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鋼の錬金術師/苦い契機(前編)

※妄想小説
※マスタング大佐とモブ
※女性に対して暴力を振るう表現があります
※約束の日から5年後




ロイ・マスタングは大きな欠伸をした。古びた執務机に朝から堆く積まれた書類にはまだ手を付けていない。いい陽気だな、と思って窓から覗く広い青空を見た。

開け放たれた窓からは麗らかな陽射しが入って爽やかな風が吹き込んでいる。

「仕事、今日くらいはいいんじゃないか」

仕事熱心で優秀な副官に睨まれるのを分かっていてそう言ったのだが、副官は静かに「でしたら私にも休暇をいただけますか」と答えた。

マスタングは、おや、と眉を動かした。

「どこかへ行くのかね?」

上官に向き直った彼の副官は毅然とした態度で気を付けの姿勢を取った。

「申し上げたくありません」

マスタングは副官の回答に、呆気に取られてしまった。生真面目な部下だと分かってはいたが、こんなことを言われたのは初めてだ。男女の仲では無いとはいえ、互いに知りたくないことまでなんでも知っているし、隠し事をする時間もなかったからだ。

『アレ』から5年が経ち、復興やら治安維持やらで忙しくはあるが、今では規則どおり以上の休暇を取得できている。

それに加えて大佐から大将に昇進したマスタングは、却って仕事が減っていた。

マスタングに暇が増えるということは、その副官の暇も増えるということだ。

プライベートの時間が増えた。

ついに俺に隠し事か?

マスタングは詰まらないような面白いような気持ちで副官を見た。

「ああ、話さなくていい。今のはただの世間話だ」

笑ってそう言ってやると、副官は目線だけ下げてから自分の仕事に戻った。

「本当に、休暇を取るか?」
「大将はどうされるんですか」
「急ぎの仕事も無いことだし、こんな良い日だ。警らがてら街を歩くのも悪くないな。君も休暇を取るなら、まとめて休暇届を出しておくが」
「お願い致します」

そう言うが早いか副官は身支度を始めた。

どうやら本当に自分の預かり知らぬところで何かしているらしい。

「私はこれにサインしてから帰るから、中尉は先に上がっていいよ」
「恐れ入ります」

副官はさっさと荷物をまとめて、一礼したら、直ぐに帰ってしまった。

「男でもできたか?」

その独り言は誰の耳にも届かなかった。

さて、仕事するかな。そう思って手に取ろうとした万年筆のキャップが、コン、と床に落ちてしまった。インクが漏れていたらしく、それで指が滑ったのだ。

仕事のし過ぎかね、と揶揄しても、諌める者は居ない。

マスタングは詰まらなそうな顔で机の下に転がった万年筆のキャップを探った。

何処だ?

確か音は、こっちの方に……。

見えるところに無いので、身を屈めた、その時。マスタングは、自分の許可を得ずに部屋に入った者が居たことに気付いた。

誰だ?

コソ泥か?

いや、こんな時間に堂々と?

侵入者の足音はどんどん近付いて来る。副官が部屋から出て行くのを見て、この部屋が留守になったと思ったにしても、これでは見付かった時に言い訳もできないだろう。

それは、どういうことだ。

言い訳が必要無い者?

例えば、誰だ?

例えば、アームストロング中将の手の者とか?

そう考えて、マスタングは、ふっと笑った。余りに平和な考えだからだ。命を奪われると思っていない、ちょっとした嫌がらせか何かだと決め付けている自分が情けなくも嬉しくも思えたからだ。

それは恐らく、相手にも言えることだ。

簡単に敵地に乗り込むとは。

知らぬでは通らない。

私の領土に浸入するとはどういうことか、思い知らせてやらねばなるまい。

お仕置きだ。

マスタングはこの日一番楽しそうな顔で笑った。




【苦い契機(前編)】




机の発火布を手にして、背中を見せる侵入者の背後を取り、足を掛けて押し倒して上に乗り、側頭部に手を置いて床に叩き付け、細い腕を足で抑え付けて、自害させないよう万年筆を口に差し入れたうえで、耳元で「お前は誰だ」と囁いた。

侵入者を組み伏せるのは簡単だった。

その余りの弱さにアームストロング中将の部下ではないと分かって、マスタングは少し喜んだ。冗談抜きの敵かもしれない。

しかしながら、これは弱い振りなのか?

