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マリオ「ラブ・インベーダー」

今日は実に良い天気だった。それに何より素晴らしい出逢いを得た。

「兄さん、何かいいことあったの?」
「聞きたいか?」

ルイージは素直にうんと頷いた。子供の頃からルイージは俺にはとても正直で、嘘を吐く時は半分泣きながらだった。それは今でも変わらない。

「お姫様に逢ったよ」
「え! スゴイ!」

薄っぺらい感想だな。

そうは思ってもルイージの表情は最高にワクワクしているから、まあいいかって気持ちになる。ルイージは女の子みたいにお伽噺が好きなのだ。恐竜が暴れる世界を冒険するより、魔法の国で不思議な木の実を食べたがる。

「可憐で、儚げで、絵本から出てきたようなお姫様だった」
「いいなあ!」

ルイージはヨッシーに捕まっていたから、ピーチ姫に会おうにもできなかっただろう。俺はヨッシーが来る気がしたからわざとルイージを残して家を出たのだ。

ルイージは心から残念がっているようだ。

「巨大な外敵に狙われた時、我々には何ができると思う?」
「へ?」

俺の問い掛けにルイージは目を丸くした。

「絶対に敵わないと諦めるのは、性に合わないからなあ」
「がいてき、って?」
「わかんねえかなあ、お前には」
「ごめん、兄さん」

ルイージは悲しそうに俯いた。

「俺は、これを、立派な侵略と受け取った。小さな組織に対して圧倒的な力で侵略して来た外敵みてえなもんだ」
「な、なにが?」
「わかんねえか!」
「がいてき?」
「そうだ、外敵だ!」
「がいてき……?」

ルイージは分かったような分からないような表情をした。目がふらふら泳いでいるから直ぐ分かる。

俺には自分の立たされている立場がはっきり見えていた。

お伽噺のお姫様なら俺と話したりしない。ピーチ姫は空想のお姫様ではない。問題は彼女が俺とは違う社会に生きていることだ。

「彼女は、俺の心を侵略したのさ」

ルイージはぽかんと口を開けた。

「外敵とは、『ラブ』だ!」

俺の心は始めのうちは侵略に慄いていた。その力の差が歴然としていたから諦めようとしていた。

しかしこれが侵略だと考えたら!

「外敵が、ラブで、侵略したのは、ラブで」
「そうだ!」
「ら、らぶ!」

ルイージは勢いだけでそう叫んだ。

「俺は戦う。この絶対的に不利な立場をどうにかしてやるのだ」
「たたかう、の?」
「いいか、巨大な外敵が俺を踏み潰そうってんだ。やることはこれまでどおり、ひとつだけだろ!」
「それってなに?!」
「『敬服』だ!」

ルイージは目を輝かせている。

俺は気分よく演説の続きを始めた。

「我々が彼らを屈服させるには、『敬服』させる外に道はない!」

会社を興してから俺はそうやって生き延びて来た。まずとにかく名前を売って、俺という存在を知らしめて、敬服させる。こいつは凄いと思わせるにはそれしかない。

俺は徹底抗戦する構えだ。

この侵略に打ち勝ってみせる。

ルイージは俺の話しを聞きながら何度も頷いた。


【ラブ・インベーダー】

シバ/砂の町

砂の嵐
荒野を支配する野放図な覇者


レルムがふらふら歩くのは、実際に人間の子供がそうするような再現性がある。

「レルム。行くよ」

俺が呼ぶと名残り惜しそうにその場を離れるのだから、彼の内面に潜む感情の存在を、誰が否定できるだろうか。複雑に高度に細密に計算される脳幹回路から離れたところに『感情』があっても不思議はない。

