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モンハン学園/部活動はいかが?

空が青い。こんな天気のいい日には警察も元気に働きやがるだろうから胸やけがする。

「よお、風邪引くぞ」

この声は。

「またてめぇか」
「もっと良い挨拶の言葉を知らねえのか」
「知らねーよ。近寄んな」

ジンは「はは」と鷹揚に笑った。

「君のこと探しちゃったよ。こんなところで寝てるとは思わなかった」
「なんだよ」
「睨むなって」

ァア?

「来んな。近寄んな。用があんならはっきり言え」

「冷てえなあ」と言いながらジンはへらへら笑っている。翡翠の瞳は優しく細められているが、それは獲物を弄ぶ残忍な光を持っている。本能が、拒否する。

「君って部活に入る予定ある?」
「“ブカツ”?」
「バスケとか野球とかやりたいことあるかってことだよ」
「ああ、『部活』か」
「もしくは入りたい委員会とか」

ジンは起き上がった俺の横で顔を覗き込んできた。黄金の髪がさらりと揺れた。

「ある」
「え、あるのか」

なんだよ。

「あっちゃ悪いか」
「悪い。意外だったから。何、どこ?」
「知らねえ」
「何がやりたいんだよ」

そういうことじゃねえよ。

でも興味はある。

「『煙草撲滅委員会』」

ジンはそれを聞いてちょっと考える素振りを見せてから合点がいったように「ああ」と言って一段と大きな声で笑った。


【部活動はいかが?】

明日ありと思う心の仇桜

あの日、アスカの腕には赤ん坊が居た。俺にはそれがなんなのかよく分からなかった。自分のものなのか、本当に生きているのか、この先どうなるのか、明日になったらどうなるのか。

俺は死にたい。

きっと明日にでも死ぬと思う。

「誠也、蓬だよ。お前の子ども」

兄貴はそう言った。いつもの曖昧で甘ったるい笑顔で。

蓬の肩に置かれた兄貴の手が俺には妙な違和感を感じさせる。

あ、そっか。

兄貴が俺以外の人間に優しくしているのを初めて見た。俺を呼ぶ時はいつも蓬をどこかへ遣っていたし、てっきり俺以外の人間には興味がないのだと思っていた。

「こんにちは」

俺が言うと蓬ははっきりした声で「こんにちは」と返答した。

「上がって。お前をこの家に上げるのは久しぶりだ」

この家は兄貴が買ったもので、あの頃俺たちはここをたまり場にして遊んでいた。金を湯水のように使う兄貴がほとんど唯一捨てずにいるのが、その、この家だ。

玄関にはスリッパが並んでいる。

こうしていると普通の家のように見える。兄貴と蓬も普通の家庭の親子みたいに俺を迎え入れようとしている。

なんか、変な感じ。

「デカいな。俺が蓬を作ったのいつだっけ」

俺はスリッパに足を通しながら言った。

兄貴は先導するように廊下を少し先に歩いてリビングへ案内した。

「蓬はもう21歳だよ」
「ああ。そんなに前?」

蓬は会話する俺たちの後ろに黙って立っている。その真っ直ぐ俺のことを見てくるところがアスカに似ている気がする。蓬を抱いて俺に会いに来たアスカは、やはり真っ直ぐ俺のことを見ていた。

「俺ももう49歳だよ。初老だね」

兄貴は笑って言った。

「そうは見えない」
「そう、ありがとう。お前ももう36だな」
「そっか、36?」

俺ってもういい年じゃん。

「自分の年忘れてたの?」
「兄貴、誕生日は祝ってくれるけど、何歳って言わねえから」

促されるままソファに腰を下ろすと、兄貴は昔のように隣には座らなかった。兄貴の隣には蓬がいる。

なんか、違うんだよなあ。

兄貴はにっこり笑っている。俺だけを見て俺だけを愛していた兄貴が、女の肩を抱いて笑っている。

なんか。

違う。

「誠也はさあ、蓬のこと、なんとも思ってないの?」
「うん」
「お前の子どもだよ」
「うん。それが?」

なんて思えばいいんだろうか。

「お前は昔とは違うんだよ」
「兄貴、どうしたの。蓬を養えっていうんじゃないんだろ。就職が決まったって言ってたと思ったけど」
「それは、もちろん、そんなこと言いに来た訳じゃない」
「兄貴、おかしいよ、今日」
「親父が死んだ」

え?