腰が細い、力が無い。

何か隠し種があるとか?

錬金術師か?

しかしこの制服は確かに正式なうちの軍服だ。偽物とは思えない。軍にいる錬金術師はだいたい知っている。

新兵か?

いや、まだ新兵にもなっていない訓練兵か?

声を上げなかったことぐらいは褒めてやろうと思ったが、侵入者は叫び声を上げる余裕さえなかっただけだったとマスタングは後から気付いた。

「君は新兵かね?」

侵入者は何度も頷いた。

「誰に唆されたか知らないが、選りに選って私の執務室に入って来るとは度胸があるな。私の焔を見たことがあるのだろう?」

マスタングは侵入者の目の前で発火布の手袋を嵌めた指先を擦り合わせた。

「私は首謀者が誰かなどには興味が無い。君がなんと言うおと耳を貸さない。ただ焼くだけだ。苦しいと叫びたくても喉が焼けて声を出せない苦しみを、味わわせてやろう」

マスタングの膝の下で、侵入者が震えている。

本当に弱いだけか?

ビックリショーは無しなのか?

マスタングは「さようなら」と言ってから、パチン、と指を鳴らして発火布から火花を散らした。しかし焔は出ていない。錬成しなかったからだ。一見気弱そうな侵入者に、最後にもう一押し鎌をかけただけだ。

それでも全く微動だにしない侵入者の様子を見ようと、マスタングは侵入者の顔を覗き込んだ。

息を飲んだ。

言葉を失くした。

侵入者が泣いていたからだ。

そして失禁していることにも気付いてしまった。

おいおい、勘弁してくれよ、と内心で思った。侵入者を撃退した積もりが、これでは自分が新兵を虐待していることになっている。副官に見られでもしたらなんと言われるか。

マスタングは新兵の口から万年筆を抜いて、体を退かせた。

「名前を言いなさい」

それでも新兵は何も話さない。

「上官は誰だね?」

新兵は動揺したのか何やら声を発したが、それが何かマスタングには判然としなかった。

「腰が抜けたか」

マスタングは立ち上がろうとする、というより逃げ去ろうとする新兵に手を貸そうとしたが、当然それを拒否された。失禁したのを恥じているらしく顔が真っ赤だしマスタングを見ようともしない。

軍人たる者、とマスタングは思った。

敵に背を向けるな。

狼狽えるな。

戦意を失うな。

諦めず毅然として最期まで戦うべきだ。

例え失禁しようとも。

例え戦火に死のうとも。

マスタングは酷く情けない気持ちで新兵を見て、それからその情けない後姿がどうしようもなく愛しく感じた。守るべきものだと思えたからだ。

何故私は沢山の命をこの手に掛けたのか。

何故これからも、何人でもまだ殺す覚悟があるのか。

理由はきっと『コレ』だ。

マスタングは冷静になって新兵を見た。その冷静さが余計に恐怖を煽っていることにまでは気付いていない。

さて、どうしたものか。

焔で乾かしてやるか?