「ここは面白い町ですね。ぶかぶかの夏服ともこもこの冬服が一緒に売ってありました」
「そんなものを見てたのか」

俺が呆れて言うとレルムはうふふと笑った。

「ここら一帯は昼間は暑くても夜はとても冷えるんですよ。だから旅の人が困らないように、こうして昼の服と夜の服を売っているの」
「先生は、いま暑いですか」

ああ。

このアンドロイドには、体温がないのか。

燃料が凍らない限り、オイルが蒸発してしまわない限り、レルムにとっては暑いも寒いも関係ないのだ。

「そうだね。いまは、暑いかな」

俺はそんな風にぼんやり答えた。レルムは自身が機械であることを卑下しない。人間の中に暮らしながら、かといって人間と同化することもない。

レルムがこうも人らしく見えるのは、何が原因なのか。

それはやはり彼に感情らしきものがあるからだ。

「1日電車に乗っただけなのに、全然違う世界に来たみたいですね」
「そうだね」
「先生、服買わないんですか?」
「長く居る訳ではないからね」

レルムは「ふうん」と詰まらなそうに返事した。町をきょろきょろ見回すところはとてもアンドロイドには見えない。

「お前は」
「はい?」
「服が欲しいのかな」

旅の記念にその土地の衣服を来て食事をするというのは月並みだけれど悪くないアイデアだろう。レルムは食事をしないのだから、服だけでも買ってやろうかと俺は思った。

改めて店のディスプレイを見ると、観光客向けなのか態とらしく飾られた子供用のものもあるようだ。

「いくつか、好きなのを買おうか」

俺がそう言ってレルムを見ると、レルムはなんだか不思議そうに首を傾げて俺を見ていた。ガラスの目がじっと俺を見ている。

「僕には、必要ないものですよ」

レルムは然も当然と言わんばかりにそう言った。

ああ、そうだった。

お前には体温がなかった。

どうしてだろう。初めて会った時から全く代わり映えしない容姿は丸で人間味がなくて、触れれば冷たいところが多いのがレルムなのに、俺はお前を人だと思ってしまう。レルムはジキルの残した子供だと思ってしまう。

「そうか」

俺はそれだけ言った。

レルムは機嫌よさそうににこやかに笑った。

マリオ「エンカウント」

【エンカウント】


休日の昼下がり、公園のベンチは陽光を浴びて温かくなっている。俺はそこで昼寝するのが好きだった。

「あらら」

しかしながら本日はこの素晴らしい晴天のおかげか先客がいた。ブロンドの髪がふわりと風に靡いてよい香りを漂わせている。

ちょっと隣に座ってみよう。

そんな気持ちになるのも無理はない。その女の子はふわふわひらひら、現実感のない見た目をしている。可愛い子だったらいいな、なんて期待も寄せて、俺は彼女から少し距離をおいたところに腰を下ろした。

「やあ、こんにちは」

俺の気配に気付いたのか女の子が俺を見た。我ながらタイミング良く声を掛けられたものだ。

彼女はまだあどけない顔をしていた。思ったよりもずっと若そうだ。俺のことを警戒しているのがその目から伝わってくる。大きな瞳が鋭く俺を見ている。

「どなたかしら」

彼女は怪訝そうに俺を見ているけれど、そんなことより俺は無視されなかったことに歓喜した。

「いつもここで昼寝してんだけど、今日は君が居たから、嬉しくなって。君も昼寝が好きなの?」
「わたくし昼寝をしていたわけではありません」

彼女は目を伏せてそう言った。悲愴、とはこれのことか。

「なんだ、元気ないね。何かあったの?」
「あなたには、」
「関係ない?」

彼女の言葉を遮って俺は言った。俺がいくら笑っても、それこそ彼女には関係がないようだ。そこで俺はなんだかムキになってどうにかして彼女を元気にさせてやりたいと思った。

「俺みたいな名も無い男にこそ言えることもあるんじゃないの。俺はもう、きっと君の人生には登場しない男だよ」

俺は冗談の積もりで言って、しかしその言葉の真実味に自分自身で驚いた。

彼女のドレス、傷ひとつない肌、綺麗なイングリッシュ、それら全てが俺と彼女を隔てるには十分過ぎる材料だ。こんなところで一人で居ること自体、きっと彼女の人生にはもう無いことなのだろう。

俺は自分の汚れた作業着に目を落とした。

おー、きたねえや。

「さあさあ、俺のことは野良犬とでも思って。なんかあるなら言っちゃいなって」
「野良犬?」
「そう。できればドーベルマンを想像してね。ちょっと太ってるけど」

俺は自分のお腹を撫でて彼女を見た。

彼女はふふふ、と笑った。

ドレスに細身の身体を包んでふふふと笑う彼女は、世の中の純真を集めたお伽噺のお姫様そのものだった。

ピーチ姫だ。

彼女の頬に差すほんのりした赤みと、桃色のドレスと、仄かに香った果物の香りに俺は自然とそんなことを思った。

「ドーベルマンは嫌い?」

俺が尋ねるとピーチ姫は柔らかく微笑んだ。

「嫌いではないけど。あなたはどちらかと言うと……」

どちらかと言うと?

