になった男。

いつもジャージ姿なので直ぐに分かる。

「何、どうした」

宇津木は伸びた前髪を邪険そうに指で流した。

「相談したいことが…」

珍しいこともあるものだ。

宇津木は俺たちを追い払って委員長の座に就いた、ということになっている。それには多少の誤解もあるけれど、宇津木より上級生の委員は揃って風紀を辞めたのも事実だった。

俺も辞めた。

苦労の多い風紀委員長を務めるようになってから今まで宇津木が俺に頼ることは殆どなかった。

宇津木は愛想笑いを浮かべた。

或はそれが彼の心からの笑顔かもしれない。

「座ったら?」
「込み入った話なのですが」
「ああ、じゃあ、」

俺はカツサンドを見た。

宇津木はそれに気付いて、「今日の放課後、空いてますか」と尋ねた。

「お昼にお邪魔してすみません」

気持ち彼の頭が下げられた。

少し汚れたジャージに俺の顔は綻んだ。

「移動しよう」
「いえ、急ぎの相談ではないんです」
「まだ20分以上ある」
「食事されてるのに、」
「空き教室、お前の権限で使えるだろ」

宇津木の瞳が不安に揺らいだ。遠慮なんて子どもらしくもない。宇津木は大人びていてもまだ中学生なのだ。

「いいんですか」

宇津木は前髪を横に流した。

トレードマークのジャージも彼自身も、夏に向かおうとする勢いづいた今の時期にぴったりだなと思った。

葉桜の男。

おお、ぴったりだ。

「いいから早く移動しよう」

宇津木は笑った。今度こそ明白な作り笑いではない爽やかな微笑だった。

グリーン

「来ないで!」
「どうして?」

キースは首を微かに傾げて見せた。それは俺の心を射止めるキューピッドの魔法に違いない。

「そ、そんなの、」
「どうして?」
「こ、来な、い、で」

爽やかな好青年は歯を見せて優しげに微笑んだ。そこにもキューピッドの魔法が掛けられているらしく、俺の心臓が高鳴る。

「ほら。追い詰めちゃった」

昔はもう少し儚げな美少年風だったと思うのだけれど。

「こま、る…」
「困って」
「え」
「もう孤独なんて言わせないから」

ああ、それを気にしていたの。

「キース、」

ごめんね。

ありがとう。

「今日は泊まるって言って?」

キースは俺の顔に触れた。そして触れるか触れないかの距離で唇をなぞる。

ぞくぞくする。

でも駄目だ。間違っている。

「アパートで、俺のこと待ってる人が居る」

ルーセンは俺を捜し回ったりはしないかもしれない。けれど俺たちは互いに互いをあっさり切り捨てられる関係でもないと信じてる。

瞳の奥の奥まで知りたい。

闇を抜けたその向こう。

月明かりに照らされた道の先。

帰らないといけないんだ。誰も望まないかもしれないけれど。

「嫌だ」
「駄目だよ」
「帰さない」
「キース」
「酷いじゃないか…」

キースは今度は俺の唇を強く撫でた。それは彼の気持ちが直に伝わってくるような触り方で彼らしくない。

「キースにとっては遊びでも、俺にはもう違う」
「え?」
「だからそういう風に誘われると困る」

キースは突然俺の腕を強く掴んで壁に押し付けた。そして口付けた。

「遊びでこんなことする程、女に困ってないよ」

整った顔が間近に迫って怖くなった。遺跡にある神を模した彫刻みたいで、それなのに人間らしく怒りを湛えて俺を見据えていて、その違和感が余計に怖かった。

キースは変わった。

キースは感情に任せて俺を怒ったりしなかった。怒るのはいつも俺の方。キースはそれを笑い流すばかりだった。

束縛されても愛されている実感がなかった。

俺のことが好きだと言う。

好きだけど抱けないと言う。

キースの褒め言葉を無理なく受け入れられるのは心のどこかでお世辞だと思っているからだ。だから俺も良いところを見せようとか嫌われないようにしようとか気を張らずにいられる。

だから心地好い。

今は違う。

キースの愛が怖い。

「遊びじゃないなら、余計に駄目だよ」

君は、俺がどれだけ君を好きだったか知らないのだろう。

二番目なんて言われてうんと頷ける訳がない。

何も分かってない。

「そうだよ。本気だよ」

キースは自嘲した。

今更そんなこと言う君は本当に卑怯だ。

アキ

恭博さんは酷く疲弊していた。長時間能力で戦ったような嫌な体力の消耗の仕方だった。

「どうしたの」

あんたらしくもない。

「もう疲れた」
「何に?」
「今の仕事」
「転職すんの?」
「年金貰う」
「は?」
「こんな時の年金積立」
「…ああ、そう」

いつ終わるかも分からない人生を年金で生きるの?

恭博さんは溜め息を吐いた。

「今ならジョイの気持ちが分かる」
「って、誰だっけ?」
「摂取の適格者。ここ何十年か年金で暮らしてる」
「なんか暗いね」

恭博さんは俺を睨んだ。それにも力が無くて威力は皆無だったので俺は満面の笑みを返してやる。

恭博さんは視線を逸らした。

あんたは拗ねた子どもか。

時々酷く弱々しいところのある人だったけれど、今回はそれとは違う。自虐を通し越して実際に傷だらけになってしまったように危うい。

世話の焼ける人だ。

「暗いよ。俺は暗い人間なんだよ」
「能力別人格形成と発達への影響って研究分野知ってる?」
「ああ」
「複写の能力者は楽天的で要領が良く、また基本に忠実で道徳的規範に厳しい。自分の能力で直接他人を攻撃したり損害を与えることがなく、多くの能力を幅広く活用する必要があるからね」
「…へえ」
「優秀な能力者は観察力に優れ、他者への気遣いができ、人間関係の中では潤滑油としての存在になる」

ちなみに短所は何かを評価する時に直ぐに比較して考えること。ハングリー精神に乏しく自分より優秀な人には簡単に服従すること。

言わないけれど。

「お前は?」

恭博さんは俺を見た。

「風には情熱がなく自分の人生も他人事のように生きる。稀に攻撃的になるが忍耐強い」
「へえ」
「他にもあるけど」
「俺と全然違うじゃん」
「そりゃそうだよ」
「組み換えは?」

恭博さんの表情は和らいでいた。

「計算高くて商売上手。道徳観よりも損益勘定を優先する。常に保険を用意して人を裏切ることも厭わない」
「さ、最低…」

恭博さんは眉を顰めた。

「ロスのことだよ」

俺が笑って言うと恭博さんはあっと呟いた。

「分かってて言った?」
「勿論」
「なんだ。じゃあ今までの嘘?」
「いや、全部本当だよ」
「本当かよ」

ちょっと故意に抜粋したけれど。

恭博さんは「間違ってはないからなあ」と言った。皮肉っぽく笑う様子が元気を取り戻したらしいことを教えてくれる。

「それで、年金の申請すんの?」
「まだいいや」
「そう? それは良かった」

まだ疲れが完全に取れた訳ではないだろうけれど、無気力からは脱したらしい。

「アキ、ありがとう」

恭博さんは俺の頭を撫でて言った。

登志

リュウはほんの小さな子どもだった。けれど生きる為に命を懸けていた。

「彼がリュウですよ」

同じくらいの年だと聞いてはいたけれど、僕はなんとなく3歳程は年上だと思っていたのだ。

「はじめまして。登志です」
「はじめまして」

子どもの声。僕と同じ。

「2人で仲良くできますか? 私はもう行かないといけないので」

澤口さんはそう言って部屋から去った。

「働いてるの。凄いね」

僕が言うとリュウは「そう?」と答えた。厭味の無いその返答と仕種は蝶屋の人みたいだなと思った。

そこそこ格式のある娼館は僕の居た地域では花屋台と呼ばれていた。身体を売る女の子たちが“花”。その中でも飛び切り美しいとか特別な芸がある人は“蝶”。だから蝶の居る棟が蝶屋と呼ばれるのだ。