それも面白そうだ。

相手が鋼のかハーボックならば実際に荒っぽく焔で彼らの股座を乾かしてやっていただろうが、流石に今の状況で、冗談でもそんなことはできない。

「着替えを持って来るから、そこで待っていたまえ」

マスタングはそう言ったが、侵入者が失踪しても追う積もりはなかった。弱い者をいじめるような、そんな情けないことはできない。

飛び込んで来る弱者を痛め付けるのは楽しいが、弱者を追い回すのは趣味ではない。人には理解されないが、マスタングにはそういうポリシーがある。

やれやれ、仕方あるまい。

バケツに湯を入れて、タオルと雑巾を用意して、ロッカーにある軍服の替えを持った。

「何やってんスか?」

部下に声を掛けられても、「ちょっと」と言って立ち去るしかない。

武闘派で肉体労働もお手の物とは言え、今のマスタングは側から見れば雑用らしきことをしているようにしか見えない。ちょっと異様である。

何をやっているのだろうね、私は。

マスタングは溜め息をついて執務室に戻った。

「や、これは」

侵入者は正座していた。

軍服の上を脱いで、それで床を拭いたらしいことも分かった。

「申し訳ありませんでした。許してください」

侵入者は顔を真っ赤にして低く頭を垂れたままか細い声でそう言った。

マスタングは耳にした侵入者の言葉に、彼女が女性であることに初めて気が付いた。道理で力が無い訳だ。

これは。

本当に参ったな。

「これは着替えだ。男物だがね。湯とタオルもある」

マスタングは新兵に気を遣って着替えを少し遠くから放った。バケツとタオルはその場に置いて椅子に腰掛けて、くるりと壁の方に体を向けた。

「それで、名前ぐらいは言う気になったかね?」

マスタングが尋ねても新兵は何も話さない。

「まさか、私に尋問されたい訳でもあるまい?」

マスタングが振り返っても新兵はまだ着替えに手を付けていなかった。遠慮して当然だが、新兵は部屋を立ち去ろうとする様子も見せない。

マスタングは立ち上がって彼女を真っ直ぐ見下ろした。

「着替えないのかね?」

やはり何も答えない。

「私が手を貸そうか?」

そう言って新兵に近付くと、彼女は面白いぐらいに動揺した。

「いけません!」
「はい?」
「汚れます…」

は?

新兵は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに顔を俯かせた。

マスタングは言い返す言葉もなく、かつてはよくあったことを思い返していた。

若い頃はよくあった。頭脳明晰でいつも冷静でよく体が鍛えられていて常人離れして強い焔の錬金術師であり女性には優しく凛々しい顔付きだった若い頃のマスタングにはよくあったことだ。老いも若きもマスタングを見て頬を染めた。

もしかして。

いや、まさか。

「だったら自分の手で着替えたまえ。でなければ本当に私がやるぞ」

新兵は逡巡してから「はい」と答えた。

マスタングが新兵に背を向けると間も無くタオルを湯で濡らす音と衣擦れの音が聞こえた。漸く着替える気になったらしい。息を吐いてマスタングは発火布の手袋を机に置いた。

「それで、君は、まだ名前を言う積もりがないのかね」
「……ミシェル・パトリシアと申します。ランドール大佐の隊に属しています」

ランドール大佐の?

今のところマスタングは彼と友好的な関係である。

「ミシェル、いい名前じゃないか。それで、なんで私の執務室に入って来た?」

ミシェルは「間違えました」と消え入りそうな声で答えた。

「は?」

『間違えた』?

それは右に行こうとしていたけど誤って左に行ってしまうようなことを言っているのか?

「まさか、マスタング大将の執務室だとは思わず…本当に申し訳ありませんでした」
「どこと間違えた?」
「ペニントン少将の執務室です」

マスタングは顎に手を当ててペニントン少将の執務室の場所を思い返してみた。彼の執務室はこの建物の左右全く逆の位置にあり、しかも一つ下の階層だ。

『間違える』などということがあり得るか?

「少将に呼ばれていたのか?」
「はい」
「大遅刻じゃないか」
「はい」
「君は、自分で、何故間違えたと思う?」

ミシェルは目を左右に揺らした。そして何かを言おうとして口を開いたが、直ぐにまた閉ざした。

「ミシェル」

マスタングは優しく声を掛けた。

「命令せずとも、進んで話してくれると有り難いのだがね」

ミシェルは泣きたくなった。

その表情は、余りに優しくて、その声は、余りに近くて、その仕草は、余りに悠然として、余りに熱くて、余りに、憧れが強くて、夢にまで見た、好きで、好きで、触れるのも怖いくらいの、人だから。ミシェルは泣きたくなった。

「申し上げたくありません」

ミシェルはマスタングを見ずにそう言った。




つづきはmblg.tv
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GRAMERCY NEW YORK


グラマシー・ニューヨーク
GRAMERCY NEW YORK
グラマシージュエラー(2個入)

黒とダークブラウンの暗い色合いの箱を開けると、鮮やかな赤色が目に飛び込む。チョコレートも黒と赤色のコントラストが鮮やか。

華やかなのは見た目だけではない。コニャックとウォッカのアルコールが入ったチョコレートは味も刺激的。だった二粒なのに印象深い。そのため赤いハートのショコラは他のブランドより艶やかで色っぽく感じる。