「ちょっと太ったビーグルね」

ピーチ姫は楽しそうに笑った。目を細めて照れたように笑うから、彼女は俺のことが好きなんじゃないかと馬鹿な夢想を抱いてしまう。

「あ、ごめんなさい」

ピーチ姫は黙ってしまった俺に謝罪した。

そんなことは必要ないのに。俺はただ、君に惚れちゃっただけなんだ。

「謝ることないよ。俺は感動したんだ。俺は最高にビーグルが好きになったよ」
「まあ、ふふ」

ピーチ姫はまたふふふと笑った。

ピーチ姫はその日、俺とちょっと話して帰ってしまった。誰かが待っているからと言っていた。

違う世界のお姫様。

お伽噺の主人公。

マンマミーヤ、惚れちゃった。
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PIERRE MARCOLINI

マルコリーニセレクション9個入り / PIERRE MARCOLINI


黒い箱に赤いリボンというシックな装丁に包まれている。ホワイトデーにはハートマークとリボンが白くなるのだけれど、これについてはどう考えても赤の方が良い。シックで、それでいてキュートな遊び心がある。

ピエール・マルコリーニはキャラメルのショコラが美味しい。ウィスキーボンボンのように、噛むとキャラメルの香ばしさが口の中に広がる。後味はあまりなく、癖のないショコラ。
どれも味付けや香り付けはとてもシンプルで、一粒は小さめだけれど、全てが芸術作品のように精巧につくられている。

もちろんキャラメル以外のものも丁寧に仕上げられている。店の名前を冠したピエール・マルコリーニは特に感動的な味の深さがある。
ただのダークチョコレートやミルクチョコレートだけでも他のチョコレート・ブランドとは違う深みのある味を感じる。

食べるとうっとりする。そんなショコラ。

ふた口で食べようとするとキャラメルがこぼれたり、まわりのチョコレートが砕けたりする。食べるときはひと口で食べた方が良い。


エスカルゴは名前のとおりかたつむりを形どっている。女性の中には生理的に受け付けない人もいるので、プレゼントするには注意が必要。
しかし食べてしまえば非常に美味しいチョコレートなので、説得は簡単だろう。

GODIVA

ゴールドコレクション8粒入 / GODIVA


有名なゴディバのチョコレートでも人気の高いショコラを集めたギフト・セット。外装にも堂々とした風格がある。
チョコレート・ブランドとしては可成り有名であろうゴディバなだけに、誰に贈っても喜ばれること間違いなし。

伝統のプラリネだけでなく、ホワイトチョコレートや板チョコレートが入っていて、十分過ぎる程ゴディバを堪能できるセット。
特にキャラメルが嬉しい。ふつう柔らかめのキャラメルをつかうことが多いように思うが、ゴディバではあの粘りある食感の所謂「キャラメル」が入っていて、どこか懐かしい風味を味わえる。


2粒くらいのセットでもゴディバの迫力あるチョコレートならば十分満足できる。何人かで食べたり、ゴディバが好きであれば多めのセットを購入したら良いだろう。
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HENRI LE ROUX

コフレ・ビズ / HENRI LE ROUX


箱に大きなリボンがかけてあり、かなり乙女チックな装丁となっている。それも赤い箱に薄ピンクのリボンだから、男が買うのには多少の思い切りが必要。

しかしアンリ・ルルーというチョコレート・ブランドは味も負けずに乙女チック。
これはもうただのチョコレートではない。小さな一粒の中に、ケーキやデザートと同じくらいのアイデアや手間がかけられている。味に広がりがあるショコラ。ぜひゆっくり味わいたい。