僕は施設の人に売り飛ばされて花屋台で働いていた。

「働きたがってるって聞いた」

黙っている僕に見兼ねたのかリュウが言った。

透き通る白い肌は人形みたいだけれど、話しているところを見て人間なのだと安心する。笑ったりしたらもっと綺麗なんだろう。

「ここで働けたら澤口さんに恩返しできると思って」
「恩返し?」
「2年前に助けてもらったの。花屋台にいた時に澤口さんが身請けしてくれて」
「…そう」

大して興味ないのかな。

僕が花屋台にいたことは余り話さないようにと澤口さんに言われた。けれどリュウにはこんなに簡単に話してしまった。

僕にとって澤口さんの命令は絶対なのに。

「リュウは?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「怜一さんが、いいって言ったから」
「誰?」
「俺の父親」
「え、リュウは被災じゃないの?」
「違うよ」

親がいるのにこんなところに?

「身有りでも働くんだ」
「生きる為には、働かないと」

リュウはそう言った。

凛とした声だった。

僕は親や親族などが生きている『身有り』の子どもを、初めて真っ直ぐ受け止めた。

僕たち『身無し』は、働いたり政府から配給されないと生きて行けない。人に縋って、諂って、顔色を伺って生きて行く。

身有りは甘えている。

だから僕は身有りが嫌いだった。

こんな人間もいたのか。

「身請けされるまで花屋台で色んなものを見たよ。リュウみたいな頭のいい人は、蝶屋に居た」

君のように美しい人は。

「居たことあるよ」
「え?」
「蝶屋」

リュウは平然と言った。

「蝶屋って、蝶屋?」

白い細い指がひくりと動いた。

「あんなところに居て、大変だったね。でもここは、あそこよりも苦しいかもしれない」

隊員は自分の命と引き換えに捕虜を救うこともある。

彼らは死ねと言われれば死ぬ。

崇高な目的の為に死ぬ。

だから借金の返済を夢見て自分本位に生きられる花屋台の方が楽だと言うのだろうか。

あの牢獄の方が?

あそこでは自分が踏まれれば容易く潰れてしまう“花”だと身体に刻み込まれる。あそこでは自分が人間に傅く人間未満の玩具だと自覚しないと心が狂ってしまう。

僕だってそうだ。

花屋台には戻りたくない。

「じゃあなんでここにいるの?」

丸で死にたがりじゃないか。

敵に捕まればまず生きては帰れない。冷酷な拷問を受けて苦痛の果てに死ぬ。

リュウは笑って言った。

「生きる為だよ」

その言葉は神からの啓示のように僕の頭を巡った。玲瓏な響きを以て刻み込まれた。

笑うと余計に人間離れして美しかった。

『生きる為には、働かないと』

リュウは確かにそう言った。ほんの数分しか経っていないのに忘れていたのは、彼をあくまで小遣い稼ぎでもしている身有りの子どもだと軽んじていたからだ。

生きる為に働く。

それは身に染みて理解している。

そんな当たり前のこと、数年前の僕なら鼻で笑った。

彼の言葉が僕の胸を打ったのは、それが僕にとって最も大義ある真理だったからだ。そして澤口さんに拾われてから忘れかけていた真理だったからだ。

リュウを軽んじた。

自分の信念を軽んじた。

だからへらへら笑って働くか働かないかなんて悠長に悩んでいられたのだ。

僕は働きたくてリュウを紹介してもらったのだ。だからここにこうして2人で居る。

「これから、よろしく。僕もここで働きたい」

僕が言うとリュウは「こちらこそ」とだけ言った。

まとめ

Fateは文学
狼と香辛料は経済
Airは芸術
なのはは燃えアニメ
CLANNADは人生
こじかは葛藤
リトバスは筋肉
極上生徒会はモラトリアム
鳥の詩は国歌
ハルヒは感性
SchoolDaysは神話
ARIAは現実
君が望む永遠は哲学
すももは楽園
攻殻は政治
C†Cは芸術
車輪は法典
Myself;Yourselfは月9
うたわれるものは日本史A
アイマスはわが娘
ひぐらしは論理学
初音ミクは真実の光
EVAは聖典
00は教科書
神霊狩は音楽
true tearsは真実
Kanonは奇跡
H2Oは格差社会
ゼロの使い魔は国旗
D.C.〜ダ・カーポ〜は純愛
ムリョウは日常
efは旋律
まなびストレートは青春
みなみけは食事
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないは社会派ミステリ
東方は宗教
電脳コイルはデジタルデバイド
落語天女おゆいは伝統芸能
カブトボーグV×Vはポストモダニズム
らき☆すたは聖地
シャニティアは英雄憚
けよりなは八百屋
solaは幻想
きみあるはヒロシ
∀ガンダムは命
グリーングリーンは青春
ニニンがシノブ伝は文化論
キノの旅は絵本
コードギアスは願い
rewriteは嘘
バンブーブレードは竹刀
瀬戸嫁は仁義なきたたかい
けいおん!は生きがい

京香

「君が『学士』と呼ばれている人物かな?」

そう言ったのは役人風の身なりをした男だった。小綺麗な服装ではあるが装飾は華美でなく、口調も中間階級らしいものだ。

「そう呼ぶ人もいますが」

智仁は簡潔に答えた。顔は笑っていても突然現れた男を警戒している。

私はと言うと久しぶりに見る教養のありそうな男前に疾うに警戒など解いていた。

紳士に違いない!

私のタイプど真ん中!

焦げ茶色の髪はふわふわしている。それは灰色の瞳と澄んだ肌にぴったりで、精悍な顔をやや柔らかい印象にさせた。年齢が若い所為もあってか厳しい人間には見えない。

正に紳士!

「どういった学問を志しているのかな? 何故この村に居る?」
「なんでも学びます。何かの“術”に巻き込まれて、京香と共にここへ来ました」
「君は、数字と神のどちらを信じる?」

男は鋭い目をして尋ねた。

この世界の人間は神を本当に信じている。信仰が厚いというより、神が目に見えるもののように現実に存在しているのだ。

“学”は時に神を冒涜する。

回答の如何によっては、私たちの生命にも関わるだろう。

「数字は神が与えた道具です。貴方が言葉を話し火を操るように、私は数字を用いるだけです」

智仁は呆れたように答えた。

「彼は神を裏切りませんよ」

私が笑って言った。

男は少し考えてから、「貴方は悪い学士ではないらしい」と言った。頬には笑窪が浮かんだ。

その笑顔に見蕩れてしまう。

「改めまして、私はラゼルと申します」
「智仁です」
「実は貴方の“智恵”をお借りしたくて参りました」
「勿論ご協力しますよ。しかし、内容によっては畑違いということもありますから、」
「そう言っていただけて良かった!」

ラゼルは大仰に喜んだ。

「……」

智仁も笑顔を張り付けているが、目は笑っていなかった。

「村の人は彼のことをアルと呼びます。アルカイックスマイルという美術の技法から取ったものです」
「アルカイックスマイル?」
「気にしないで下さい」

智仁は私とラゼルの会話を遮った。

ここでは美術の技法は確立していない。道具も使う人が好き勝手にオリジナルのものを自分で作る。

「そうだ。可愛らしいお嬢さんのお名前はなんですか?」

私は頬を赤く染めた。

「……、」

ラゼルは客観的にも紳士的で格好良い上に私の好みのタイプを直球で刺激するような文句無しの容姿をしていた。

「女なら他の者を選んで下さい」

智仁は言った。

そこにある冷徹な微笑を見てラゼルも『アルカイックスマイル』の意味を悟ったかもしれない。

「私は京香と言います! 貴方のような素敵な人を見て、アルは嫉妬しているのですよ」

私は至極上品に笑った。

智仁は今度は私を冷徹に見下ろしている。

ラゼルは私たちを眺めてから「御二方は夫婦でしたか」と言って手を打ち鳴らした。

「そうです」
「ちょっと!」
「随分淫乱な女なので貴方も注意して下さい」
「違います!」

智仁はラゼルを見て微笑んだ。

節操が無いのは智仁だ。

私は、智仁がこの村の若い娘の半分とはもう寝たのではないかと踏んでいる。むしろ私はそのようなことは一度も無い。

「京香さん」

ラゼルに呼ばれて私は顔を上げた。それだけで赤面できる自信がある。

「…はい」

身長差は18センチ程あった。

なんて理想的なの!