ボンボンショコラは主力商品ではないと思うけれど、とても美味しかった。その意外性は強い。

ガナッシュはジューシーで、コーティングのチョコレートも柔らかい。見た目と違って口当たりがよく、初めて食べるのに全く抵抗を感じない。

華やかで艶やかで、派手な愛を伝えるチョコレート。
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DEMEL


デメル
DEMEL
ソルティキャラメルクープ(2個入)

可愛らしい箱に丸っこいフォルムのショコラが入っている。箱に描かれたニワトリのイラストが産んだ卵のようで面白い。

チョコレートは一粒が大きく、たっぷりプラリネが入っている。プラリネはガナッシュのよえに甘くて香ばしくて不思議な食感がある。あれはマジパンとかなのかな。

初めて食べる不思議なショコラ。

見た目から味までおとぎ話に出てくるお菓子のよう。
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HUGO & VICTOR PARIS


ユーゴ&ビクトール
HUGO & VICTOR PARIS
カルネ・ドゥーズ・ショコラ(12個入)

手帳を模した重厚感のある黒い箱に四角いシックなチョコレートが並んでいる。

チョコレートはとても口溶けがよく、コーティングとガナッシュがよく合っている。柔らか過ぎず固過ぎず。

プラリネの甘味、アーモンドの香ばしさ、ビターガナッシュの苦みと香り、ほかにもバニラやキャラメル、コーヒーなどが入っていてユーゴ&ビクトールのショコラをたっぷり堪能できる。

カカオはまろやかなものが多く、意外と癖のない味。フルーツやスパイスの香りに頼らないようにできていて、カカオの香りがよい。

見た目が平たい正方形で、プリントもほとんどないが、ガナッシュとしての完成度をむしろ示しているようで風格を感じる。

チョコレート好きのためのチョコレート。
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PIERRE MARCOLINI


ピエール・マルコリーニ
PIERRE MARCOLINI
セレクション(9個入)

白い箱にチョコレートが綺麗に納められている。形は様々でエスカルゴ、フランボワーズ、ピエール・マルコリーニなどどれも都会的なセンスを感じる。

一見すると色味が少なくて地味だけど、いざ食べようと思うと、四角いの、丸いの、カタツムリ、ハートと色々あることに気付く。

甘いけど苦い。苦いけど甘い。風味、口溶け、香り、甘みと苦み、すれら全てが絶妙に味覚を刺激する。

個人的に好きなのはキャラメル。カカオのすっきりした苦みとキャラメルのほの苦い甘さが合わさって何にも例え難いような官能をくすぐる味わい。

調和のとれたチョコレート。
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DARCIS


ダルシー
DARCIS
ユイット8(8個入)

シンプルなグレーの箱に四角いチョコレートが入っている。

りんごペーストを使ったキャラメルのポム、プラリネのスペキュロス、ひなげしのガナッシュのコクリコ、フランボワーズ、トンカ豆のプラリネなど様々な味がある。甘いものが多いけれど、苦みのあるチョコレートもその香りとコクは美味しい。

食感はやや固め。平たい形をしているのでその歯ごたえもより楽しめる。

個人的に好きだったのはコクリコ。なんとも言えない香りはチョコレートによく合っていて、甘さがさっぱりしていてとても美味しかった。
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Centho


セントー
Centho
セントー・チョコレート 4P・J(4個入)