「あ、そうなの」

知らなかった。当然か。

「よかったな」
「うん。いや、良くはないでしょ」
「親父のこと死ねばいいって思ってたんじゃないのか」
「どうかな。そうだったかも」
「親父、死んだんだよ。肺炎で」
「うん」
「誠也、」
「なんだよ」

兄貴の目はぼうっと宙をさ迷った。いつもとは何もかもが違う気がする。

「今日は昨日とは違う日になった」

何言ってんの。

「違う。親父が死んだって何も変わらない」
「今日は昨日とは違う」
「同じだよ」
「違う。昨日とは全然違う」
「なんだよ。親父となんかあったの」

兄貴がおかしい。

俺にどうしろって言うんだよ。

「お前が居てよかった。お前が来た日、お前が笑った日、俺は今でも忘れられない。親父はお前を殺すんじゃないかと思ってたけど、お前は生きて、親父が死んだ」
「何、言ってんの」
「お前は蓬を殺すんじゃないかと思ってたし、親父も絶対に許さないと思ったけど、蓬はちゃんと生きてる」
「うん」
「お前、まだ死ぬなよ」

兄貴が言った。

泣きながら言った。

「分かんない。死ぬかもしれないよ」

そんなの神様が決めることだろ。俺が死にたいと思わなくても突然そうなるってこともあるだろう。

兄貴は顔を歪めた。

「そう思うなら、今日を真っ直ぐ生きろ」

兄貴の言葉は俺には全く理解できなかった。



曰く、“明日ありと思う心の仇桜”。
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レクイエム/ピノ

中庭で歌われているのは、神へ捧げる聖なる賛美歌だ。身体中に疼痛があって俺が教室に倒れている時、その歌はいつも俺を踏み付けた。


【Introit et Kyrie】


世界中が死者で充たされている。だから歌う、死者のために。だから歌う、死に行く我々のために。


---------------

Requiem aeternam dona eis,
Domine,
et lux perpetua luceat eis.
Te decet hymnus,
Deus, in Sion,
et tibi reddetur votum in Jerusalem;
Exaudi orationem meam,
ad te omnis caro veniet.
Kyrie eleison.
Christe eleison.
Kyrie eleison.

---------------


助けて!

誰かが俺を助け出すのだと思っていた。それは弟か、友人か、教師か、或いは神か。きっと俺を助け出してくれるのだと信じていた
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足を抜く

蛍悟兄さんを追い返すのは一苦労だ。金曜日の夜にふらっと現れてから日曜日に帰らせられれば及第点で、土曜日の内に帰らせられれば奇跡。

そうして現れた兄貴が何をするのかと言うと、何をするということもない。強いて挙げれば、家事をする。

掃除したり買い物したり色々と世話を焼く癖に会社帰りのスーツ姿で俺のところに来るから服を貸したり寝床を分けたり手間が掛かるのが難点。

長男なのに、分かりにくい。

俺は昔から人の考えていることを直ぐに理解できる方だったけれど、蛍悟兄さんだけは例外だ。理解不能。予測不可能。するだけ不毛の解釈不要。

「おかえり、蛍佑。遅かったね」

現在は金曜日の午後9時17分。

「また来たのかよ」

俺が探して俺が住民票を置いて住んでいる俺の部屋に、なぜエプロン姿の蛍悟兄さんが居るのかと言うと、蛍悟兄さんは管理人と顔見知りになるくらいここを訪れているからだ。

「寒かった? 紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「そのエプロンどうしたんだよ」

見覚えがない。

鮮やかなオレンジの布地に、よく見れば小さなハートがいくつかプリントされている。新婚の家庭には喜ばれそうなお洒落なそのエプロンは、しかし俺の部屋には全く需要がない。