「恥じなくとも、私は淫乱なお嬢さんも好きですよ」

ラゼルは私の頬を撫でた。

「……」

今日の夕飯には野菜たっぷりのシチューを作ろう。食後には果物で作ったジュース。昨日貰った果実酒を明けてもいい。

村の人は水のように酒を飲む。

二日酔いもないらしい。

そんなことを考えていると、目の前に手が現れた。智仁の手だ。それが離れるとラゼルの顔を掴んでいるのが分かった。

キスされるのを防いでくれたらしい。

「私たちは特別な関係なのです。京香は私以外とは口づけもしません」

智仁ともしないけど。

いや、したけど。

されただけだからいいや。

「可愛らしいお嬢さんなのに、」
「京香は容姿が地味で頭も良いとは言えず性格も図々しいところがあります。私が彼女と婚約したのは、私の学士としての良心によってです。犠牲者を増やさない為に」

一番の犠牲者は自分だって?

「お兄ちゃん、」

私だって傷付くよ。

「そうですか。それは残念です」

ラゼルは眉尻を下げた。その顔もやはりいい男だった。

しかし最早これから彼と素敵なロマンスがあると期待できなくなった私には、そんな彼の顔へのドキドキは半減していた。

そもそもラゼルの評価を変更しなければならない見過ごせない発言があったとも思ったけれど、それについては忘れることにした。

「……」

忘れることにした。

私たちはラゼルに着いて行った。

馬車で暫くして着いたのは木造と石造りの建物の入り混じった大きな街だった。

目的の場所は中でもかなり大きな建物だ。

「申し訳ありませんが、京香さんはこちらに居ていただきます」

階段を上がって私は別室で待たされることになった。相談内容がそこそこ機密性があるものらしい。

智仁は反対したけれどラゼルも引かなかった。

頭が堅いのは役人らしい。

階級社会のここでは私の価値なんて底辺中の底辺だ。男女での差別がない変わりに実力や能力のない者は虐げられる。

智仁には“智恵”がある。

私には無い。

何も無い。

ここでは『学士』と『術士』が神の次に偉いことになっている。邪学や邪術と呼ばれる“悪い”学や術も在るけれど、幸い智仁は正統な学士として認められているらしい。

私には、何も無い。

装飾の余りない空っぽな部屋で、改めて私はそんなことを思った。

ほのか/冷酷な男がトリップ

「もう、無理」

そう言った広岬さんは顔から胸元までを真っ赤に染めていた。俺はその広岬さんが好きで、何時もそうなるよう仕向けていた。

そして朝になってシャワーを浴びながら自分の愚かさに気付く。

あれが京香なら良いのに。

「広岬さん…」

俺は冷酷な男だ。

ベッドではまだ広岬さんが寝ていた。寝息が聞こえる。その余りに安心し切った様子に笑ってしまいそうになる。

彼は何も悪くない。

俺は水を飲んで鞄から本を出した。刑罰の歴史に関する新書で面白くもないものだけれど只管広岬さんの顔を見て過ごせる程幸せな人間ではないから仕方ない。

彼が京香なら、こんな土曜の朝がもっと価値あるものになっただろう。

俺は京香を愛している。

京香は俺を愛するだろうか。

情事明けの朝に何を思うだろうか。

瞼を閉じて京香を思った時、突然身体が投げ出される感覚を覚えた。椅子から落ちて地面に座り込んでいるのだと直後に気付いて目を開けるとそこはもう日本ではなかった。

石畳の街。

日本ではない何処か。

話し掛けられる言語は英語のようで安心してしまう俺は間違いなく完全に完膚なきまでに混乱していた。

京香は何処に居るのだろうか。

まだ京香に逢えるだろうか。


【冷酷な男がトリップ】

ほのか

俺は思う。

俺は京香を愛している。

「灘崎くんは結婚願望ないの?」
「ありますよ」
「お、そうなの」

広岬さんは目を見開いた。今年30歳になる広岬さんこそ結婚は差し迫った問題の筈だ。

「大学時代からずっと一人暮らしですからね」
「可愛い奥さんに出迎えて欲しい?」
「まあ、そう思う日もあります」

広岬さんは笑った。目尻の皺がなければ年下だと錯覚するような童顔が笑う。

「気弱な一面もあるんだ」

京香を恋しく思うこの感情を気弱だと言うのなら、それは間違いではない。もっと強引にすれば京香はきっと俺の気持ちに応えてくれる。そうしない俺はこの恋慕に関して気弱なのだ。

「やっぱり独り身は寂しいですよ」

俺も笑った。

広岬さんは俺から目を離すと酒を煽った。そして「あのさあ」と曖昧に話し掛ける。

「総務の田上さんと、仲良い?」
「どういった意味ですか」
「分かるでしょ」

広岬さんは俺を見た。紅潮した頬は酒の所為だけではないらしい。

「仲良いですよ。でもただの同僚です」

そうでなければ俺が困る。

「仕事の後、田上さんが灘崎くんのこと待ってたよ」

広岬さんは再び俺から目を離して「ただの同僚とデートするの」と続ける。両手でグラスを握り締める様は心許な気で同情してしまう。

田上さんのことが好きらしい。

広岬さんは頗る仕事ができるという人間ではない。営業をしていた時に体調を崩し今は職場を移して経理をしている。

自己主張したり自分を高く評価することが苦手らしい。女性に対しても強く出るような性格ではない。

取り計らって欲しいのか。

「私は人と飲むのが好きなんです」
「今みたいに?」
「ええ」
「なら僕もただの同僚?」

答え難いことを聞く人だ。

「広岬さんは特別に仲の良い先輩です」

広岬さんはまた酒を煽った。けっこうな量のウィスキーが残っていたグラスが空になってしまった。

「僕は、社交的な方じゃない」
「その分仕事が丁寧だって戸田課長がおっしゃっていましたよ」
「そういうことじゃないよ」

広岬さんは興奮しているような、緊張しているような雰囲気で俺を制した。

「…何か頼みますか」

俺はメニューを広げた。

「お前って鈍い?」
「すみません」
「そうじゃなくて、」
「田上さんとは本当になんでもないんですよ」
「そうじゃなくて!」

広岬さんは言葉を荒げて俺のネクタイの辺りを睨んだ。

「……」

なんだと言うんだ。

「灘崎くんは、いま女性と特別な関係になってないの」
「ええ、そうですね」
「男は?」
「…はい?」

俺は広岬さんを見た。目が充血していて酔っているらしいことは分かるけれど意識がしっかりしているかどうかまでは判別できない。

「男と遊んだりはしないの」

それは、そういう意味だろうか。

俺はグラスに残っていた酒を飲み干した。

「場所、移動しますか」

広岬さんは頷いた。その健気で控え目な感情表現が京香と重なった。

京香

私は後頭部を強打した痛みに頭を抱えていた。

「京香、」

兄が私の名前を呼ぶけれど私は顔を上げられずにいた。あの青い瞳に見詰められたらきっとまた思い出してしまうから。

「痛い…」

なんてことになったんだ。

なんてことをしたんだ。

なんてことをしてくれたんだ。

兄を馬鹿だと思ったことは一度もないけれど、兄が今回したことはちょっと拙いと思う。一つ屋根の下にいる血の繋がらないきょうだい同士のロマンス、これ程陳腐で使い古された過ちもないだろう。

捻りの足りないジョークだ。

ジョークなら笑っておくべきか。

「京香、」

譫言のように呼ばれて顔を上げた。いつまでも無視できないと腹を括ったのだ。

私は笑った。

「……ッ」

というより頬を引き攣らせた。

その時私は私たちを取り囲む景色に言葉を失った。ジョークなどどうでも良い。ジョークなどどうとでもなる。

そこには林が広がっていた。

林?