鮮やかな青い箱に長方形のチョコレートが入っている。チョコレートには余り飾り気がない。

口溶けは柔らかく、抹茶、柚子などの香りがほのかに口の中に広がる。とても甘い。香りは強くなくて、チョコレートらしい味が強いから好き嫌い少なく食べられる。

一粒が大きくて食べ応えがある。甘くて口溶けがいいガナッシュが好きな人におすすめ。

美谷島 桔平/一方通行

※会社員
※ある男に片想いされている男が片想いしている話し




橋本と連絡が取れなくなって1週間が経っていた。

「美谷島さん、風邪ですか」

顔を上げると木佐貫さんが心配そうに俺を見ていた。俺に元気が無い理由は風邪ではないけれど、『橋本から連絡が無いもので』などと言える筈もない俺は曖昧に頷いた。

「流行ってますからねえ。心配ですね」

木佐貫さんは心から不安がるような目付きで俺をじっと見詰めた。俺はそれを見ていられなくて味噌汁を箸でそっと掻き回した。

この人は、俺のことが好きだ。

俺が橋本を好いているよりずっと深刻な意味合いで。

そして俺は木佐貫さんに好かれていることを利用している。

最低な人間だよ。

分かってる。

「木佐貫さんは大丈夫ですか。僕が言うのも何なんですけど、季節の変わり目って体調崩す人多いっすからね」

木佐貫さんは「美谷島さんと話すと元気になりますよ」と答えて笑った。

真面目な顔して恥ずかしいことを堂々と言うものだから俺はそれを否定できずに一緒に笑うしかない。相手が橋本なら「バーカ」と言ってやるところだが、仕事上の付き合いもある木佐貫さんにそんなことを言える筈もない。

俺は木佐貫さんの気持ちに甘えているが、それと同時に何かを消耗しているのも事実だった。

気を遣うって言うのかな?

営業スマイルを張り付けて、良い子振っている。本当の自分ではない感じ。好いて貰う為に努力し続けている感じ。

「光栄です」

俺はなるべく冗談めかしてそう言った。

木佐貫さんは嬉しそうに笑った。




【一方通行】




木佐貫さんって物腰柔らかいのに押しが強いんだよな、と思う。木佐貫さんとデート染みたことを繰り返してしまうのはその所為だ。断じて俺の貞操観念が乱れているからではない。

今日だって、場所こそただの定食屋ではあるけれど、こうして夕食の席を一緒にすると変な気持ちになる。

『たまたま近くまで来たので』

木佐貫さんはよくそう言う。

俺はそれを、嘘だ、と思う。

木佐貫さんはいつも断ると関係を悪くするような遣り方で誘うのだ。それがわざとなら幾ら関係が悪くなろうが俺だってすっぱり断れただろうけれど、彼のあれはたぶん違う。無意識の強要、無実の強欲、天然素材の圧迫、或いは天使の涙とでも言うべきか。

段々とエスカレートしていく彼の要望を俺は一体どこまで聞き入れてしまうのか、最早自分でも決められない。

橋本ならどうやって断るだろうか。

例えば、今、この時を。

「美谷島さん、スカイツリー行きました?」

木佐貫さんのその問いに、なんて答えるのが正解なのか。俺には分からない。

「一度だけ」、と俺は正直に答えた。橋本と行ったことを話したくはないけれど、行ったことが無いと言えば『一緒に初めてを過ごす』ことを楽しみにされそうで居た堪れないと思ったからだ。

どうせ、何て言っても俺は木佐貫さんとスカイツリーに行く気がする。

なんだろうな、これって。

気を持たせてるっつーのかな。

「ああいうの、上に昇るよりも下で遊んでる方が楽しいと思っちゃうタイプなんですよね、私。スカイツリーを見上げるのが醍醐味、みたいな。勿論、昇ったら昇ったで展望デッキにも面白味はありましたけど」

木佐貫さんは続けて「あそこの展望デッキは広々してて過ごしやすいですよね」と言って俺を見た。

ああ、え?

意外だ。木佐貫さんもスカイツリーに行ったことがあるらしい。

誰と行ったんだろう?

「あ、実は上には昇んなかったんすよ。一緒に行った奴が、木佐貫さんと同じこと言って」
「そうなの。ちょっと勿体無いですね」
「そいつと木佐貫さん、そういうとこで気が合うのは、なんか、意外な感じがするんですけど」

俺としては折角スカイツリーまで行ったのだから展望デッキまで昇って当然だと思ったのだけれど、橋本は違った。ソラマチを歩いて、それで終わり。俺には理解し難いそれを、木佐貫さんは共感できると言う。