コーヒーやマロンという、言ってしまえばそれほど捻りはない素材を、ここまで丁寧に一粒のショコラとして仕立てられるチョコレート・ブランドないくつもない。

子供にパクっと食べられるとショックを受けるだろうと思う。或いは小腹が空いた時にバクバクっと食べてしまったら後悔するだろうと思う。


ちょっとゴージャスで、それでいて乙女心を忘れていない女性のようなショコラ。
そんな繊細な乙女心を理解してくれる人と食べることをお勧めする。

Michei Chaudun

ショコラアソートP / Michel Chaudun


伝統あるチョコレート・ブランドなので、安心して購入できる。アクセサリーが入っているかのような外箱に、チョコレートが収めされている。

ミッシェル・ショーダンらしい甘さと苦味のバランスがよい、余計な香り付けがないストレートなチョコレート。
楽しい食感や驚くような味の組み合わせはないが、チョコレートという食材を知り尽くした職人的ショコラと言える。チョコレート好きには堪らない。

個人的に、チョコレートの裏に刻まれているMichel Chaudunの文字がとても好き。職人が自らの作品に刻む『銘』のようだから。


“時には愛の言葉より甘く、時には人生の苦悩より苦い”、そんなミッシェル・ショーダンの言葉どおりのショコラは、チョコレートを愛する人に贈りたい。
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Foucher Observatoire

天使の恋心 / OLYMPUS CUPIDON


惑星をイメージしたチョコレート。外装や箱の中にも美しい宇宙をイメージしたものがプリントされていて、見ると印象的で記憶に残る。

チョコレートはカラフルにコーティングされていて、日本人の感覚としては少し警戒心を覚える。それくらいカラフル。
6粒のチョコレートはそれぞれ味付けが異なっている。見た目とは違っていたって普通のチョコレート。どの香りも万人受けしそうなところは、さすがフーシェ・ジャパンのショコラ。


子供へあげると、将来クレヨンやおもちゃを誤飲させてしまいそうなカラフルなチョコレートなので、宇宙が好きな大人にプレゼントできれば最高のギフトになると思う。

Compartes

オリジナルトリュフ3個入 / Compartes


コンパーテスは独特の香り付けをしたチョコレートを売っているチョコレート・ブランド。しかしこのセットではオーソドックスな味付けのものが揃えられている。

サイズや食感がほどよくとても食べやすい。甘めのトリュフなので、特に甘い物好きにお勧め。
見た目に反して味はとても落ち着いている。香りが独特な材料を使っていても、チョコレートとのバランスがとても良く調和が取られるようにつくられている。


表のプリントがドクロになっているが、色合いが明るいので却ってポップに見える。若い人へのプレゼントには良いかもしれない。
意外性や奇抜さを楽しんでくれる人と食べたいチョコレート。

陰陽師/現代パロディ/摂理

※夢枕版 陰陽師
※妄想設定
※晴明に片想いする博雅




「やっぱり月は見えないな」

博雅は窓枠に切り取られた景色を見上げながら言った。止んだ雨が未だ霧のように漂って辺りを霞ませる夜である。窓が開かれているため博雅の服や頭髪までしっとりと水気を含んでいる。

晴明は口元に笑みを浮かべて博雅の言葉を黙って聞いている。そして音もなく酒を一口飲んだ。

「いくつに成ってもお前とこんな風に会えたら良いな」

博雅は誰に言うともなくそう呟いた。

開いた窓から冷えた風が吹き込んで博雅は身震いした。もう11月も終わる頃である。サッシに手を掛けると外気よりも冷たく思える。

「寒いか、晴明」

博雅は気遣うように晴明に振り返った。そう言う博雅の方が指先も可成り冷たいのだが、当人は気にしていないようである。

「冬は寒いものだ」

晴明は血を舐めたように赤い唇に再び酒を運んで答えた。確かに鼻先を赤くする博雅よりは、寒いと思っていないらしく見える。

博雅は晴明をじっと見てから再び夜空を見上げた。

「秋も終わって、もう冬だなあ」
「そうだな」
「先生方がまたお前の噂話をしてたよ」
「ほう」
「お前は愛人との関係をどうにかするのが上手いとか言っていた」
「ほう」