なんで?

「京香、」

兄は再び私を呼んだ。

私にはとても今見える景色が現実だとは思えなかった。幻覚と呼ぶには鮮明過ぎたけれど他に適当な説明ができない。

「お兄ちゃん、」
「京香、」
「私、覚醒剤はやったことないんだけど、なんかの薬をスニッフィングしたことあるんだ」
「え…?」

鬱病の薬だったと思う。キマッた感覚は確かにあった。4年以上前のことだけれど今頃離脱症状が出ないとも限らない。

「私、今、幻覚がある」

林が見える。リアリティのある木々の重なり、光と影の陰影、風と葉の擦れる音、土の匂い、それらを確かに感じる。

「幻覚?」
「幻視とか幻聴とか、色々」

兄を見るとゆっくり視線が絡んだ。

「多分それ、俺にも見えてる」

兄は言った。兄らしくもない至って真面目な表情で言った。言葉に嘘はないと思う。

それならこれは幻覚ではない。

林は、在る。

余りに鮮烈な幻覚に頭の片隅では幻覚ではない予感があった。しかしリアルと呼ぶには過激な現実世界に思考放棄してやりたいとも思っていた。

「それは…、悪いニュースだね」

笑えるね。

京香

静かに玄関の扉を閉めた。コートを掛けて廊下を抜き足で歩く。自室のドアも細心の注意を払って開いた。最後に手探りで電気を点ける。

カチ、と鳴って明るくなった。

「わっ…!?」

そこには兄がいた。

「おかえりなさい」
「なんで居るの」
「最愛のお兄ちゃんに随分失礼なご挨拶だね」

怖いパターンの笑顔だった。

「あ、ただいま。いや、おはよう?」
「残念ながらまだ一睡もしていないよ」
「…すみません」
「飲み会、俺も呼んでよ」
「女子高生はいないよ?」
「女子大生はいたんじゃない?」
「まあ、」

智仁お兄ちゃんは私の飲み会に乱入するのが趣味だった。女の子も男も何故か非常に喜ぶので私としては複雑な気持ちだ。

人の気を引くフェロモンでも出しているのだろうか。

分けて欲しい。

値段次第では購入も検討しよう。

「男の方が多かったって反応だね」
「そうだね、うん。だから誘わなかったんだよ」
「俺、男も好きだよ」

私が高校でクラスメイトだった男も智仁お兄ちゃんのことを好きで気に入っている人が何人もいた。兄のメールアドレスを死守するのは大変だった。

え?

男も好きなの?

なら教えてあげれば良かったね。

「はあ、そうだったの」
「でも京香が一番好きだよ」
「ありがとうございます」
「立ってないでここにおいで」

兄は手招きした。

広げられた兄の腕の中は遠慮して私は兄の隣に座る。

「ごめん」
「何が?」
「今まで色々」
「…大学は楽しい?」
「うん」
「そう。それは良かったね」
「……私お風呂入ってから寝るから、」

思い出しそうになる。

あの頃のこと。

小さかった頃のこと。

私はベッドから立ち上がって伸びをした。兄にも自分の部屋に戻るようそれとなく促す。

兄はそっと立ち上がった。そしてドアの前で振り返る。

目が合った。

青が私を見ている。

睫毛の長い兄の大きな瞳は青色がかっている。長兄は智仁お兄ちゃんより更に色白で瞳の色も薄くはっきりと青い。

私とは人種が違う。

文字通りの意味で、人種が違う。

兄たちはクォーターだ。写真で見たハーフだったと言う彼らの実母も日本人の血が感じられないような人だった。

色素が薄く肌が弱い彼らを遺伝的に劣ると見る人もいるけれど私はそうは思わない。

澄んだ青色が私を射止める。

「京香」
「……、」

私は目を逸らした。クローゼットを開いて着替えの準備をする。

「お前は俺の妹だよね」
「…うん」

私は彼らを“兄”と呼ぶ。

「でも本当の妹ではないってことも忘れないでね」

忘れたことなんて、ないよ。

兄たちは有名な国立大学に入学し、私は辛うじて私立大学に入学した。兄たちは品行方正で補導歴もなく、私は小学生の時に人を殴って血を浴びた。

姓が違う。

瞳の色が違う。

人種が違う。

何もかもが違う。

分かっている。そんなことは承知している。了承している。理解している。実感している。痛感している。

「知ってるよ、」

私の声を兄は遮った。肩を掴んで私の身体を反転させた。バランスを崩した私を支えて、キスした。

キスした。

キスされた。

反射的に避けようと頭を後ろへ傾けたところを強かに打ち付け、その余りの痛みに目を閉じた。

痛い!

引き出しの角に違いない!

下着を出していたから出っ張っていたのだ!

痛い!

痛い、痛い!

しかしながらその時の私は、あくまで本能的に、情けないことに、不本意なことではあるけれども、不覚にも、憐れにも、兄の唇を柔らかくて心地好いと感じていたのだった。

恥ずかしい。

京香

私は飲み会に参加していた。

自然観測研究会という怪しいサークルに勧誘されてアドレスを書かされるまでに7分間。声を掛けられてから入会を決めるまでが4日間。新入生歓迎会に参加してからこのサークルの実態を認識するまではものの2分間。

自然観測研究会は所謂“飲みサー”だった。

飲み会を開くだけのサークル。

よく顔を出す人は20名程しかいない小さなサークルらしい。定期的な活動はなく、時々飲み会や合宿をするそうだ。

彼らは飲み会の口実が作れるのならサークルでもゼミでも良いのだと思う。

「自然観測って何するんですか」
「BBQしたり、スキー行ったり?」

飲み会も始めの方ではそんな会話がそこここで為されていた。二次会も終わろうとしている今では新入生もそんな野暮な疑問は忘れた。

三次会も開くらしい。

ここ数年で一番盛り上がった新入生歓迎会だと先輩は言っていた。

「もうお前らと夜を明かしたい!」
「俺もです!」

出来上がった彼らには理性なんて無い。

「三次会、来る?」

そう話し掛けてきたのは4年生の先輩だ。就職活動の帰りに寄ったと言っていた。実際に黒のスーツと青いネクタイを着ている。

「そうですねー」
「楽しいからおいでよ」

どうしようか。

私が迷っていると先輩に肩を抱かれた。耳元で誘い文句を言っている。

「あ、すみません」

カバンで携帯電話が震えた。智仁お兄ちゃんからの着信だった。

「京香?」
「もしもしー」
「今何処?」
「サークルの飲み会」
「…もう終電過ぎたよ」
「え、ほんと?」
「うちの学校なら、それくらい先輩が確認してくれるけどね」
「学校違うし、」
「迎えに行こうか」
「自分で帰れるよ」
「何処にいるの」
「じゃあねー」