なんでだろう。

詰まんねえ。

橋本と木佐貫さんは対極にあるようなのに、俺には理解し難い部分に限って二人の意見が合致していることがある。俺はそれを忌々しく思う。

俺の手が届かないところに木佐貫さんが居る。

橋本の、直ぐ隣に。

「それって、美谷島さんの好きな人?」

木佐貫さんは突然、余りに突然、そう尋ねた。俺は箸に挟まれているソースがたっぷりかかったロースカツを震える手で口に運んだ。皿に落とさなかっただけ、ましだろう。

動揺したのに気付かれただろうか。

そうでないことを祈る。

俺がロースカツを咀嚼する間、木佐貫さんは永遠にでも俺の返答を待つのではないかという程落ち着いた様子で鯖の味噌煮をほぐしながら少しずつ食べていた。

木佐貫さんの、質問の追撃をせずに幾らでも返答を待っているところは、彼の恋愛に対する姿勢を見るようで申し訳なくなる。

答えらんないこともあるよ。

待っても、待たれても。

どーにもなんないことはあるよ。

「やっぱロースカツ美味いなあ」

とりあえず独り言でロースカツに夢中だったアピールをしてみる。たぶん木佐貫さんは改めて質問するような無粋は働かないだろうから、この話しは終わりになるだろう。

俺は笑って木佐貫さんを見た。

これで止めを刺す。

思ったとおり、木佐貫さんは困ったような顔をして、これに関してそれ以上は追求しなかった。

その代わり、提案があった。

「ねえ、今度一緒にスカイツリーに行こうよ」

どっちが良かったのかな。でも本能的に、『好きな人』がいることは知られちゃいけないって思ったんだよ。だって俺がしている片想いの方が、木佐貫さんの片想いより、ずっと報われる可能性が低いから。それを知られたくない。

でもなあ。

やっぱりそうなるよなあ。

「あー、てか展望デッキってあれビルだと何階ぐらいに相当するんすかね。ああいうエレベーターの管理とか色々大変そうっすよね」

俺は話しを逸らすよう試みた。

「確かにね。大体80階くらいだったかな。行ったのかなり前だから私も忘れちゃいました」
「そうっすか」
「まあ実際に昇ると感じ方も違うかもしれませんよ。折角だから展望デッキ行った方が良いですよ」

これ、もう駄目だな。

「あー……」

俺が返答に窮していると、木佐貫さんは嬉しそうに微笑んだ。

「私も久しぶりに行きたくなったなあ。美谷島さん、いつなら行けますか?」

やっぱりこうなる。

「来週の土曜とか」

俺の提案に木佐貫さんは嬉しそうに笑みを浮かべた。女が好きそうな優しい顔付きだ。目を細くして、眉尻を下げて、年上なのに無邪気なその表情を俺は可愛いと思わなくもない。

木佐貫さんは「じゃあ詳しいことはメールで」と言ってスマートフォンをかざした。

彼の笑顔を作為的だと断言できれば俺の出方だって変わる。

顔は優男だけど筋肉質でテクニシャンな木佐貫さんが、“その界隈”でモテないとは思えない。俺みたいなのに構ってないで、幸せになれる相手を探した方が絶対に良い。

絶対に。そうに決まってる。

振り向いてもらえないのは辛い。

好きな人の横顔を見るだけで、人は幸せにはなれない。小さな喜びとか、細やかな愉しみとか、人を好きになることの実感は得られても、その先にあるのはきっと孤独な世界だ。

一方通行の世界。

最期に一人になる、その道程。

そんなの不幸だ。

木佐貫さん、だから、俺のことなんか好きになって、貴方は馬鹿だ。

馬鹿だろう?

人間は幸せにならなきゃいけないのに。その為に生きているのに。

誰かと結婚できなくても、子どもがいなくても、打ち込める趣味がなくても、仕事で成功しなくても、贅沢できなくても、兄弟に蔑まれても、それでも幸せだと思えたら生きる意味ができるのに、幸せだとさえ思えたら、それだけで、良いのに。

木佐貫さんなら幸せに成れる。

木佐貫さんなら。

俺は、駄目だ。

だって橋本が居なきゃ幸せを感じられない体質に成っちゃったんだよ。橋本は俺のことを振り返ってもくれないのに、俺は橋本の横顔さえ見られないのに。

幸せに成れない、そういう連鎖に入っちゃったんだ。

そんなの辛いだろ。

そんな、ただ死ぬ為だけの道程を、人生とは呼びたくないだろ。

「すみません、ちょっと便所行ってきます」

木佐貫さんは優しげに微笑んで頷いた。丸で愛しい人を送り出すみたいなその表情を、自分の中にある重苦しい泥を掬うようで、酷く疎ましく思った。
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DEMEL