「ちょうどよかったから」

蛍悟兄さんははにかんでエプロンの裾を摘んだ。

……。

靴を乱雑に脱いで寝室に入るとホテルにチェックインしたのかと紛う綺麗さだった。

「キモい」

キモいキモいキモいキモい。

鞄と脱いだコートをベッドに投げ付けてみてもまだ足りない。綺麗過ぎる。上げた足に布団を引っ掛けて床に引き擦り落としてみた。鞄も巻き込まれて音を立てて床に落ちた。

「蛍佑、どうした!?」

蛍悟兄さんはエプロンを外していた。

「気持ちわりー」
「飲んで来たの? 大丈夫? いま水持って来るからちょっと待ってて」
「要らねー」
「具合悪いの?」
「あのね、兄貴が、気持ち悪いの」
「……え」
「来てくれんのは嬉しいよ。でも勝手に上がってあちこち触るのは止めて。お願いだから」

俺は切実に頼み込んだ。

大切なお願い、というやつだ。

「ごめん」

蛍悟兄さんは動揺して後退した。ドアにぶつかって踵を痛そうに庇った。

あーあ。

いつもこうなんだよな。

「兄貴」
「ほんと、ごめん」
「兄貴、俺の言ったことちゃんと聞いてた?」
「うん。ごめん」

困るんだよ、兄貴のその顔に俺はとても弱いんだからさ。

「来てくれんのは嬉しいよ。あの家には簡単に戻れないからさ、兄貴たちから来てくれんのは、すげー救われる」

蛍悟兄さんにあんなところを目撃されて、もう前と同じように接してはくれないだろうと覚悟した。不用意だったからバレたけど、隠して来た中身は結局同じものなのだから、あの反応は純然たる彼らの本心。

だからあの時のそれでおしまい。

いつかはこうなるものだったと割り切るしかない。それが事故だろうと告白だろうと核心のところは同じだ。

俺はあの甘ったるい世界から出る決意をした。あの時俺の身体から自由を奪っていた手錠は、俺には家族そのものだった。

あそこは息苦しい。

俺は望んで家を出たのだし、家族も俺を受け入れる積もりはないだろう。それが互いにとっての最善策。

けど違った。

兄貴たちは優しい。

「お前、そろそろ、」

蛍悟兄さんが俺に何か言おうとした時、インターホンが鳴った。モニタを確認すると蛍路兄さんが写っていた。

俺が「どうぞ」と言ってエントランスのドアを開けると、蛍路兄さんはカメラ目線で破顔した。

「兄貴来た」
「うん、見えたよ」

蛍悟兄さんは眉根を寄せて難しそうな顔をしている。

「げっ。兄貴いたの?」
「何、その反応」

蛍路兄さんは蛍悟兄さんに大袈裟に悪態をついた。

「止めてよー。俺と蛍佑の愛の時間に入り込まないでー」
「何言ってるの?」
「兄貴のってー、長男だからっていう事務的な愛情じゃーん。俺のとは違うじゃーん」
「はい?」