私は電話を切った。

先輩は通話の相手を気にしているらしい。

「彼氏?」
「まあ、家族みたいな人です」
「もう帰れって?」
「いえ、楽しんできなさいって」

それを聞いて先輩は喜んだ。

私が帰宅したのは翌日の朝6時半だった。

智仁

京香の帰りが遅くなったことが発端だった。彼女が初めてうちに来てから2年が経っていた。公園や図書館でよく一人でいたらしい。

「おうちが嫌?」
「違うよ」

母が聞くと京香は首を振った。

その時は帰りが遅いと心配だからと早く帰ってくるように言っただけだった。もうかなり打ち解けていた京香は笑って頷いた。

「俺が居るから遅く帰ってるの?」

一人になった京香に言うと先程のように首を振った。

「違うよ」
「早く帰って来たら?」
「…うん」

破顔した京香に俺は見蕩れた。

それから京香は直帰するようになった。

よく笑って本来の活発さを取り戻したらしい京香に、俺も段々と好感を持つようになっていた。

数日後、俺は兄貴の部屋を訪れノックした。ドアの隙間から兄貴は顔を出したけれど、部屋の中には他に誰かがいる気配がした。

「誰かいんの?」
「京香」
「なんで」
「遊んでたんだよ」
「なんで」
「良いだろなんでも」

良くない。

部屋に押し入ると布団がもぞもぞと動いていた。それを剥がすと京香が中で服を着ようとしていることが分かった。

京香は吃りながら「ごめんなさい」と言った。

あの日を思い出した。

「気持ち悪い。お前ほんと気持ち悪い…」

京香は泣いた。

俺にはその泣き顔も気持ち悪く思えた。けれど同じくらい胸が痛んだ。

その日の夜に京香は家出した。そして翌日の決まった時間に一人で幼稚園に現れた。服も身体も汚れていたのに笑顔で挨拶してきたらしい。

児童虐待も疑われた。

栄養状態が良く暴力の形跡もなかったから通告されなかったけれど。

学校から帰ると兄貴がリビングで怒られていた。京香のことだと漠然と分かった。

俺はそれを覗き見た。

「可愛がってるうちに、」

兄貴が言い切る前にそれは遮られた。父が叩いたからだ。乾いた音は俺の直ぐ耳元で響いた気がした。

「よく考えなさい」

ぞっとするような冷徹な声だった。

俺は自分が怒られたような恐怖を感じた。逃げるように2階へ上がった。

思い付いて京香の部屋を訪ねる。

そこでは京香が布団に潜っていた。ベッドに腰掛けると目まで出てきた彼女と視線が合う。

「ごめんね」
「何が?」
「分からないけど」

灘崎家は君を傷付けた。

「私もごめん」
「何が?」
「…この家に来て」

京香は涙を零した。

俺はそれを指で掬った。神聖なものがそこにあるように感じて胸がドキドキした。

「兄貴、京香のこと好きだと思うよ」
「…うん」
「お父さんたちも、好きだから連れて来たんだよ」
「…うん」

京香は上体を起こした。

「もううちに帰って来ないの?」
「分からない」
「もっとうちにいなよ」
「うん」
「俺の妹になったら?」
「うん」
「兄貴のこと嫌いになった?」
「好きだよ」
「…俺のこと、まだ嫌い?」

京香は布団から出た。そして俺の隣に座った。

「好きだよ」

京香はまたぽろぽろと涙を零した。手で拭っても次々と溢れてきた。

哀しかった。

怖かった。

京香を手放したくなかった。

兄貴はその後も以前のように京香に接した。両親とも変わらずに会話していたからどうにか解決はしたらしい。

俺は変わった。

京香が酷く好きになった。

灘崎 智仁

京香は本当の妹ではない。

俺は京香が嫌いだった。

母には妹が居た。その人は未婚のまま京香を出産しそれから数年で亡くなってしまった。それを知った父は京香の後見人となった。

京香の姓は今でも水井だ。

京香を初めて見た時、俺は小さい子どもへの愛情よりも、自分の領域に入り込まれたことへの不快感を覚えた。

あの日は雨だった。両親は朝から出掛けていて帰って来たのは昼過ぎだった。

玄関には見知らぬ少女がいた。

「あれ。誰?」

俺が尋ねると父はにこにこしたまま「いとこ」と答えた。

「京香ちゃんて名前だよ。京香ちゃんに自己紹介して?」
「俺、智仁だよ。3年生。いとこって?」
「私の妹の子ども。これから一緒に暮らすの」
「…え、嫌だ」
「まだ5歳だから優しくしてあげよう?」
「絶対嫌だ」
「智仁、」

京香は俺と目が合うと直ぐに俯いて身体を硬くした。そして「あ、ご、ごめんなさい」とか細い声で言った。

「気持ち悪い…」

俺はそれだけ言うと自分の部屋に戻った。

両親の咎める声が聞こえた。

吃った話し方も伸び放題の髪型も俺には受け入れ難かった。笑っている両親も不快だった。

兄貴はリビングから顔だけ出していたと思う。

それから京香が次第に灘崎家に染まっていく程に俺の中の不快感も増していった。

俺は京香を無視した。

両親が説得しようとするその姿にも俺は苛立った。

両親と険悪になっても兄貴だけは理解してくれていた。両親も兄貴のことを頼って、俺と京香の橋渡しをお願いしたらしい。

中学生だった兄貴は一連の出来事から一歩引いて構えているように見えた。

元々淡泊な性格だった。

成績優秀で品行方正だった。

だから兄貴の“悪戯”には誰も気付かなかった。

灘崎 ほのか

智仁は京香にちょっかいを出す。普通のきょうだい間のそれとは趣向の違う“悪戯”に京香は戸惑うし俺は苛立つ。

先程もそれで京香が泣き付いて来た。

「智仁、京香に変なことしてないか」
「『変なこと』?」

智仁は笑った。大きい瞳が愉快そうに弧を描く。

「ああ。京香が困ってる」

ふふ、と漏れ聞こえた。

智仁は猫を被るのが上手い。基本的には“良い子”なのでこちらの人格が人前に出ることは滅多にない。

次子は要領がいいと言う。

智仁はそれ以上だ。

俺はそれを治せるものだと思っていた。小学生の頃には精神病や人格障害について詳しく調べ、いつか自分の手で智仁が常に“良い子”になれるようにして遣るのだと考えていた。