晴明が笑っているのを見た博雅は顔を顰めた。

「褒められてるのに。嬉しくないのか」

晴明は酒を飲む手を止めて博雅を見た。切れ長の目が迷いなく博雅を真っ直ぐに見ている。

「『アレ』は褒め言葉とは違う」
「だったらなんだ」
「呪だよ」

晴明の目は妖狐のように細められた。

博雅には晴明のする『呪』の話しがよく分からない。それは薄ぼんやりと理解できることもあるが、しかしその次の瞬間には何処かへ消えてしまう幻影のように不確かな理解でしかない。

「お前は素直じゃない」

呆れたように博雅が言っても、晴明は素知らぬ顔でまた酒を呑むだけだ。

「晴明」

博雅の声が突然真剣味を帯びた。晴明は「なんだ」と答える替わりに視線を寄越す。

「時々は素直になれよ」

博雅の声には迷いも飾り気もない。いつも実直で他人にも自らにも偽るところのない博雅らしい声音だ。真っ直ぐで泰然として聞く者に安心感を覚えさせるその声には、それ故に博雅の思いに反して責めるような語気を含むこともある。

晴明は言葉にできない後ろめたさを感じた。

「お前のように?」

晴明は苦し紛れに茶化してそう答えた。

博雅は晴明がいつものように話しを逸らしたのだと気付いてむっとした。最近では博雅は自らの気持ちを隠さなくなった。しかし晴明が博雅の気持ちに答えようとしない理由もよく理解している。

「誰か来るの?」

博雅は窓を閉めながら進展の見えない話しを終わらせて机に無造作に置かれたワインに目をやった。

「ああ、これ」
「良いワインに見えるけど」
「うん。お前と飲もうと取っておいたものだからなあ」
「それで。誰か来るのか」

博雅はある少女のことを思い浮かべた。

いつも男物の服を着ている少年のような少女だ。外見が丸で少年だったので彼女を初めて見た時博雅はすっかり彼女を男だと思い込んで世の中には美しい男が居るものだなと驚嘆した。

後に彼女が女であることを知る。

晴明の口から聞いたのだから間違いない。

知らない方が良かった、と博雅は思っている。彼女は完璧に晴明の好みだからだ。晴明はあの女に惚れたんだ、とふと思ったりする。

彼女は名前を露子と言っていた。

身上確かなご令嬢なのに飾り気がなく雑草が伸び放題になっている晴明の家の庭を「好きだわ」と言って散策していた。博雅の知らない草木や虫の名前もよく知っていて晴明も嬉しそうに彼女と話していた。

露子様が来るのか。

自然と博雅の表情は固くなった。

「来ると言えば来る。来ると言っていたからな」

晴明は何か思い出すように曖昧に答えた。勿体振った物言いはいつものことだけれど博雅にはいつものことでは済まされない。

「ならば俺は帰る」
「は?」
「お前はその酒を、その人と飲め」
「何か用事でもあるのか」

博雅は少し考えてから「あると言えばある」と答えた。

「そうだったのか。では日を改めてまた呑もう」

晴明の提案に博雅は言葉を詰まらせた。

「いつにする」

晴明は素知らぬ顔で言葉を続けている。

「本当は今日が良かったが、仕方ない。お前が駄目なら仕方ないな」

博雅は胸が苦しくなった。きっといつものアレを言われるのだと分かったからだ。博雅は晴明のその自覚があるのかないのか分からないところを恨めしく思うこともあるがその一言で舞い上がる程嬉しくなる自分の単純さを知ってもいた。