デメル
DEMEL
トリュフ(10個入)

品格を感じるイラストが描かれた箱にぴったりチョコレートが並んで入っている。チョコレートはほとんど色味がありのままで、派手さはない。

チョコレートの形や大きさは香りや味によって異なっている。

甘いチョコレートが多いけれど、ガナッシュはとても口溶けがよく、しつこさがないから甘さがちょうどよく感じられる。コーティングもガナッシュを邪魔しない。

ただしミルクチョコレートの甘やかな味わいは絶品。こういう甘いチョコレートを食べると、チョコレートの魅力を強く感じる。砂糖を舐めただけでは得られない、言葉にし難いものを感じられる。

トリュフやガナッシュはどれも同じ品質と、統一感のある風味や味わいを守っているので、好きだと思った人は思いきって多めのアソートを選んでも損はないはず。
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JEAN PAUL HEVIN

ジャン=ポール・エヴァン
JEAN PAUL HÉVIN
ボワットゥ ショコラ フォリ ドゥース(10個入)

いつものジャン=ポール・エヴァン。落ち着いているけど、ベージュに青のハイセンスな箱。中には正方形のボンボンショコラ。

甘いチョコレートが多い。ガナッシュはとても柔らかく、ジューシー。オレンジを使ったチョコレートがいくつか入っているけれど、それがとても爽やかでチョコレートとは思えないくらい。

見た目の派手さはないけれど、色の使い方やイラストは都会的で若い人向け。

フルーティーで爽やかでセンスのあるチョコレートを求める人にはこれ以上ないチョコレートブランド。
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JACQUES GENIN


ジャック・ジュナン
JACQUES GENIN
ショコラアソート(9個入)

メタリックな箱にアートのような模様が描かれたチョコレートがぴったり詰められている。

苦いガナッシュが多い。柔らかい口溶けで広がるのはチョコレートに付けられたほのかな香り。ハチミツ、トンカ豆、カルダモン、キャラメルなど、どれも強烈な香りはないけどチョコレートのよい香りとよく合っている。

ダークチョコレートの苦みは鋭いけど、でもどこかあっさりもしている。甘いものが苦手な人でも食べやすいチョコレート。

ミルクチョコレートでできているガナッシュはとても甘い。ダークチョコレートの合間に食べるとその甘さが際立つ。
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Roberto Catinari


ロベルト・カティナーリ
Roberto Catinari
アルテ・デル・チョコレート(4個入)

チョコレートのずんぐりした形が特徴的。またチョコレートを切った断面を見せているものは他で見たことがない。

一粒が大きく食べ応えがある。

コーヒーのガナッシュは甘みの中に香ばしい苦みがある。断面になっているチョコレートのピスタチオなどは、まったりしてまろやかな味わい。

刺激は少ないけど、チョコレート菓子の甘さをしっかり持っている。
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Marie Belle

マリベル
Marie Belle
9pc Blue Box(9個入)

綺麗な空色の箱に様々な絵柄のチョコレートが並んで入っている。絵柄は他のブランドにはない鮮やかで楽しいもの。

今回買っていない2個入のものは、小さなカバンに見えるように作られていて、個人的に好き。

絵柄に劣らず、味も色々とあって楽しい。それぞれの味の説明書きも詩的で興味深く、チョコレートの味を引き立てる。

ピスタチオ、マダガスカル、バナナ、ラムレーズンなど、まろやかなものからフルーティーなもの、苦みとコクのあるものまで様々な味と香りを楽しめる。全てガナッシュで、柔らかい口溶け。

いつまででも食べていられる。

見た目の爽やかさと、楽しさ、味の確かさはプレゼントするのに適していると思う。
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GODIVA

ゴディバ
GODIVA
フォンダンショコラ セレクション(5個入)

現代アートのようなピンクの丸い箱に、幾何学模様のように丸いチョコレートが入っている。

フォンダンショコラをイメージしたチョコレートは、オレンジ、カフェ、バニラなどのバリエーションがあり、どれもとても甘い。

一粒は大きめ。ミルクチョコレートの甘さは疲れを癒してくれる。
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WITTAMER

ヴィタメール
WITTAMER
コフレ・ド・ヴィタメール(6個入)