情けない話だ。

今の智仁が嫌いな訳ではないけれど。

「変なことってさ、お兄ちゃんが俺のこと言えるの?」
「ぁあ?」
「お兄ちゃんが京香に悪戯するの見て、俺もその気になったんだよ?」

智仁は首を傾げた。それを未だ小さな弟の可愛らしい仕種だと思っていた頃もあった。

今はそうは思わない。

「…分別が無かったんだ」

智仁は声を上げて笑った。それを感情豊かな弟の可愛らしい声だと思っていた頃もあった。

今はそうは思わない。

俺が眉を顰めると智仁はまた首を傾げた。そして「なら俺には分別が無いんじゃない?」と笑みを深めて言う。

それは違う。

俺があの頃、分別が全く無かったのかと言うと、そうではない。分かっていてやったと認めるのも問題なので年齢と責任能力を言い訳にしているだけだ。

「何処からアウトなの?」
「俺にしないことはするな」

智仁は声を潜めた。

「お兄ちゃんは何処までやった?」

人格が破綻している智仁に俺が言い返せないのは過去に自分のした行為の所為だ。

自業自得。

俺は中学生の時に、確かに未就学児だった京香に質の悪い“悪戯”をした。

智仁は小学生だったしその時には俺の行為を理解していなかったのかもしれない。しかし智仁が高校に上がる頃にはこの話を俺にするようになっていた。

智仁は普段俺に逆らうことはない。

京香に関してだけ異常に執着するのだ。

「京香が嫌がることはしてない」
「おお。自分勝手な逃げ口上だね」
「留学から帰ってから過剰になっただろう。やり過ぎだ」
「ヤってないよ」

智仁は人好きのする笑顔を浮かべた。

「とにかく、京香を余りいじめるな。家を出て行ったらどうするんだ」
「お兄ちゃんの時みたいに?」
「…ああ」

智仁は声を上げて笑った。

「俺はお父さんに殴られたくないもん」

その弾んだ声が苛立つ。

智仁はベッドから立ち上がると俺の部屋に避難している京香の所へ向かった。名前を呼ぶ声は俺に対するよりも甘えた響きがする。

「……」

俺は京香の部屋で独り溜め息を吐いた。

水井 京香

私は勉強が嫌いだった。

「京香、起きて」

その声に目を覚ますと兄がベットに腰掛けていた。「出掛けるから準備して」と続ける兄は車の鍵を鳴らして見せる。

「なんかあったの」
「そう。だから起きて」
「えー…」

何。

余り緊急事態だとは思えなかったので私は会話しながらできるだけベットに潜っていられるように努める。

「あとね、1時間したら無理にでも連れ出すから」
「え?」

兄は柔らかく笑んだ。

言っていることは極めて強硬なのでその差が怖い。

「じゃあね。あと1時間だよ」

怖いよ。

私は種々の準備をして1階のリビングに来た。髪型から洋服まで全てセットすると丁度制限時間にされていた1時間が経過していた。

兄は母と共にリビングでニュースを見ている。傍らにはコーヒーだ。

「お兄様…」
「ん、ぴったりじゃないか」

兄は立ち上がってキッチンに向かいながら、語尾に音符でも付けるように上機嫌な声音で言った。不機嫌でも同じように話すけれど、目が笑わないから違いは分かり易い。

「出掛けるんだよね?」

兄がコーヒーカップをシンクに置く。

「そうだよ。車出すけどコート用意してね」
「はい…」

ガレージに出てシャッターを上げていると兄が現れた。片手にはコートと私のカバンを持っている。

私は車が車道に出るのを確認してシャッターを下げた。

「これと、これ。それとこれ」

助手席に着くなり兄はあれこれと渡してきた。腕時計に筆記用具にハガキ。

ハガキ、というか受験票。

大学入試センター試験の受験票。

全て渡して満足したのか兄はさっさと発車した。ナビを見もしないのは行き先が明確且つ行き慣れた場所だからだろう。

「強引だねー」

私が言うと兄は苦笑いした。

「ごめん、兄貴に言われてさ。京香をフリーターにはさせたくないらしいよ」
「でも、会場には無理にでも行かせたとして、私が真面目に問題解くと思う?」

そこまでは強制できない。

しかし兄は破顔した。

「解くよ」

その自信に溢れた笑みは本来はここにはいない長兄の得意とするものだ。余程の確証があるらしい。

「自信有り気だねー」
「有りますよ」
「でも私って天邪鬼だからさ、」
「知ってる」
「それでも解くと思う?」
「うん。思う」
「なんで?」

兄は少し考える素振りを見せた。そして車が信号に引っ掛かり停車するのに合わせて不気味に爽やかな笑顔を私に向ける。

「それはね、」
「うん」
「俺がお願いするからだよ」

はい?

「…懐かしい台詞だね」

それはこれまでにも何度か言われたことのある言い回しだった。この場合の『お願い』とは、その言葉に失礼なくらいに絶対的な命令に近い意味合いがある。

「もしお願い聞いてくれなかったら、京香をお嫁さんに行けなくしちゃうよ」
「え…」

兄はウィンクした。

信号が変わったので兄は前を見て運転を再開した。私はその兄の目を盗んで顔を歪める。

本当に怖いんだって。

「だからちゃんと試験受けてきてね」

私は無言で頷いた。

両親は長兄の方を怖いと思っている。生真面目で責任感の強い人間なので確かに近寄り難い雰囲気はある。しかし今隣にいる兄よりは随分と優しいと私は思う。

私は隣にいる兄を恐れている。

盗み見ると機嫌良さそうに笑っていた。

今は全てが怖い。

学校から少し離れたところで兄は車を止めた。後部座席から手作りらしい弁当を取り出して仕上げとばかりに満面の笑みを浮かべている。

「あの、頑張ってきます…」
「ほどほどにね」

ほどほどに。

できることなら私も手を抜き息を抜き試験に臨みたかった。しかしその日から3日間、私は試験会場の誰よりも姿勢を正して時間の許す限りの全力を投じて解答を導き出した。

疲れた。

余計に勉強が嫌いになった。

試験が終わる頃に左手が腱鞘炎になっていたことは今でも我が家の笑い種になっている。

私にとっても笑うしかない思い出だ。

シバ

部屋は少し寒かった。アンドロイドを管理するためだろう。

アンドロイドは芸術的な均整を以て立ち並んでいる。

多数のアンドロイドを集めているコレクターは世界中にいる。テンマがアンドロイドを“完成”させてからは特に増えた。

アレクシエルはそれとは違う。

ここには名のある高価なものから無名でも良作だろうと言えるものまである。

アレクシエルは目が利く。

これらのコレクションは彼が単に自慢するためにミーハーで集めた訳ではないのだろう。ここにあるアンドロイド自体が何よりの証拠になる。

アレクシエルは芸術を愛する。

彼にはアンドロイドも芸術だ。

コレクターが多くなったとは言え、アンドロイドはそれ自体が高額で維持費も掛かる。ミーハーだとしても他の意義があるとしても、コレクターに成るのはアレクシエルのような資産家や高額所得者に限られる。

アレクシエルのようなコレクターは貴重だ。

アレクシエルはアンドロイドの着衣を撫でた。

芸術品に触れるように。

アレクシエルは『アマチュア』と呼ばれている。本職に負けない審美眼を持つことへの皮肉だ。

「素晴らしいですね」

俺はアレクシエルに言った。あまり気の利いた褒め言葉ではないが他に色々と言うことも憚られた。

俺はアンドロイドに詳しいわけではない。プロが認めた『アマチュア』に敵う訳がない。

安っぽい褒め言葉だと思われても知ったかぶるよりはましだ。

俺は半ば自嘲した。

しかしアレクシエルは俺を見て口元を緩めた。返答はないが俺の言葉をそのままの意味で受け取って貰えたらしい。

『素晴らしい』。

在り来りだけれど。

レルムを見ると部屋に入った時と変わらない場所に立っていた。ずっとそうしていたらしい。ただ視線をさ迷わせている。

ローリーのモーテルではキョロキョロ嗅ぎ回っていたのに嫌に大人しい。

アレクシエルもレルムを見ている俺に気付いてか歩み寄りながら同じように視線をやった。訝るとまではいかないがそれは専門家が観察するような目付きだ。

“専門家”だなんて。

彼は『アマチュア』なのに。

アレクシエルは言った。洗練された歩き方は足音がなく、それは思いの外俺のほんの直ぐ近くで囁かれた。

「どう感じているのだろうね」

アレクシエルは必ず俺の期待に応えてくれるだろうと改めて思った。

各学科のプロポーズの言葉

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:38:38.70 ID:IioGnsuxO
法律学科「一生君を守るという旨の債務を履行してもいいかな」


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:42:07.13 ID:A5DbDqU90
哲学科「君と愛のイデアを見つけたいんだ」


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:46:09.98 ID:YLrLqMsc0
どう見てもただの変態集団です