「博雅が居なければ詰まらないからなあ。あのお方にはお帰り戴くことにするよ」

晴明はそう言って酒を一口飲んだ。

赤い口元は平静と変わりなく微かに微笑している。

「詰まらないな。今日はお前と一緒に見たいものがあったんだよ。素晴らしいものだからお前と一緒にと思っていたんだけど」

晴明は確認するように博雅を見た。

博雅はこういう時に確信する。

季節が巡るように、人が生まれて死ぬように、自らの感情も自然の摂理なのだ。

博雅は晴明に惚れていた。

「嘘だ」
「は?」
「さっきのは嘘だ。悪かった」

博雅は心底申し訳なさそうに言って頭を下げた。

晴明は博雅の下げられた頭を眺めてくすりと笑った。博雅の謝罪の意図は分かるような気もしたが本当のところは分からなくても答えを知る必要はないだろうと思った。

晴明は博雅の実直なところを尊敬もし羨みもしている。

「いいさ。それより行こう」
「何処へ」
「良いところだ」
「え」
「なんだ。行かないのか」
「そうは言ってない」
「ならば行こう」
「おう」
「行こう」
「行こう」

そういうことになった。

博雅は複雑な心境だったが、楽しげな晴明の表情を見てそんなものは何処かへ行った。博雅は晴明に惚れていたからだ。




【摂理】
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Michel Chaudun

ショコラアソートS / Michel Chaudun


小さな箱にショコラが2粒だけ入っている。箱を開くと中が金色になっていて安っぽさはない。
ミッシェル・ショーダンのボンボンショコラとトリュフが入っているということで初めて食べるのに良い。

甘みは控え目で大人向けの味付けになっている。1粒が大きいのでしっかりと味わえる。ふんわりとした食感でかなりオーソドックスなタイプのショコラ。
高めの室温に戻して柔らかくしてから食べるとより良い口溶けになる。

チョコレート好きにもプレゼントできるクオリティで、かつチョコレート・ブランドには興味がない人へ贈ってもちょっとしたギフトとして適している。

ECOLE CRIOLLO

インスピレーション / ECOLE CRIOLLO


エコール・クリオロは赤やオレンジを基調としていて、温かみのあるチョコレート・ブランド。
外装はとてもシンプルでその鮮やかな赤色のわりに派手さはない。

インスピレーションは、まず箱を開いた時にチョコレートがとても自由に配置されていることに驚く。外装がシンプルなだけにそれは本当に意外性が高い。
食べてみるとその味も劣らず自由である。
おそらく素材やテーマによってチョコレートの加工から大きさや形状、仕上げまで個性が非常に強くつくられていて、それぞれのショコラは全くの別物と言って良い。

ブランドとしての味を追求する他ブランドとは一線を画している。
インスピレーションの閃きや喜びがこのギフト・セットには詰められている。


味はどれも甘味が強いが、食感や香りなどの演出の違いでくどさはそれほど感じない。とは言え、甘いチョコレートが苦手な人にプレゼントするのは避けた方が良い。

Mont St. Clair

ボンボンショコラ6 / Mont St. Clair


装丁が素敵なチョコレート・ギフト。洋書のような外箱を開くとパティシエの辻口さんの言葉とともにチョコレートが現れる。
チョコレートは立方体に近いキューブ型。外見はシンプルでこだわりはないようだけれど手に取ってみるとどこか可愛らしい形をしている。

名前こそモンサンクレールと冠しているが日本人のつくったチョコレートと感じる馴染みのある味がする。バター系の舌触りが強い。
正直、こだわり抜いた口溶けや香り付けとは思えないが、値段と安心感と素晴らしい装丁というバランス感覚はある。


ちょっとした時の贈り物や、プレゼントと合わせてのギフトには最適。

九鬼 瑞穂/ ちっぽけな矜恃

俺は綺麗なものが嫌いだし傲慢な人間が大嫌いだ。伊佐木賢太は綺麗でいて傲慢なのだから俺にとっては最悪の存在だろう。

「嫌なら付き合うことねえよ」

秋津は吐き捨てるように言った。

俺の嗜好を把握している秋津はその上でそう言ったのだと思う。綺麗事だらけで傲慢な伊佐木は俺が交際する人の中には居ないタイプの人間だ。できればかかわりたくもなかった。

しかし俺は伊佐木が憎めないでいた。

伊佐木は悪意というものを持っていない。

「秋津こそ、俺に付き合うことないよ」

ここのところ俺は伊佐木に勉強を教えている。授業の後に1組の教室に行くと伊佐木が眞木と教科書を広げて待っている。それを見てしまうと俺は彼らを裏切れなくなってしまう。