蛍悟兄さんは本気で苛立っている。

「喧嘩は外で」

俺がそう言って二人の背中を押すと、二人とも急に態度を柔らかくした。

「うそうそ。挨拶代わりの軽いジョークだよ」
「ごめん」

めんどくせー。

「これお土産ねー。蛍佑にー」
「ありがとう」

紙袋の中にはチョコレートが入っていた。たかだかチョコレートに不釣り合いな品のある箱には丁寧にリボンまで掛けられている。

「兄貴、そういうことだから。帰って」

蛍路兄さんは微笑んだ。

家族さえめろめろにするその微笑みは、しかし蛍悟兄さんにだけは通用しない。蛍悟兄さんは何かを堪えるようにして笑い返した。

「二人ともいい加減にしろよ…」

そこでインターホンが鳴った。モニタには蛍が映っている。

「げっ。蛍じゃん」

蛍路兄さんが呟いた。

「弟にまでそんなこと言ってんの?」

蛍悟兄さんが呟いた。

ほんとに、いい加減にしてくれよ。

「ちょっと見てくる」

俺はそう言って軽く出掛ける準備をした。コートを羽織って財布と携帯をポケットに突っ込む。

「どこか行くの?」
「うん。蛍と約束してて」
「俺も行くー」
「駄目だよ。蛍が先約なんだから」
「それは……」

蛍路兄さんは黙った。それは了承の沈黙ではなく、反抗の沈黙だった。

「二人とも、いつもありがとう。いつ戻るか分からないから、帰るならこのスペアキー使って、ポストに入れといて」

外に出ると、裏口からそっと抜け出した。

兄貴たちに加えて弟の相手までしてらんねー。



曰く、“足を抜く”。
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足を重ねて立ち、目を側だてて視る

未だ10歳にも満たないその少年は世界の全てを憎んでいた。少年の世界は母と血の繋がらない父と種違いの弟とで完結していたのだから、彼らに虐げられることは世界に虐げられることと相違なかった。

必定、少年は孤独だった。

少年は世界を愛しく思おうとしていたけれど、必死に求めて隷従したけれど、突き堕とされた先が如何なる地獄だろうと耐えたけれど、何一つも報われなかった。

それが宿業。

初めてその少年と相対した時、少年は背を丸め俯き身体を小さくして私をちらちらと盗み見た。子どもらしさの無い猜疑心に満ちた臆病な瞳は、長く見ていられない厭な感じを覚えさせる。

少年は何時裏切られ破壊されても良い様に構えていた。



曰く、“足を重ねて立ち、目を側だてて視る”。
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足を上げる

俺が悪い。

俺は悪くない。

俺は努力した。

俺の努力は限界を迎えていたか?

彼を呼んだ時の俺の声は、入社面接の時以来の震えだった。彼は悟ったように机を片付け荷物を抱えて席を立ち、俺は肩を張って澄ました。



曰く、“足を上げる”。
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モンハン学園/Fall in Love

天使を見た。

放課後、本校舎から第一体育館へ続く渡り廊下から少し逸れて裏に入った体育館の北側。

「クズが煙草吸ってんじゃねぇよ」

天使の足元には男が二人倒れている。何かが焦げたような異様な臭いはそのうちどちらからかに違いない。

ああ、天使だ。

天使が俺を見た。

「見てんじゃねぇよ。って、お前か」
「クラスが分かったから伝えに来た。1年2組だった」
「お前、1年だったのかよ」
「そっすね」

ナルガはくすりと笑った。

「なんだ、少しは敬語知ってんじゃねーか」

ナルガは手に持っていたライターを草むらに投げ捨てた。そして倒れている男たちには目もくれず、軽快にその場を離れていく。


【Fall in Love】


俺の脳内には教会の鐘がガンガン打ち鳴らされて頭痛がするくらいだった。雷に打たれたような甘い衝撃、心肺蘇生に似た恍惚の電気ショック。

恋だ。

ラブだ。

少女マンガは読んだことないけど、ヒロインの女が恋に落ちる瞬間ってこうなんだろうなと思った。

ナルガの笑顔、マジで天使。

生きたエンジェル。

「お前の気持ちは、分かった」

月9ドラマのようにナルガを優しく抱擁した。しようとした。けれどそれは叶わなかった。

「死ねよクズ!」

ナルガの左ストレートは目にも止まらない速さで俺の頭を殴り付けた。それから右の拳で抉るようなボディブローを2発、最後の回し蹴りで俺のハートはすっかり陥落した。ついでにボディも陥落した。

これは恋の落雷?

くらくらする。

目が覚めた時、じめっとした体育館裏で、俺は一人で転がっていた。

足を翹げて待つ

場所は山手線の目白駅。

時間は午後1時43分。

言う。今日こそ必ず言う。

待ち合わせは午後2時に目白駅。間違いない、午後2時に目白駅。先週したメールをもう一度確認して、大丈夫、午後2時に目白駅。



曰く、“足を翹げて待つ”。
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