259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:48:51.08 ID:fkewsAUDO
経済学科「人生という制約付き最適化問題の解が君なんだ」


263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:52:31.87 ID:t+T/TWPTO
看護学科「フルタイムで君の専属看護師として雇ってくれないかな」


264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:54:09.92 ID:lTOGvQ4jO
物質工学科「僕は水素だ、君がどうなろうと一緒にいてみせるよ」
女「フン、軽い男ね」


274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:10:05.55 ID:EKQcl8RwO
商学「君に簿記した」


275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:10:24.79 ID:XXOXt39mO
数学科「1+1が必ずしも2ではないと確認しよう」


279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:19:30.98 ID:A5DbDqU90
>>275
子づくりですねわかります


281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:29:19.44 ID:V2yNI9GVO
数学科「君のiとかけ合わさって初めて僕のiは存在を確認できるんだ」


282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:35:09.56 ID:zSPHsVD70
>>281
女「ネガティブになるから確認したくないわ」


289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 11:49:06.53 ID:dXE3Bp1dO
物理科「僕の心のベクトルは常に君に向いているよ」


299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 12:17:52.19 ID:UxY3nokm0
日本文学科「月が綺麗ですね」


303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 12:26:36.66 ID:SOiSXM6vO
西洋学科「僕の息子はヨーロッパの火薬庫だ、君の鉄のカーテンすら突き破るぞ」


316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 12:49:20.82 ID:pUeewv+AO
音楽科「君とのハーモニーは純正調になりそうだ」


320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 13:09:34.97 ID:F6uMTNAp0
会計学科「これからは一緒に決算報告したい…連結しよう」


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 13:18:55.31 ID:gArjyYLh0
地理学科「僕の心のドーナツ化現象を埋められるのは君しかいない」


326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 13:37:17.57 ID:hiYEV2trO
>>325
「あなたの場合アーバンスプロールよ」


333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 16:14:15.16 ID:bMxtKMtEO
航空科「一緒に堕ちよう」


334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 16:46:08.03 ID:nTcVQ731O
電気「フヒヒヒヒwwww僕のエレクトロンをエミッタするからコレクトしてくんない?」


338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 16:59:10.74 ID:S27oHyG4O
経済学科「僕と君が結婚するという選択がナッシュ均衡になる」


339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 17:02:38.49 ID:M+cdODTTO
考古学科「君の心を発掘して、いつでも土器土器させてあげるよ」


344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 17:21:08.31 ID:yLi0022CO
>>339
電車内なのに不覚にも吹いちまったじゃねーかwwww


346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 17:36:55.31 ID:ND4/X1V8O
>>339
腹よじれるwwwwwww


352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 19:25:54.65 ID:6eT0drF90
今日の良スレだな


353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 19:52:42.11 ID:nTcVQ731O
ネタとして面白いのもあれば、普通にかっこいいのもあるなwwww


各学科のプロポーズの言葉

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:25:33.34 ID:0PtHUITK0
日本文学科「ああ、君のその笑顔は僕の荒廃したオアシスのようだ。」

数学科「君を微分したい」

電気科「僕たちの愛を10dB増幅させよう」

心理学科「・・・・」(テレパシーで告白)


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:28:42.52 ID:2D3qXHIH0
荒廃したオアシスってダメじゃんwwwww


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:27:33.24 ID:sqKHwJUL0
機械科「二人の幸せの歯車は今ゆっくりと動き出したよ」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:29:47.53 ID:YykdaR+7O
>>2は普通に使えそう。言う相手いないけど


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:29:00.17 ID:0PtHUITK0
英語科「I love you」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:30:50.46 ID:vLCim578O
美術科「君の心を描きたい」


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:31:31.47 ID:R2ksI6SSO
化学科「君と結合したい」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:31:51.56 ID:gCkoDYDcO
経営学科「毎日君でイノベーションしてるんだ。」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:31:53.39 ID:MriUHFDSO
漫画学科『ぼ、僕とつ、ケコッ、結婚してくだしゃい…ふヒヒッ』


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:32:20.47 ID:svu0rntG0
物理科「君は僕の人生における対称性の破れだ」


200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 07:34:12.38 ID:CDZwWgIMO
意味はわからないが>>14には濡れた


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:32:21.51 ID:H55pAEteO
情報処理化「printf("好きだ");」


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:32:33.44 ID:AhXZRVeOO
法学科「財産犯における親族相盗例の適用がある身分関係になろう」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:33:10.36 ID:PQCpM5YhO
調理科「メインディッシュになろう」


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:33:30.94 ID:rTgPz4shO
理工学「君の魅力で僕の股間も強制体積磁歪だ」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:34:18.79 ID:/MWQ7cgZO
化学科「愛を触媒にして僕と君を反応させたら・・・・そう、すてきな未来の出来上がりさ」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:35:25.79 ID:FhaL2RED0
電気電子科「毎晩君のチャネルにドープしたい」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:37:04.42 ID:/MWQ7cgZO
数学科「僕と積分してください」


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:37:10.05 ID:w5/2B6TE0
数学科「君に限りなく近づきたい」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:38:47.08 ID:0PtHUITK0
数学科「君のパンツをテイラー展開したい」


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:39:02.61 ID:w5/2B6TE0
医学科「痴漢?馬鹿言えこれは触診だ!」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:45:22.83 ID:NjFqbl1HO
>>33
プロポーズじゃなくて言い訳じゃねーかwwwwww


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:41:51.17 ID:X1SRf41rO
化学科「君とσ結合したい」


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:43:44.56 ID:nvHcnOuLO
法律学科「恋愛法一条によって、僕は君と結婚する債務をもっています」


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:43:46.17 ID:o83IEOQpO
経営学部「君の家を吸収合併したい」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:44:43.33 ID:qeITiUXVO
体育科「SEXしよう!!!」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:45:15.17 ID:tTCUzYdF0
数学科「オイラーの嫁になってクレーロー」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:47:12.33 ID:svu0rntG0
>>49
女「え?なんですって?速くてわからないわ。もうちょっとユークリッド話してください」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:45:22.19 ID:1C4jvKt/O
化学科「両手を取り合ってチンポ挿入すれば三重結合だウー」


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:46:29.42 ID:svu0rntG0
電気科「僕の空乏層を君という順バイアスが埋めてくれたんだ・・・」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:46:58.39 ID:fhGlGwY5O
キャリアデザイン学科「君の未来を僕に任せてみないかい」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:47:48.16 ID:q6tkPSC60
化学「僕と一緒に酢酸カーミンつくりませんか?wwデゥフフwwww」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:47:53.89 ID:tTCUzYdF0
電気科「君の瞳は100万ボルト」

なぜこれが出ない


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:49:03.33ID:GuYeKbCNO
医学科「」
女「結婚してください///」


186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 04:39:42.44 ID:DcZ1hDyuO
>>64が真理


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 02:49:38.93 ID:JJ/95fjF0
看護科「傷を負った君の心に包帯を巻いてあげる」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:49:42.59 ID:gCkoDYDcO
社会福祉学科「お互いに介護しあうことを誓います。」


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:50:02.10 ID:9j7JUGFg0
薬学科「これが惚れ薬の調合さ  ちゅ」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:52:29.49 ID:nvHcnOuLO
>>68
法学科「私はもうとっくにあなたの固定資産よ///」


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 07:43:04.15 ID:l69P621v0
ああぁチクショウ……ドキッとしてしまった自分が悔しいッ!
>>68なんかに!>>68なんかに……ッ!