自分の勉強もあるのだけれど、彼らと居るのは苛立つのだけれど、秋津はその所為でここのところ不機嫌なのだけれど、俺にとっては少しもメリットがないことのようなのだけれど、しかしそれでも俺は1組の教室へ向かってしまう。

必要とされているからだ。

彼らが俺を待つからだ。

嗚々、こんなちっぽけな矜恃なら、捨ててしまいたい。

「俺は、あいつらと友達だったんだよ」

秋津は突然そう呟いた。

「知ってる」

むしろ俺は彼らと友達である秋津しか知らなかった。同じクラスになってとても厭な心地がした。話し掛けられた時は秋津が想像するよりも深刻に嫌悪した。

彼らは強いる。

彼らは上で嗤い俺は下を這う。

「キュウが嫌だって言えば、あいつら逆らえねえよ。俺だって、お前がそう言えば、簡単なんだ」

『簡単』とは。

嫌いだからさ、なんで一緒の時間を過ごすんだろうって思うこともある。

大嫌いだからさ、話し掛けられただけで暴力的な衝動に駆られるこももある。

でもこれは『簡単』なことでは決してない。人間の感情は並めてそうだろう。彼らにしたってそうだろう。

「嫌じゃないよ」

それは流石に嘘だけど。

秋津は不満そうに俺を一瞥して、さっさと荷物を持って教室を出て行った。

「切り札は取っておくよ」

俺は秋津に言ったけれど聞こえていなかったと思う。教室に残っていた何人かは俺を見たけれど直ぐに興味無さそうに視線を参考書や問題集に戻した。

俺も少し前まではそうだった。

寄り道せずに歩いて来た。

俺には最短距離が見えていた。他人には苦しくて詰まらない道を進んでいるように見えてもそれが最後には一番楽な道程だと思える確信があった。

今は迷っている。

地図を見れば正しい道は直ぐに分かるのだけれどそうしないでいる。

酒を飲んだみたいに浮かれてふらふら揺れながら鼻歌交じりに寄り道している。

伊佐木が俺を見て笑うとさ、それは俺にはなんだか甘い誘惑だと思えるんだ。必要とされるのって嬉しいんだよ。俺は知らなかった。性欲の薄い俺にとってはそれが性的快楽にも劣らないものだと思えた。

俺は今日も1組に行く。

伊佐木は今日も俺を待っていた。


【ちっぽけな矜恃】

DEBAILLEUL

Effeuillage / DEBAILLEUL


それぞれのチョコレート毎に味のコントラストが鮮やかで、子どものおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがある。比較的平たく形成されているのでパリパリとした食感がより強調されている。
ダークチョコレート、アールグレイのガナッシュ、キャラメル、ヘーゼルナッツのプラリネ、ホワイトチョコレートと、代表的なチョコレートがしっかり入っているので、初めて食べるならこのギフトセットは最適。

ストレートな味付け、香り付けになっているため、チョコレートにこだわりがあり、奇抜なものを選びたい人には物足りないかもしれない。


ドゥバイヨルは万人受けするので、どんな人へも安心して渡せるチョコレート・ブランド。ダークチョコレートは苦味が強くミルクチョコレートは甘味が強いので、いくつか食べると口の中がバランスよく落ち着く。子どもから大人まで楽しめる。

Michel Belin

Chocolat Albi / Michel Belin


パッケージが少女趣味だったので、味もそのようだろうと思っていたが、違った。ガナッシュが美味しいチョコレート・ブランドで、どれも甘みは控え目。
アニス、すみれ、甘草は特にミッシェル・ブランらしい味だろうと思う。花の香りがしっかり馴染んだガナッシュを苦味の利いたチョコレートで包んでおり、見た目の派手さはないけれど納まりがよく洗練されている。

恋人と食べるというよりは、もらったら一人でゆっくり食べたい味。コーヒーやお酒よりは、紅茶に合いそうな香りを楽しむチョコレート。


少女趣味で可愛らしい包装と裏腹な繊細で奥深い独特のチョコレートは、女性そのもの。味覚音痴はもとよりがさつな人や甘いチョコレートが好きなだけの人へのプレゼントにはお勧めできない。
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