茶色い小さな箱にぎっちりチョコレートが詰められたいる。小さく見えるけど、嵩があるから大きさとしては普通くらい。

カフェ、フランボワーズ、バニラなど、初めて食べる人でも購入しやすい香りが多い。ガナッシュはとても柔らかくてフランス系のボンボンショコラになっている。

とろけるようなガナッシュが甘くて、風味豊かで、贅沢なチョコレート、という味になっている。噛み締めたくなるような、痺れるような香りのショコラ。

個人的に好きなのはフランボワーズ。柔らかい口溶けとともに甘い香りが広がって、ほのかな苦味とカカオの香りが最後に残る。爽やかでコクがあって甘くて、素晴らしいガナッシュ。
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Pralibel


プラリベル
Pralibel
セレクション(5個入)

黒と鮮やかなオレンジの箱に大振りのチョコレートが入っている。

とても甘い。ガナッシュはやや固めで古風な味わいが魅力。オレンジ、ストロベリー、プラリネと、どれも奇抜さはなくてもこの古風な味わいが好きな人にはたまらなく美味しい。

見た目は王冠やハートなどはっきりした形のものが多くて堂々とした風格がある。

甘いチョコレートが好きで、一粒が大きめのチョコレートを食べたいという人におすすめ。
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DEBAILLEUL

ドゥバイヨル
DEBAILLEUL
モントシエル(4個入)

淡い青色の不思議なバルーンが描かれた箱に、ティーカップのイラストが描かれたチョコレートが入っている。

見た目は少女趣味で不思議なアンバランスさがあるけれど、チョコレートの味はストレート。ストロベリーのミルクガナッシュとアールグレイのダークガナッシュ。

甘いチョコレートはとことん甘く、苦いチョコレートは深い香りをもって、ガナッシュの風味と絶妙に合っている。ガナッシュはとても柔らかいのであっという間に風味が口の中に広がる。

同じチョコレートという枠組みの中で、同じストロベリーと同じアールグレイを使って、どうしてこうも違うショコラになるのだろうか。なんでか全然違う。ドゥバイヨルのショコラ、という感じがする。

ストロベリーの甘さの中の酸味とか、ダークチョコレートの中の隠し味みたいなアールグレイの香りとか、再現のしようがないくらいに完璧で代わりがない。
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Frederic Blondeel


フレデリック・ブロンディール
Frederic Blondeel
ガナッシュ3(3個入)

色合いは落ち着いているけれど、よく見るとマークやプリントに愛嬌がある。

ガナッシュは定番の味が用意されていて、どれも冒険することなく安心して食べられる。口溶けは柔らかくて、ガナッシュに付けられている香りが優しく広がる。

甘さと苦さを両方もっている。カカオは酸味が少なく食べやすい。好き嫌いなく食べてもらえるショコラ。
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BEL AMER


ベルアメール
BEL AMER
ボヌールショコラ(8個入)

華やかな暖色系の箱に色とりどりで形も様々なチョコレートが入っている。

甘いチョコレートが多い。見た目の可愛らしさを裏切らない味。ビターチョコレートも甘い風味のムースやフルーツの香りが付けられていて食べやすい。

幅広い年齢の人が食べられる。

一粒は普通からやや大きめ。ベリー、バニラ、キャラメル、ジャスミンなど、ほとんど甘い。

個人的に好きだったのはフリュイルージュ。ベリーのガナッシュとホワイトチョコレートのボンボンショコラ。甘い味付けのベルアメールのチョコレートによく合っていた。
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Michel Belin

ミッシェル・ブラン
Michel Belin
モンファボリ(8個入)

ブランドのイメージとは違って、落ち着いた見た目の箱に淡々とチョコレートが並んでいる。

魅力は花の香りのガナッシュ。甘草、すみれ、ローズ、ラベンダーなど、チョコレートに合うのかなと思って食べると、花の香りに感動する。花の蜜を飲むみたい。

個人的に好きだったのはヘーゼルナッツのガナッシュ。プラリネはよく聞くけどガナッシュは初めて食べた。まろやかでコクがあってとても美味しかった。

一粒は普通からやや小さめ。全体的に甘いけどコーティングに使われるダークチョコレートの苦味が味を引き締める。

繊細で上品なボンボンショコラ。味わって食べたいひとにおすすめ。
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