207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 08:30:24.61 ID:yCoya4jiO
>>68
妊娠した


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:50:30.83 ID:qXSeYsLJ0
法律学科「君は私の法に反している!ビッグオー・ショータァァァイム!」


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:52:34.97 ID:LrW3AB2b0
家庭科「俺は男だけどさ、料理から裁縫まで何でもやってあげられる。君に負担をかけたくないからね」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:52:52.83 ID:AO8saf68O
体育専門群「オレ、オマエクウ」


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:54:15.12 ID:AO8saf68O
体育専門群「喰ワセロ・・・」


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:54:28.82 ID:0nzzTdSzO
会計学科「僕の貸借対照表に君という固定資産を記帳したい」


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:54:30.39 ID:Ok+/zjOjO
経済学科「神の見えざる手が僕らを引き寄せたのさ」


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:56:29.74 ID:SBuwy9cD0数学科「僕たちに判別式D>0は成り立つかい?」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 02:58:50.97 ID:4mDhgtgi0
国文学科「いと契りたし」


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:02:22.06 ID:xLswz5GnO
観光学部「君を隅々まで観光してもいいかな・・・?」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:02:53.24 ID:R+M8h46oO
美容外科「yes!!高須クリニック!」


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:04:52.32 ID:6D1G59J/0
経営学部「君を敵対的買収してしまいたい」


215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 09:33:20.09 ID:St+iSCQf0
>>95敵対しちゃダメだろww
とおもったが両親の反対をおしきってみたいなかんじかw

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:05:57.71 ID:5P6nZgYq0
数学科「ねーちゃんのππを、ちいとつまませてもらえんかのう」


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:10:27.03 ID:P5Wo++GtO
化学科「君の笑顔はチンダル現象のように光輝いていて、つい僕の心が電気泳動してしまったよ」


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:12:36.30 ID:d0TONYk70
歴史「マンコ・カパックしてくれないか」


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:15:00.08 ID:Q1glp+fkO
化学科「君という触媒があれば、僕は人生のいかなる活性障壁をも乗り越えられる。    僕と求核置換反応してください!!」


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:16:21.77 ID:NjFqbl1HO
史学「君は僕の心の不可侵条約を破ったね」


122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:19:43.13 ID:PEhkWbwlO
これは良スレ


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:22:11.96 ID:5P6nZgYq0
国分学科「今の告白聞いてどう思った?」


131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:25:35.49 ID:boFmYl0+0
>>125
竹原科「おいうめみやー」


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:27:37.39 ID:8MRYA2FQO
電気「HがあればI出来るんだよ」


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:28:47.97 ID:gucP+h9WO
史学「君という黒船が来航して僕の心は開国したよ。
今こそ君と僕との和親条約を結ぶ時だ」


147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:34:04.67 ID:YGYE3IB/O
社会学科「僕らはこの複雑系の世界の中で出会ったカオスの縁にたたずむ存在なんだ。結婚しよう。」


151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:37:45.49 ID:5P6nZgYq0
西洋史学科「俺のアソコ、小ピピンだけど・・・いい?」


152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:38:25.04 ID:boFmYl0+0
哲学科「君と僕との間にあるパラダイムをア・プリオリにアウフヘーベンしたいんだ。」


156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:43:53.70 ID:mhCsehj00
地図学科「僕とメルカトル図法の生涯地図を描かないか?」


157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 03:45:31.63 ID:gZ2aut4W0
情報学科「0x49 0x20 0x6C 0x6F 0x76 0x65 0x20 0x79 0x6F 0x75 0x2E」


161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:48:55.30 ID:ou+XnvIB0
デジタルハリウッド 学科「僕のボンドガールとしてのモーションキャプチャーさせてくれ」


170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 03:59:40.07 ID:rQ24j0DZO
統計学科「僕が君と結婚できないという帰無仮説は棄却できない」


180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月)04:20:46.63 ID:jOnule1CO
商学科「君が他の誰かにM&AやTOBされる前に、僕が君のホワイトナイトになりたい」


184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 04:32:14.35 ID:DBoXJspaO
ガリレオのせいか…
理系は全て福山の声で再生される


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 04:43:03.67 ID:eBL/0YL0O
経済学科「君があまりにも美しすぎて俺の気持ちがインフレ起こしてます」


201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/12/15(月) 07:42:45.35 ID:CeiJgG8xO
哲学科「僕が君を愛していると言うことは、君はここに存在していることなるのだろうか
しかし、君を愛している僕は存在している」


209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 08:53:10.91 ID:f8Zi/2jEO
>>201
デカルト乙


212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 09:15:02.25 ID:N+p9g7yq0
数学科「私と一緒に愛の方程式を解かないか」


213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 09:22:24.56 ID:fUj00cZEO
保育科「僕達ならいい子を育てられるよ」


216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 09:36:31.47 ID:6eT0drF90
情報工学科「君は僕の心をハッキングしたらしい」


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 09:46:04.57 ID:v8gMCSw6O
生物科「生物の雌雄は卵を持つか否かで決まる。君は卵を持っていて、僕はそれを持たない。
つまり僕ら2人が組めばそこに新しい生命の誕生ってわけさ」


225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 09:54:45.19 ID:IbITxoyA0
建築学科「僕のカチカチに耐震補強したキャンティレバーを君の液状化したヴォイドにコンプレックスしたい」


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:25:09.64 ID:yLi0022CO
これは良スレwwww


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:30:19.42 ID:sQj2Ih1o0
写真学科「三脚持ってくれ」


238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:31:08.16 ID:6eT0drF90
>>237
クソワロタwwwwwww


239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:32:11.66 ID:IioGnsuxO
法律学科「君と僕と恋、要件は満たされたよ」


240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/15(月) 10:34:36.10 ID:1aYxAp86O
天文学科「ちょっと1天文単位ほど散歩しようよ」


This Friendly World

In this friendly, friendly world
With each day so full of joy
Why should any heart be lonely?

My turn!
In this friendly, friendly world
With each night so full of dreams
Why should any heart be afraid?

The world is such a wonderful place
To wander through
When you've got someone you love
To wander along with you

With the sky so full of stars
And the river so full of song
Every heart should be so thankful
Thankful for this friendly, friendly world

神保

「交流会の企画だけど、谷中先生に見せたら褒めてもらえたよ」

その一見喜ばしい報告に、しかし僕たちは誰も素直には喜ばなかった。会長の表情が冴えなかったからだ。

「それで?」

高橋先輩が既に不満そうな顔をして言った。

「来年の交流会では使うって」
「今年は?」
「例年通り、会食」
「希望者が減少傾向だって報告して、新しく企画まで立てたのに?」

責めるような高橋先輩に、会長は苦笑いした。

「まあ、色々と準備もあるらしいから、」
「あの狸野郎。餓鬼の言うことだと思って舐めてんだろ」
「怜志…」

交流になっていない交流会。

無駄なコストを他に回せば、慶明はもっと良くなる。

高橋先輩の言いたいことはよく分かる。谷中先生を狸野郎と呼ぶのは校内中探してもそう何人もいないだろうけれど、その気持ちは分かるのだ。

「俺たちは大人しく隠居してろってことだよね。ちょっと苛つく」

高橋先輩は溜め息を吐いた。

先輩は時々毒を吐く。それは他人を自分本位に貶めるものではないから僕はそれを嫌だとは思わない。ただ反応に困る。

室温が数度下がった。

「いいえ。先輩にはまだまだ仕事して頂きますよ?」
「そうですね」
「そうですよ。任期中はしっかり仕事して下さい」

夏帆に続いて口々に言った。

高橋先輩を宥めるのは決まって会長か夏帆の仕事になっている。高橋先輩は興奮して文句を言っているわけではないから宥める必要もないのかもしれないけれど。

「ごめん、ありがとう。力になれるといいんだけど」

今度は高橋先輩が苦笑した。

室温が数度上がった。
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